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カテゴリ:書評
若い人が大統領就任式で朗読 作歌 村上 政彦
ゴーマン「わたしたちの登る丘」 本を手にして想像の旅に出よう。用意するのは一枚の世界地図。そして今日は、アマンダ・ゴーマンの『わたしたちの登る丘』ですが、これが大した作品なのです。 世界情勢に詳しい方なら記憶しているかもしれませんが、2021年1月、アメリカ合衆国のバイデン大統領の就任式が盛大に執り行われました。その時、朗読されたのが本作なのです。 「朝が来るたびに、わたしたちは自問する。 どこに光を見出せるというのか? この果てなくつづく暗がりに。 わたしたちの抱える喪失、これからわたる荒波に。」 これが冒頭の一節です。朗読したのは22歳の若い女性。いわく——。 「痩せっぽちの黒人の少女、 奴隷の末裔にしてシングルマザーに育てられた娘」 これはアマンダ・ゴーマン自身のことです。彼女は黒人であり、教師のシングルマザーに育てられた。 大統領の就任式で詩を朗読する人物としては、史上最年少で、本作の単行本は全米で100万部も売れたそうです。そして、名門ハーバード大学を卒業しています。 この若い詩人の才能に注目したのは、大統領夫人のジル・バイデン。バイデン夫人から詩を依頼したといいます。 翻訳を担当した鴻巣友季子さんは、私が信頼する翻訳家の一人で、文学の目利きでもあります。 鴻巣さんは、本作の核になるメッセージを「アメリカ国民の団結であり、絆」とし、船体として「己の苦難を直視するところから、力強く歩みだし、未来を切り開こうとする詩」と読みます。 書き出しは確かに厳しいが、続けて読んでいくと、このような一節が……。 「かつてわたしたちは自問した。どうしてわたしたちが、 惨禍に打ち勝てるというのか? 今のわたしたちには断言できる。このわたしたちが 惨禍に打ちのめされるはずがないと。」 力強い言葉です。明るい言葉です。 「わたしたちは建て直し、歩み寄り、立ち直る、 この国で知られるあらゆる場所で、 わたしたちの国と呼ばれるあらゆる片隅で、 多様でありながら実直な国民たちが。 わたしたちは押しひしがれてもみごとに身を起こす。」 詩の結びは——。 「光はきっとどこかにあるのだから。 私たちに見る勇気さえあれば、 わたしたちに光になる勇気さえあれば。」 自身が光となれ!と呼びかける詩人は、大統領選に出ることを目指しているそうです。 [参考文献] 『わたしたちの登る丘』鴻巣友季子訳 文春文庫
【ぶら~り文学の旅㉕海外編】聖教新聞2023.5.10 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
July 15, 2024 08:04:04 PM
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