104266 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

お茶かけごはん と ねこまんま

お茶かけごはん と ねこまんま

抜け道ふさぎ

抜け道ふさぎ


 クーリングオフができる…。そんな事は思いもよらなかった私は、掲示板に書き込まれた内容を食い入るように読んだ。そして何度か読み返すうちに、胸に光が差し込むのが分かった。

 私とこの業者との契約は「業務提供誘引販売」であることが分かった。
 これは、「この教材を買って資格をとれば、お仕事を紹介しますよ」という契約だ。電話での説明はまさしくこの通りだ。
 以前は、契約者が業者の悪質さに気付いて途中で解約しようとしても、「この契約はあくまでも教材販売の契約であって、お仕事を紹介する事は契約には入っていません。」という返事が返ってきていた。たしかに売買契約書には「教材販売」としか書いていない。それでも解約しようとすると法外な違約金を請求されるため、被害者は涙を飲むしかなかったのだ。

 しかし2001年6月に法律が改正され、「特定商取引に関する法律:特商法」ができた。
 それにより、のちの仕事を約束して教材を販売するという業務を行うならば、業者はさまざまな書類を、売買契約を結んだ直後に契約者に提示する事を法律で決められた。

 その書類の中で「仕事を請け負うことになった暁に得られる報酬を明示する書類」を私は受け取っていなかった。報酬については、契約前に送られてきたパンフレットに軽く触れられていただけだ。
 さらに、書類からは大切な言葉が抜け落ちていた。「クーリングオフは契約成立後20日間」という一言だ。契約書には「8日間」と書かれていた。
 つまり、書類上ではこの契約はあくまでも「教材販売」の契約でしかないことになっている。以前の抜け道を固持しようとしているのだ。
 しかし改正された法律では、契約者に「先で仕事を斡旋してもらえる」という期待を持たせた時点で、ただの「電話勧誘販売」ではなく「業務提供誘引販売」であり、クーリングオフは8日間ではなく20日間となる。
 そして、それらの書類が全てそろって初めて契約成立となるのだ。

 私の手元には書類は揃っていない。だから、契約はまだ成立していない。解約ではなく、クーリングオフをする権利がある。

 事態を飲み込めたとき、私は不敵な笑みを浮かべて受話器を握り業者の番号をプッシュした。
 そう。クーリングオフを宣言するために。消センから電話が行くのは、まだ数日先になる予定だった。
 最初私に必死で説明して契約させたあの女が出た。そして電話の主が私であると知ると、挨拶もそこそこに「担当者」に替わった。担当者は中年の男だ。

 「片桐と申します。先日解約の件でお電話いたしました。」
「はい。その件でしたらすでにこちらから書面を送っております。こちらが立て替えた分を返金していただいてからお話を進める事になりますので。」
「いえ、いろいろ調べましたら、クーリングオフができることがわかりましたので…。」
「あのねぇ!」

 男は突然、ドスを効かせた声をあげた。


もくじへ戻る


© Rakuten Group, Inc.