からまつそう

2009/10/19(月)15:36

獣の奏者 3探求編・4完結編 (上橋菜穂子)

本(124)

獣の奏者 3探求編・4完結編 (上橋菜穂子 著 浅野隆広 装画 2009年8月10日第一刷発行 講談社) あの〈降臨の野〉での軌跡から十一年後―。 ある闘蛇村で突然〈牙〉の大量死が起こる。 大公にその原因を探るよう命じられたエリンは、〈牙〉の死の真相を探るうちに、歴史の闇に埋もれていた、驚くべき事実に行きあたる。 最古の闘蛇村に連綿と伝えられてきた、遠き民の血筋。 王祖ジェと闘蛇との思いがけぬつながり。 そして、母ソヨンの死に秘められていた思い。 自らも母となったエリンは、すべてを知ったとき、母とは別の道を歩みはじめる……。(探求編、カバーより) 王獣たちを武器に変えるために、ひたすら訓練をくり返すエリン。 ―けっしてすまいと思っていたすべてを、エリンは自らの意志で行っていく。 はるか東方の隊商都市群の領有権をめぐって、激化していくラーザとの戦の中で、王獣達を解き放ち、夫と息子と穏やかに暮らしたいと願う、エリンの思いは叶うのか。 王獣が天に舞い、闘蛇が地を覆い、〈災い〉がついに正体を現すとき、物語は大いなる結末を迎える。(完結編、カバーより) 図書館の返却日が来てしまったので簡単に… 獣の奏者の探求編、完結編を読みました。 闘蛇編と王獣編を読んでから随分経つのでそちらも読み返したかったのですが、貸出予約が詰まっていたので(アニメ効果でしょうか?)微かに残る記憶を頼りに… 王獣編の最後は重く暗く不安だった印象が残っています。 エリンはたとえ功績が認められても自由に暮らす事は許されないでしょうし、軽くはない怪我を負いましたし… そして新しい真王となったセィミヤも大公となったシュナンも単純に喜べなかったでしょうし、民もまた期待と同時に不安を感じたでしょうし… そして探求編はかつて真王の護衛し「堅き楯(セ・ザン)」を務め〈神速のイアル〉と呼ばれていたイアルの手記から始まりました。 エリンも恋をし結ばれ子を授かり母に… カザルムの王獣保護場で王獣達を育てながら教導師として働くエリンと堅き楯を止め指物師となったイアル。 物静かな二人の子とは思えぬほどお喋りで元気一杯なジェシは小さな頃から母の背に負ぶわれて王獣達の傍で過ごす事が多かったためリランの子アルを姉の様に慕っている。 しかし王獣を竪琴一つで操る事が出来るエリンには完全な自由はなく、イアルとジェシとの穏やかな暮らしは何時まで続くかわからない。 現真王セィミヤが王獣を武器として使用しないと約束してくれてはいても、王獣が闘蛇を襲う様子はその場にいた人達にも見られてしまった。 ある日、闘蛇衆の村の一つ、トカラ村で牙が全滅。 かつてエリンの母がその責を負わされ殺された時の様に… これまで起こった牙の大量死の記録を見せ、調査を依頼する大公(シュナン) エリンは大公の側近らしいヨハルに護衛されトカラ村へ… 死んだ牙を解剖し原因を明らかにするエリンだが、何故起こるかまでは分からない。 家に残したジェシとイアル、そして間もなく交合飛翔するだろうリラン達の様子が気になるエリンだがヨハルからもう一つの村に行く事を提案される。 その村は最古の闘蛇村ウハル村。 今まで一度も牙の大量死は起こった事が無いという。 何故ウハル村では大量死が起こらないのか?牙になる育てる闘蛇の卵を採取する時点で見分けがつくのか? 卵の採取を自分の眼で見てみるとよいと長に言われたエリンは闘蛇衆の一人に連れられヨハルと共に川へ向かうが… エリンがリランを飛ばし争いを沈めた後、新生リョザ神王国は数々の苦難に見舞われていたようです。 あの何とも言えない不安は現実のモノとなっていたのですね。 大公領の領民の溜飲も一旦は下がったようですが、真王領の領民の不満、他国の干渉、作物の不作… 大公となったシュナンは外交にも力を入れ、それを妹のオリやヨハルの養子ロランは自分にできる方法で支えます。 しかし、共に立つべき真王セィミヤは自分の存在に自信が持てない。 神の血が流れていると信じていた時にはあった自信が今は… 三番目の子どもを宿し体調の優れない事もありますが、表に現れない真王にどちらの領民も不安や苛立ちが… 悪い事が重なる時には重なります。 他国では無かった筈の闘蛇を操る術。 決して外に漏れる事が無いよう辺鄙な場所に闘蛇村を作り、同じ闘蛇衆同士でも近隣以外の村の場所を知らされず、牙に育てる知識だけを継承させて来たというのに… 縛りが無い分、一旦始めてしまえば禁忌にされた事にも辿りついてしまう。 幾ら隠されていても到達してしまう事もあるのです。 牙の全滅についてエリンが調査した時、エリンは闘蛇衆には伝えられていなくても霧の民の知恵として継承されてきた秘密を解明しました。 調査を手伝ってくれた若者はエリンと一緒にいた事もありますが、もし闘蛇衆の掟などに縛られなかったら彼の探究心があれば自身で見つけていたかも知れません。 かつてそして今もエリン自身が自分で不思議に思った事を探求していったのと同じ様に… 霧の民から追放されたエリンの母でも命と引き換えにして守った禁忌であっても、そこに到達してしまう者もいるし、それは昔からそれに関わっている国の者とは限らないのです。 知識を与えぬ事で守る事も場合によってはあるかもしれませんが、知識を与えてこそ回避できる危険もあります。 常に自ら危険を示す事で教えてきたエリン。 エリンの方法はどうかと思うのですが、それでもジェシには嫌というほど伝わったとは思うのですよ。 エリンが選んだ母とは異なる道。明らかにし、見極め、伝える。 恐ろしい伝承が真実であるかどうかまでも検証し示す事を選ぶエリンは研究者であり教導師なのだと思いました。 そしてやはり…伝承には見る者により描かれ方や伝わり方は異なっても、意味がある。 ただの行事になってしまった事でも。 やっぱり容赦ない結末だなあ… 時間は短すぎましたが…研究者としては大きな事を為し得たと言えるかもしれません。 そして責任を全うしたと思います。 凝縮された一生で、見極める事も生きて帰って伝える事も…でもやっぱりもっと母や妻としての時間があったなら…と思ってしまいます。 エリンに寄り添って生きたイアルが良かった。 エリンの行き先を考え川に急いだ時も、闘蛇乗りになる事を選んだ時も、闘いに赴く前に帰宅を許された時も… 最初から全てを承知した上で、それでもエリン同様道を探して… エリンが望んだとおりにジェシは自由に生きていける様になりました。 小さなジェシが成長して行く様子、成長した姿。 王獣を育てる場は獣ノ医術師を育てる場に…ジェシは伝える人になったのですね。 エリンにも見せてあげたかったよ… 最後に、以前にもまして食べ物が登場する場面がパワーアップしていた様に感じたのは私だけ? 鍋物の美味しい季節がやってまいりました。タンダの山菜鍋、作ってみなくっちゃ!(でもうちの子はピーナツアレルギーだから代替素材を考えなきゃね) 懐具合と本棚の空き具合を考えると文庫はうれしいです。探求編、完結編と出揃ったら揃えたいかも…

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