うつ病について
組織への帰属意識が強すぎて自分を見失うほど頑張る場合や、周囲の状況に自分をあわせようと無理しすぎる傾向を過剰摘心といいます。例えば、自分の気持ちを抑えて不平不満を口にせず、ひたすら仕事に励む会社員。文句をいわずにひたすら夫に仕え、家事をこなす主婦。これらの場合は、仕事や役割を持つ自分と、本来の自分との距離がないと言えるでしょう。しかし、心の健康を保つ為には、この両方の距離が適当に保たれている事が大切です。家に帰れば仕事のことを忘れて、好きな趣味に打ち込んだり、家事以外で自分が楽しめることをするのが健康な姿と言えます。しかし、会社や仕事に過剰摘心してしまうと、毎日夜遅くまで働き、家に帰っても仕事をしたり、仕事から離れることなく、結局過労状態に陥ります。会社や組織のために自分を見失い、仕事の時だけ落ち着くというような精神状態になり、ついには燃え尽きて、うつ病を発症することもあります。「出世うつ病」もその一つです。昇進すえば最初は喜びますが、しばらくして「自分はこの地位にふさわしい仕事ができるのか」「期待に応えなければ」などと考え、過剰摘心して自らを見失い、うつ病を発症します。過剰摘心に陥りやすいのは、真面目でよく頑張るタイプで、自己犠牲的で頼まれると断れない人に多いようです。仕事とは異なる自分だけの世界を育てる努力を怠らないことです。そして、仕事の自分と私生活での自分の距離を保ちましょう。(大阪市立大大学院医学研究科准教授・神経精神医学、井上幸紀)