悠々翁の真面目な放談

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• 保守先鋭化の時代背景―“国家の退場”から“国家の復権”へ

  安倍政治の歴史的位置をどう見るのか？保守先鋭化の時代背景―“国家の退場”（新自由主義万能論）から“国家の復権”へ０、はじめに安部政権は憲法解釈の変更で集団的自衛権行使体制への突破口を開いた。専守防衛という自衛のための安全保障政策を他国のための戦争参加を含む安全保障政策への大転換である。戦後史を画する事態であり、この安倍政権の歴史的位置が問われることになろう。つまり日本国家はどこへ向かおうとしているのか？私たちはどう対応すべきなのかという歴史的分岐点の中心問題に直面しているという情勢判断である。とりあえず三つの視点から事態を分析しておきたい。１、安全保障政策の転換とODA解禁の狙い―安全保障政策の三本の矢と安倍政治の特徴安倍のミックスの三本の矢とはよく言われるが、安全保障政策の三本の矢とはあまり聞かないが、集団的自衛権の意味を理解するうえで重要な“言葉”である。●ODA政策の転換と“安全保障政策の三本の矢”安全保障の三本の矢とは第一：武器輸出三原則の撤廃・修正、第二：集団的自衛権の容認、第三：ODA大綱の見直し、である。集団的自衛権行使容認によって、中国を仮想敵国とする対抗戦略は、主として中国と紛争する他国の戦争への支援を日本国家が多面的に展開することを可能とすることになる。ここにODA支援の大幅な緩和と変質を図る政策を打ち出す根拠がある。（開発協力大綱）周知のように、安倍内閣は4月閣議決定で武器輸出三原則に代わる「防衛装備移転三原則」を打ち出し、南シナ海で中国との領有権問題を抱えるフィリッピンやベトナムへの巡視船や装備品の輸出に道を開いた。しかも、武器部品輸出の大幅緩和は戦争当事国だけでなく、軍拡への道を急ぐ諸国への事実上の支援になり、殺人兵器生産への貢献度を高め、兵器産業の有力な国家への道を選択することとなった。武器・兵器への産業規制を支えてきた憲法9条による国家（政治）の規範的な枠と力を事実上に空洞化させることになった。●ODAの在り方を変えるー外務省・有識者懇談会の報告書（6月26日）今のODA大綱では「軍事的用途及び国際紛争助長への使用を回避する」と記載されており、現状のODAは支援国の軍隊に武器ではない物資を送ったり、軍人に救援など軍事と関係のない技術指導をすることも禁止している。今回の報告書は「軍隊の非戦闘分野での活動が広がっている」ことに対応して支援を拡充することを打ち出した。災害救助など軍事でない分野であれば、これまで禁じていた外国軍への支援を認める内容であり、途上国への民生支援に限って60年近く続けてきた日本のODA政策の大転換である。この政策転換で、南シナ海で中国と対峙するフィリッピンなどで災害時に利用するとして軍民共用の港の整備ができることになる。もう一つ変わる点はＯＤＡ支援を途上国以外に拡大する点だ。軍事利用につながる支援は禁止してはいるが、外国軍への災害救助、地雷撤去など民生目的の支援は解禁。明らかに中東の石油産出国への支援を想定している。●日本政府はフィリッピン、ベトナムとの関係強化を図ろうとしたが、ODA大綱が障害になっていた。あまり知られていないことであるが、ベトナムは10艘の巡視船を受け入れた。ベトナムでは、ODA大綱に抵触しないように、軍所属であった海上警察を軍から切り離す機構改革を行った。このままでは関係強化に使えないとの判断が安倍政権・外務省に生まれ、危機感を抱かせた。報告書では今後軍への民生支援が直接できることになる。ODAを卒業した国にも支援を広げようとしている。東南アジア諸国とともに、中東諸国を対象にする。海上輸送路（シーレーン）の安全確保に活用することを想定している。このような外国軍へのODA支援を認める報告書は対中国を念頭に置いた安全保障戦略に沿うものだ。非軍事目的に限ってはいるが、十分軍事に転用される可能性が高まる。２、尖閣・アジア戦争への日本の参戦（潮８月号藤原帰一論文を読む）藤原の論文は興味深いものである。３点を骨子にしている▲第一に。現状は片務的なので、双務的な日米同盟こそが望ましいと従来アメリカは考えてきた。集団的自衛権は限定的であれ、行使容認となれば安保条約は片務的ではなく双務的な形へ変化していくでしょう。このところ米国は集団的自衛権行使に慎重な姿勢を示してきた。日本が中国と紛争を起こし、その紛争に米国が巻き込まれる可能性が具体的に生じてきたからです。同盟関係には紛争が起きたときに「巻き込まれる危険」と「置き去りにされる危険」があります。同盟関係を結んでいても相手国家が同盟国としての責任を果たさない。これが「置きさりにされる危険」です。同盟関係があるために、自分が望んでいない紛争に参加しなければならない。「これが巻き込まれる危険」です。伝統的に日本の左派は「安保条約のためにアメリカの戦争に巻き込まれる」と危険を訴えてきましたが、今起きているのはちょうどその逆、日本の始めた戦争にアメリカが巻き込まれる危険です。アメリカは極東の軍事的抑止に関心があるものの、中国と実戦を構える事態は絶対に避けたいと考えています。集団的自衛権を認めれば日米一体で行動できるようになり、中国の行動を抑止することが出来るという主張には賛成できません。すでに中国は日米一体の軍事体制を織り込んできたからです。▲第二に、靖国参拝が日本の国益を毀損したのです安全運転であった自民党政権の性格が、どこから急変したのか。昨年2013年12月26日安倍総理は総理として初めて靖国神社を参拝しました。安倍総理は「靖国参拝はアメリカのアーリントン国立墓地訪問と同じだ」と強弁している。しかし靖国神社には遊就館がある以上、同じではありえない。遊就館は日本国民一般が認めている第二次世界大戦の解釈とは正反対の戦争解釈をしています。「第二次世界大戦はアジア解放のための戦争だった」という解釈です。集団的自衛権の容認は1960年日米安保条約を結んだ当時からの事実上の規定事項であるから、対外的に大きな意味はない。総理の靖国参拝こそが、日本外交にとって、集団的自衛権問題以上に決定的に大きな意味を持つことを知っておく必要があります。▲現実味を帯びる中越戦争今年の4月フィリッピンとアメリカは新しい軍事協定に調印しました。この協定によって米軍はフィリッピンの基地を使用しながら軍事演習などを合同で進めていくことになる。中国がフィリッピンへの強硬姿勢を強めているとしても、中国とフィリッピンが単独で戦争する可能性はほぼゼロでしょう。日本と中国が尖閣列島をめぐっても日本単独で戦争するという事態もすぐには考えにくい（評者注・偶発戦闘は別か？）。問題はベトナムです。今年の5月、西沙諸島周辺での中国の公船がベトナムの漁船に衝突し沈没させました。公開された映像を見る限り中国の船が明らかに意図的にぶつけています。中国に対してベトナムが単独で戦争を仕掛ける可能性が現実味を帯びてきました。1978年末ベトナムはカンボジアに侵攻し、ポルポト政権を崩壊させました。1979年2月中国はベトナムに侵攻し、中越戦争が勃発しました。約20万人の中国兵が死亡し、中国は開戦から一カ月で撤退しました。事実上の中国の敗北です。現在の中国の兵力は中越戦争当時とは全く違っており、戦争が長期化すれば最終的には中国が勝つでしょう。日本はベトナムの単独行動を防ぐべきです。中越の国境紛争をベトナムと連携しながら絶対に中国と交戦しないように圧力をかけ続けるべきです。３、グローバリズムと国家の復権（ドットの見解を読む）●グローバル時代は、当初、市場万能時代の始まりと理解され、困ったときは“市場に聞け”という風潮が世界をおおった。その底流では“国民国家の退場”という新たな時代だとの思想の台頭が広く認められた。両者はセットであった。資本主義批判勢力の中で“新自由主義批判”万能の局面であった、つまり“国家への批判の軽視”が随伴した。●注目すべき論考が提出された。「グローバル化は“国家復活”を導く」（エマニエル・ドット：朝日7月8日）とのインタビューは注目に値する。「帝国以後」の著者であるドットの主張は興味深い（以下要旨）▲（問）（あなたは）米国の覇権の終わりと米国からの欧州の自立を予言したが。（私は）欧州の変質を見誤った。自立した欧州は衰退する米国と異なり世界の安定を推進すると思っていた。だが、今は国際情勢の不安定要因だ。米国はむしろ相対的に安定している。欧州はこの10年でＥＵ加盟国が水平的につながる関係ではなく、経済大国ドイツが主導権を握る階層的な連合体になってしまった。統一通貨ユーロ―の存在が原因の一つだ。▲「帝国以後」は間違っていたわけですか？今の米国はローマ帝国末期に非常に似ている。帝国の軍事力を後ろ盾にした属国が強気の対外政策に出て、本国がその結果に翻弄されていった。属領として念頭に置いているのは欧州だ。ウクライナ情勢が分かりやすい例だ。欧州は欧州軍を持たないので、米国を後ろ盾として使いつつ、外交の主導権をドイツが握っている。ドイツの対ロシア外交は伝統的につかず離れずの関係を維持しようとする、米国の思うようにはならない。ウクライナ問題は米ロ冷戦の再来といわれるが、その見方は誤りだ。不安定要因としての欧州の存在こそがこの問題の本質だ。▲5月の欧州議会選挙ではＥＵ懐疑派が議席を伸ばしたが？フランスでは右翼の国民戦線（ＦＮ）です。ＦＮへの支持は彼らの主義主張が広がった結果ではない。欧州統合への民衆の抵抗感が原因だ。失業率が10％強でも仏政府はユーロと欧州統合を優先するとしたが、民衆は「フランスがフランスでなくなる」と批判。政治家と民衆の感覚が乖離している（中略）グローバル化によって世界がアメリカ型社会に収斂されていくという見方もあったが、そうはなっていない。この10年で起きていることは、国家の復活、再浮上だ。米国、ロシア、ドイツ、中国。第二次大戦のころの大国が再び台頭している。▲世界が昔に戻ったということですか違う。先進国はすでに消費社会の段階を終え、低成長時代に突入している。各国が直面する国内外の経済対立をどう克服するかが課題だ。グローバル化の進展は一つの世界像への収斂ではなく、国内や国家間の対立が際立つ世界を意味する。今後も“国家の時代”は続いていくであろう。少子高齢化などの新しい課題に直面している。多数を占める中高年が若者に関わる政策を多数決で決めてしまうのは、民主主義にかなっているだろうか。日本も直面している出生率の回復には、国家による中産階級世帯への支援が不可欠だが、こうした政策への支持をどう取り付けていくのか。再浮上した国家はこうした課題に取り組む必要がある。●私が特に注目した点は次の点だ。「この10年で起きていることは、国家の復活、再浮上だ。米国、ロシア、ドイツ、中国。第二次大戦のころの大国が再び台頭している」「今の米国はローマ帝国末期に非常に似ている。帝国の軍事力を後ろ盾にした属国が強気の対外政策に出て、本国がその結果に翻弄されていった。属領として念頭に置いているのは欧州だ」「欧州は欧州軍を持たないので、米国を後ろ盾として使いつつ、外交の主導権をドイツが握っている。ドイツの対ロシア外交は伝統的につかず離れずの関係を維持しようとする、米国の思うようにはならない」米国と欧州（ドイツ）の関係は、明らかに“現局面”の米国と日本の関係に酷似している。つまり、「帝国の軍事力を後ろ盾にした属国が強気の対外政策に出て、本国がその結果に翻弄されていった」、このローマ帝国末期の教訓は示唆的である。米国を後ろ盾として使いつつ、外交の主導権をジワジワと取り戻し、米国の思惑を超える独自の能動的な安全保障政策を強めながら、国家の復活=再浮上を図ろうとする。現在の安倍政治の持つ特徴を判断するうえで示唆的である。

  2014.07.22

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• シリア内戦は「宗教紛争」なのか？宗教共同体（ミッラ）めぐって

  研究ノート小杉　泰：シリア内戦は「宗教紛争」なのか？宗教共同体（ミッラ）めぐって　　　　　　　　　　　　●は小杉論文の引用、要約。▲はコメント●シリアの人びとは（アラブの春に呼応して）最初にデモに繰り出した日から、血の弾圧は覚悟の上であったとはいえ、１年半ですでに民間人の犠牲者が２万人とも言われる。国民のレジスタンスは、政府軍を脱走した兵士や離脱した将校が作る「自由シリア軍」が中心である。最初は、脱走の際に持ち出した小火器のみで、きわめて劣勢であった。（最近は）サウジアラビアやカタルなどの支援で武器も充実してきた。７月には、政権の中枢部での自爆テロがおこなわれ、アサド大統領の側近の国防大臣が殺害された。国際社会も驚いたし、政権側にも衝撃であった。さらに、首都ダマスカスや北部の古都アレッポでも、一部の地域を自由シリア軍が制圧する事態が生じた。政府軍はこれを押し返したが、反体制派の軍事力はあきらかに向上してきている。そのような中で、今度は、反体制派の軍が「処刑」をおこなったという疑いも生じている。無抵抗の政府側の民兵を殺害している画像が、８月に入ってからユーチューブに流れた。事実かどうかは今のところ判断できないが、無秩序の内戦の中では、十分におこりうることである。●たしかに、中東情勢には宗教が強く関わる。そのことは間違いないが、日本での宗教のイメージを投影して解釈すると、ズレが生じやすい。問題は、宗教がからんでいるか否かではなく、そこに関わる「宗教」とはどのようなものかという点にある（▲問題の設定が興味深い）●まず、一般的な図式を述べておこう。シリアは７世紀にイスラームの支配下に入り、９世紀頃にはイスラームが多数派になった。イスラーム帝国は、ユダヤ教徒やキリスト教徒に自治を認め、ビザンツ帝国時代に弾圧されていた異端的なキリスト教会も生き延びたから、現在でもシリアにはいくつもの東方キリスト教会が残っている。その一方で、多数派のイスラームの中にも分派が生じ、シリアではシーア派系のアラウィー派やドルーズ派が暮らしてきた。要するに、シリアはその歴史のゆえに、近隣のアラブ諸国と比べるとマイノリティの宗教・宗派がたくさんあり、宗教構成が複雑である。ざっくり言うと、国民の７割がイスラームの多数派のスンナ派で、残りがマイノリティの宗教・宗派となっている（▲その通り）●まず、アサド大統領はアラウィー派の出身で、政権中枢もアラウィー派が握っている。彼らに協力するスンナ派もいるが、政権に忠誠を誓う者だけが登用される。いわば、スンナ派が大半を占める国民をなだめるために、少しはスンナ派も入れる。また、キリスト教徒は少数派であるがゆえに、多くが現政権に協力し、利益を得てきたとされる（▲この指摘は事実として正しく、正確に報道もされていないのが不思議だ）これに対して、国民の大半はスンナ派であり、彼らは「アラウィー派支配」の独裁体制に耐えてきた。かつて、1980年代に反体制蜂起したムスリム同胞団は、スンナ派の組織であった。今回も、政権に反対している人びとは基本的にスンナ派である。そのため、同じスンナ派に属するサウジアラビアやカタルが、彼らに支援をしている。北の隣国トルコも、宗教的に言えばスンナ派で、自由シリア軍をひそかに応援しているとされる。（▲ムスリム同胞団はエジプトにもあるが、そこに通じているのであろうか？）その一方で、アラウィー派はシーア派の分派であるから、同じくシーア派が支配するイランと同盟関係を結んできた。イラン・シリアの同盟関係は、1979年にイランでイスラーム革命政権が誕生して以来のものであるから、非常に強固である。今回、イランの革命防衛隊がシリアに来て、政府軍に協力しているとの説もある。かくして、スンナ派とシーア派の対立、二次的にはイスラームとキリスト教の摩擦が絡み合って、宗教的な紛争が続いているという話になる。　実にわかりやすい。しかも、宗教が政治を支配しているという話であるから、いかにも中東らしくて、本当らしく聞こえる。しかし、これでよいのであれば、現代中東は中世と変わりがない（▲笑い。なるほど）●現在のシリアを支配しているのは、世俗主義を標榜するアラブ民族主義の「バアス党」であり、アサド大統領はその頂点に君臨している。「バアス」は「復興」意味する。つまり、アラブ民族の復興をめざす政党で、宗教とは関わりがない（▲これは重要な問題提起だ）「アサド大統領はアラウィー派である」というのは、実際には非常にアバウトな表現で、本当は「アラウィー派の家系に生まれたものの、本人の信条は世俗主義者」なのである。父親の前大統領も宗教には関心がなく、熱心な民族主義者であった。民族主義ということでは、スンナ派にもバアス党の支持者は多い。東方キリスト教は、アラブ固有の教会ということもあって、その出身者は西洋よりもアラブ民族主義に共感しやすい。シリアについて「アラウィー派の支配なのに、スンナ派の大臣もいるのはなぜ？」という疑問は、バアス党が汎アラブ主義の牙城であることを忘れている。彼らは、民族主義の絆で結びついているのである（▲なるほど。バース党はイラクで倒されたサダムフセイン政権とともに死亡したと思われた。闇の中に消えた幻の政党である。実に懐かしい名前だ）●にもかかわらず、宗教の出自がいつまでも語られる。このねじれが生じる理由は、中東において「宗教」が個人の信条ではなく、社会的な帰属を指すことにある。民族主義者になってもマルクス主義者になっても、その帰属としての「スンナ派の人」「アラウィー派の人」「ヤコブ派のクリスチャン」などのレッテルは消えないのである。中東では、今でも「宗教」は、個人の内面的な信条の問題ではなく、結婚や遺産相続をつかさどる社会的な法なのである（▲宗教の理解が全く違う。びっくりだ）そのような社会的な次元での宗教は、地縁・血縁と結びつき、地域共同体で影響を保ってきた。私は、それをアラビア語の「ミッラ（宗教共同体）」と結びつけて、「ミッラ縁」と呼んできた。地縁・血縁のように、生まれながらにミッラ縁は人に付着している。「あの人はスンナ派だ」とか「彼女はネストリウス派（のキリスト教徒）だ」とかいう表現は、ミッラ縁を指している。アサド政権はバアス党が支配する中で、さらに強固な支配エリート集団を形成するようになったが、そこでは地縁、血縁、ミッラ縁が活用された。アラウィー派出身者たちが政権に登用されたのは、まさに地縁・血縁・ミッラ縁が濃密に重なっていることが利用されたのであり、宗教的な信条が動機ではなかった（▲この評価の変化に伴う価値観の変化は政治認識の上では革命的変化に帰結する）スンナ派出身者やキリスト教出身者についても、熱心なバアス党員については、彼らのミッラ縁を活用して支持者を増やした。●ところが、このような状態が続くと、ミッラ縁が利権の構造の一部となる。官庁に就職する時も、地縁・血縁やミッラ縁が作用するのである。たとえばアサド家と同じ「ラタキア地方のアラウィー派出身者」であることは、バアス党内での出世にもプラスに働く。逆に、首都ダマスカスのスンナ派の商人階層は、バアス党の社会主義政策で大きな不利益をこうむることになった。「アラウィー派支配」と呼ばれるのは、このような偏った利権配分の構造を指している。アサド政権は利権を与えることで味方を作り、40年間の独裁を貫いたが、利権から排除された人びとは、不公平の怒りを積年にわたってため込み、今や独裁打倒を叫んでいる。ミッラ縁を利用した利権構造は、政権が転覆された際には、別なミッラ縁の利権にとってかわられる。内戦の果てに、スンナ派出身者が権力を握るならば、アラウィー派出身者からこれまでの利権を奪うことがおこるであろう。アサド政権に与して利権を得ていた者は、スンナ派出身者でも没落する。内戦が激化するとともに、現体制の命運は尽き始めたように見える。戦火の中で、既存の利権の構造が崩れていく音が聞こえる。深刻な社会変容の予感を感じながら、今後の内戦のゆくえを注視せざるをえない。（▲ただこれだけでは、シリアにせよアラブにせよ、未来は切り開けないということになるのか？こうした直感を超えて、小杉論文は実に興味深い社会分析である。リアルにシリアやアラブや中東の現実の社会関係を抉り出し、浮かび上げるうえで、鋭いものを示しているのではないか？この点に注目し続けたいと思う）

  2013.09.07

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• 戦後政治の再解釈、リベラル派は再生するか

  市民政治の再生に向けた検討戦後政治の再解釈に向けて「リベラル派再生の鍵は地域社会に」宇野重規論文：世界7月号（１）宇野の問題関心は保守リベラル派の再生、それに向けた戦略構想の検討である。市民政治の再生と成長を願う私の立場とは異なるが、その戦略構想の前提となる現代政治が直面している状況と諸問題について共感する点が多い。このレポートは宇野の主張に沿って、その状況認識と論理を紹介しながら、評者のコメントを記す。（文中で▲の部分がコメントである）（２）大局観としての「中道左派・リベラル派の後退」「事実上中道左派と呼ぶべき勢力が消滅した。政治の座標軸が大きく右に傾いたという印象。日本社会における中道左派、リベラル派にとって、投票すべき政党がなくなるのではないかという不安は決して杞憂ではない。選択肢がナショナリスティックな保守主義と新自由主義だけという事態を避けたい」。逆説的いえば、今こそ、「何が中道左派、リベラル派なのか、考えるべきこと」であり「中道左派、リベラル派が今日の事態に陥った歴史的理由、そのうえで、その本来の可能性が消滅したわけではない」と判断し、この道を探りたい。（▲この問題設定は興味深いし、時代に鋭く対応している。このテーマ設定は、「冷戦の終焉」という歴史の大転換によって、左右対立、保革対立の二項対立の時代が終焉したことを歴史的条件としている。この歴史的局面の質的変化が二項対立の時代の歴史を再解釈させることを可能とする条件である。保守勢力にとっての新たな思想と時代への挑戦は、レフトにとっても同じである。「思想の自由」の奪還、これは共通のテーマである。レフト勢力に中から、国民の時代から市民の時代へ、労働者階級と戦後革新勢力の歴史的敗北とその遺産の継承、戦後的価値を擁護しながら戦後を超えて行く思想と手法と作法の創造と再建、対抗社会・社会的なもの・ソーシャリズムの再生などのレフト勢力の中からの新たな立場への問題関心は、直面する時代の問題領域の直視から生まれる）（３）地域社会の視点から「中道左派の後退というが、そもそも中道左派なるものの存在をこの地域において感じたことがない」（地方講演での質問）日本の地域社会において政党とは何か？国政レベルの政治とは異なる論理が動いている。市町村レベルの政党・会派は必ずしも全国政党の在り方とは対応していない。公明、共産党の組織政党は全国一元化。それ以外は無所属が多い。保守系が多数で、複数の会派に分かれている。そこには重複も多い。首長選挙では相乗りが多く、政党間の対立を顕在化させないように努めている。都市部では無党派層が多い。地域社会は常に複雑に利害が錯綜している。最近は、地方政治での政党の占める役割が大きくなる。（しかし）多くの国政政党は地域社会の多様な声をくみ上げていく仕組みを持たず、その意味では根が浅いままである。その典型が民主党。地域に降りるにしたがって、民主党は政党ではなく、個人の議員である。地域の多様な声、異論や不満を抱えた人々の声は自らの意思を政治的に表現できずにいる。（従って）地域社会の多様な声をくみ上げることが、中道左派、リベラル派の復活にとって、死活的に重要になっていくはずだ。地域にしっかりと基盤を持たない限り、都市部での反転攻勢も容易ではない。（４）都市民の政治意識「地域社会の視点」は不当に等閑視されてきた。戦後革新勢力の力は都市部であった。第二次第三次産業の従事者を中心に、伝統的な生活スタイルを脱した都市民は、伝統的な政治を象徴する自民党を否定し、革新勢力を支持した。国政でこそ自民党一党優位が続いたが、都市部の首長はしばしば革新系が選ばれた。（「その歴史」の変化が始まった）1980年代、豊かになった都市民が生活の現状を維持する「生活保守主義」の傾向が強まる（中曽根はこの層を取り込もうとした）この層は、90年代以降、民主党を支持し、民主党の重要な支持基盤となった。その大きな理由は納税者意識の高まりであった。公共事業に代表される事実上の地方への所得移転によって、都市部の住民利害が損なわれているのではないか？東京、神奈川、愛知、大阪の大都市部で自民党は議席を取れなくなった。（▲この要素もあるが、より重要なことは「市民」の誕生である。市民の膨張である。都市では市民は多数であり、国民は少数である。この比喩は支持を受けるが、何を意味するのかははっきりしていない。市民概念の未確立。この反映として納税者とか生活者とか消費者とか、市民像の一部をくみ上げた論考が出される。それ自体は変化をくみ取ることになる積極的意義を持つが、逆に言えば、基本概念が明瞭でないために、恣意的であり、都合のよい論考になる傾向を持ち、イデオロギー化する）「都市民の支持はみんなの党や維新に移行。都市民の利害関心と地域社会からのニーズをつなぎ合わせる回路、論理の欠如」の反映として、公務員攻撃が激しくなる。中道左派リベラル派にとって重要な経済的再配分による社会的公正の実現という課題納税者意志の高まりに由来する新自由主義的な小さな政府への志向は、これからもますます都市部で強くなっていく」。都市民は今後も中道左派リベラル派の重要な拠点であり続ける都市部と地域社会をつなぎ合わせる新たなロジックがなければ、政治的展望を開けない。ヒントは戦後社会において、保守と呼ばれる勢力内部のリベラル派にある。保守内部の多様性、地域社会に根を持った社会的公正への視座が重要ではないか？（▲重要な指摘であり、共感するてんである。特に宇野の論考には3・11がない。3・11が突き出した重要な問題点の一つは都市部と農村部の歴史的不均衡、市民社会と共同体社会の諸関係の整理―歴史構造と思想のレベルで、都市民のサイドは問題領域を再設定するべきだ）（５）戦後保守の中のリベラル大平正芳に注目する。鈴木善幸（日本社会党から初当選）。農漁民の世界を背景に社会民主主義的路線に近い政治家が多数生まれる（宏池会）吉田茂（経済的自由主義）。岸信介（改憲ナショナリズム）。三木武夫（協同組合主義）こうした保守政治家の政治思想の中の社民主義的傾向と保守主義との対立を見ると、結局統一的な社会民主主義勢力がついに実現しなかったことを意味する。資本主義の枠内で社会保障の充実や経済的再配分によって社会的な公正を実現しようとする勢力がついに政権に到達しなかった。この点こそが、日本の左右の政治的図式を西欧とは異なるものとした最大の原因として、取り上げなければならない（▲指摘は重要。ただ、宇野の言説の中には政府機構（官僚機構）の位置がない。政府機構と国家機構全体との関連、近代日本国家の憲法体制と天皇制など日本の統治機構の全体像の見直しに踏み込まないと見えない問題領域が存在する。つまり政治思想としては致命的欠陥があるように思う）（▲大平研究会を取り上げたのは香山健一）（６）新たな中道左派・リベラル派の再生は可能か？狭い意味での保革の政治対立図式を離れて、あらためて競争原理に還元されない社会的公正を求める思考の礎を日本社会の過去に求めることには意味がある。経済発展は確かに重要である。とはいえ、人格の尊重、社会経済的な平等の実現、地域の多様性の発展、自然環境との調和の価値は、日本社会に完全に定着した価値観である。このような価値観に基づく暮らしを実現するには、どのようなるルールと制度を採用すべきか？個人の自立を前提とした新たな連帯と信頼の基礎を再確立するための道筋をどこに見出すのか。都市住民と地域社会をつなぐロジックの再発見である。保守の伝統の創造的な再解釈が不可欠である。（▲この論考が保守リベラルの復興に寄与することを期待した。市民政治の発展にとっても重要な意味を持つからである）

  2013.06.23

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• 謹賀新年：国会事故調報告要旨（下）

  新年おめでとうございます。今年もよろしく。国会事故調報告要旨（下）（１）東電の責任と自己責任の根拠（２）規制当局の責任の重さ（３）東電の事故対応の問題点（４）政府による事故対応の問題点（５）官邸が主導した事故対応の問題点（６）官邸および政府(官僚機構)の事故対応への評価（７）住民から見た避難指示の問題点（１）東電の責任と自己責任の根拠●東電及び保安院にとって今回の事態は決して想定外とはいえず、対策の不備についての責任を免れることは出来ない。○東電及び保安院は土木学会評価を上回る津波が到来した場合に海水ポンプが機能喪失し炉心損傷に到る危険性があること、敷地高さを超える津波が到来した場合には全電源喪失に到ること、敷地高さを超える津波が到来する可能性が十分低いとする根拠がないことを認識していた。今回の事故原因は何度も地震・津波のリスクの警鐘が鳴らされ、対応する機会があったのもかかわらず、東電が対策をおろそかにしてきた点にある。○たとえ警鐘が鳴らされたとしても、発生可能性の科学的根拠を口実として対策を先送りしてきた。東電のリスクマネジメントの考え方には根本的な欠陥があった。○東電のリスクマネジメントは原子力に関するリスクを検討する会議体はあるが、それを自然災害と併せて社会信頼の失墜や稼働率の低下に到るリスクとして扱っており、シビアアクシデントに到るリスクとして扱うことはなかった。学会等で津波に関する新しい知見が出された場合、本来ならばリスク発生の可能性が高まったものと理解されるはずであるが、東電の場合はリスク発生の可能性ではなくリスクの経営に対する影響力が大きくなったものと理解されてきた。○シビアクシデントによって周辺住民の健康等に影響を与えること自体をリスクとして捉えるのではなく、対策を講じたり、既設炉を停止したり、訴訟上不利になったりすることをリスクとして捉えていた。(▲命のリスクよりコストのリスク。利益至上主義の極致がここにある)（２）規制当局の責任の重さ●規制当局の責任も重い。安全文化とは相いれない実態○規制当局はその力量不足から電事連を通じた電力業界の抵抗を抑えきれず、指導や監督をおろそかにしてきた。電事連の規制モデルを丸呑みにし、訴訟上のリスクを軽減する方向で東電と共闘とする姿勢は、規制当局としての体をなしておらず、行政側に看過できない不作為があったものと評せざるを得ない。○東電・電事連の「虜」となった規制当局と今後の課題規制及び指針類の検討過程の実態は、安全確保に必要な規制を策定するための健全なプロセスとは言い難い。規制側も事業者側も「既設の炉が停止しない」という条件を大前提に、体裁が整うような形で落としどころを探り合うというものであった。当委員会では事業者のロビー活動に大きな役割を果たしてきた電事連を中心に調査を行った。その結果日本の原子力業界における電気事業者と規制当局との関係は必要な独立性及び透明性が確保されることなく、まさに「虜（とりこ）の構造」と言える状態であり、安全文化とは相いれない実態が明らかになった。○今後の原子力行政の指針第一に、原子力安全が設備・施設の安全にとどまらず、住民・国民の安全にあることを前提にして、すべての規制の仕組みを再構築すること。第二に、新しい規制組織の立ち上げに当たっては高い独立性、透明化を進めること。専門的能力を有し職務に責任を持つ人材を採用・育成し、事業者に対する監視能力を強化すること第三に、事業者と規制当局との間の虜の関係を抜本的に変え、国際安全基準に沿い、わが国の安全規制体制を組織的に向上させるという開かれた体制に向けた思い切った舵の切り替えを行うこと。第四に、緊急時の迅速な情報共有、意思決定、司令塔機能の発揮に向けた効果的な一元化を図る必要がある。（３）東電の事故対応の問題点第一、シビアアクシデント対策が機能せず、緊急時のマニュアルも役に立たなかった。長時間の全電源喪失といった事態において十分機能する内容となっていなかった。第二、緊急時の指揮命令系統の混乱。首相が事故現場に出向いてベントの指示をするという前代未聞の事態は、現場の時間を無駄にするだけでなく、その後の事業者と規制当局と官邸の指揮命令系統の混乱の原因となった。本店は当初から現場の状況を把握し、事故対応に追われる現場に変わって、関係各所に現場の過酷な状況について理解を求める積極的な対応をしていれば不信感と行き違いを緩和できた可能性がある。第四、本店側が技術的な援助が出来なかった点を指摘できる。2号機が深刻な事態に陥った時、武藤副社長(技術担当責任者)はオフサイトセンターに移動中で対応できなかった。官邸から吉田所長に初歩的な質問をする状態を放置した。現場判断と背反する安全委員会斑目委員長の指示を社長が是認するなど、現場の一線を支援する意識も体制も整っていなかった。第五、東電に染みついた「特異な体質」が事故対応をゆがめた（エネルギー政策や原子力規制に強い影響力を行使しながらも、自らは矢面に立たず役所に責任を転嫁する黒幕のような経営体質）全面撤退論や官邸の過剰介入問題はその象徴的出来事であった。全面撤退論は官邸の誤解であり、総理によって東電の全面撤退が阻止されたと理解することは出来ない。しかし、官邸に誤解が生じた根本原因は、自立性と責任感に乏しい上記のような特異な経営を続けてきた清水社長が極めて重大な局面ですら、官邸の意向を探るかのような曖昧な連絡に終止した点に求められる。東電は官邸の誤解や過剰介入を責められる立場になく、むしろそうした事態を招いた張本人であるといわなければならない（▲全面撤退論の評価は妥当だと思う。清水社長の立件を）（４）政府による事故対応の問題点政府の事故対応はその本来の機能を果たすことが出来なかった。通信・交通など、整備してきた災害対策のためのツールが使えなかった。原災現地対策本部でも避難指示をはじめとして現場での事故対応にイニシャティブを取れなかった。（重要なことは）組織として助言を提供できなかった安全委員会や、放射能拡散状況の把握に当たって、用意してきたツールやシステムを活かしきれず、モニタリングデータの情報共有も不完全であった。文科省には多くの問題があった（▲これは犯罪である）。政府は官邸と関係機関を結ぶテレビ会議システムを用意していたが、本事故では官邸はその端末を起動させた形跡がなく、官邸と関係機関との情報共有には全く活用されなかった。東電のテレビ会議システムを政府関係・官邸に接続しなかった。本事故では事故対応に関する重要な記録が作成されなかったことが判明した。原災本部や艦艇5回での議事録や重要な意思決定の記録が残されていない。将来のために記録することを検討すべきだ。（５）官邸が主導した事故対応の問題点○政府の事故対応体制が機能を果たせず、事態が急速に深刻化する中で総理中心の官邸政治家が事故対応を主導する体制が出来上がった(▲これは異常な体制ということか?)原子力災害対策特別措置胞15条によって、原子力緊急事態宣言を出すことがすべての始まりである。総理も官邸政治家もこれを理解していたとは言えない。緊急宣言を出すまで2時間を要した。○危機管理センターが地震・津波への対応で手いっぱいという状況から、官邸５階総理執務室を拠点に急展開する事故対応を自ら主導した。官邸５階には保安院幹部、安全委員会委員長、東電関係者が助言者として集められた。これらの関係者は官邸政治家の説明要求を満たせず、官邸政治家たちは不信感を募らせた。一号機の爆発を期に不信感は頂点に達し、官邸政治家が前面に立つ事故対応の体制が形成された（▲これ自体は異様な評価であり、危機管理指導中枢の無能さと官邸の解決能力の瓦解の危機であり、関係者の責任が問われるべきである）。原災現地対策本部でもベント、海水注入は東電はじめ関係者が実施を合意し対応していたが、情勢把握できていないまま、官邸５階が介入した。○１２日早朝、危機感から総理が現地へ。東電の現場からの避難要請に東電に乗り込み、東電本店に事故対策統合本部が設置された。安全委員会以外の助言を受けようと様々に助言チームが創られた。避難区域の決定も官邸５階が主導した。原災現地対策本部でも原災本部は機能せず。避難区域決定は関係省庁との調整が遅れ、現場が混乱した。（６）官邸および政府(官僚機構)の事故対応への評価第一、官邸政治家には原災現地対策本部でも真の危機管理意識が不足し、官邸が危機において果たすべき役割についての認識が誤っていた。東電全員撤退論について、そのような事態が起こりうることを想定し、住民避難等の住民の防護対策に政府の総力を結集することこそ、官邸の役割であった。ベント、海水注入など本来東電が対処すべき領域にまで踏み込み、「撤退は考えておりません」(清水社長)との一言で事故収拾の責任を東電に任せ、他方で統合対策本部設置して介入し続けたことは理解困難である。第二、官邸の直接介入は指揮命令系統の混乱と情報伝達のルートの混乱を生み出し、拡大した。官邸のオンサイト(発電所内)内への介入は東電の当事者意識の希薄化を招いた。保安院等の官僚組織は情報を集約し、原災本部・官邸に提供すべきであったが、その役割を果たせなかった（▲重要な視点だ）危機に直面した時の国民の安全を守るために、臨機応変に対応することが出来なかった。官僚は平常時から緊急時を見据えた危機意識を持つとともに、訓練によって危機管理能力を培っていくべきである。○緊急時の政府の情報開示の問題点政府は本事故のプレス発表について速報性よりも正確性を重視した。官邸、関係省庁、東電の間での情報公開の方法の意思疎通も不十分であった。結果として住民の安全を守るという視点で最悪事態への進展を想定し、これに備えた情報開示をすることはなかった。半径10キロの避難指示が出された(3月12日5時44分)時、事故発生を知っていた住民は20%に過ぎなかった。緊急時の政府の広報体制の在り方について基本方針を決めておく必要がある。（７）住民から見た避難指示の問題点事故が発生し被害が拡大していく過程で避難区域が何度も変更され、多くの住民が複数回の避難を強いられた状況が発生した。政府の避難指示で15万人が避難した。ほんの数日だと思って「着の身着のまま」の状態での避難であった。3月15日20~30キロ圏の住民に屋内避難の指示が出された。その長期化によってライフラインがひっ迫し、生活基盤が崩壊した。3月25日には同圏の住民に自主避難が勧告された。政府は住民判断の材料をほとんど提供しないまま、避難判断を住民個人に丸投げしたともいえる状態であり、国民の生命、身体の安全を預かる責任を放棄したと断じざるを得ない。30キロ圏外の一部地域ではモニタリング結果や3月23日に開示されたSPEEDIの図形によって比較的高線量の被曝をした可能性が強いにも関わらず、原災本部は迅速な意思決定を出来ず、避難指示が一か月も遅れた。（８）政府の原子力災害対策の不備事故前に様々な課題があげられていたにもかかわらず、規制当局による防災対策の見直しは行われず、今回の事故対応の失敗の一因につながった。2006年(平成18年)安全委員会は国際基準となっている防護措置実施の考え方を取り入れるべく防災指針の見直しの検討を始めたが、保安院は国際基準の導入がかえって住民の不安を募らせるとして、実質的に見送られた。2009年(平成19年)中越地震を契機として、複合災害を想定した原子力対策の必要性が唱えられたが、国の関係機関や一部立地自治体は複合対策の実施がもたらす負担の大きさから反発し、保安院は打開策を見いだせないまま本事故を迎えることとなった。毎年実施される国の原子力総合防災訓練はいわば訓練のための訓練が続けられた。過去の防災訓練が役に立たなかったことが指摘されている。

  2013.01.04

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• Nさんへの手紙：新たな琉球独立論を考える

  ●Nさんへの手紙元気ですか？もうだいぶ経ちますね。貴兄が京都の方へ居住を移し、＜農＞に取り組みながら新たなエコロジカルな暮らしの道を選択された時からです。最近貴兄の便りを聞かないのに、時々貴兄のことを思い出します。それは沖縄の状況の変化が私にも感じられるからです。1995年少女暴行事件に端を発した沖縄の人々の怒りは天を揺るがし、日米安保体制の根幹を突き崩し始めました。当時私はその変化の始まりがどのよう意味を持つかはっきりと判断できませんでしたが「静かな革命」が始まったと表現しました。貴兄だけがこの言葉に注目し、賛同してくれました。あの「静かな革命」の意味が昨今ようやくその形を取り始めているのではないかと思い始めています。振り返ってみれば、72年「復帰」以降、貴兄は沖縄、琉球の展望を巡って四苦八苦しながら、先の見えない道を歩き続けていました。ヤマトの側の私と違って、沖縄の側に存在根拠を持っていた貴兄にとってははっきりとした展望が切り開けない重苦しい時代であったと思います。そんな厳しい時代の中でも貴兄たちは、琉球独立を構想し、沖縄を琉球弧の闘いとして位置づけ直したこと、沖縄内部の本島と八重山の歴史的差別と格差を直視したこと、沖縄社会の古層にある歴史と文化と宗教的精神を取り出したこと、様々に当時の沖縄のほんの一握りの先進層の手探りの活動を本土の私たちに伝えるものでした。始まりつつある新たな闘いの地平は「沖縄の戦後地平」と「復帰論」を超えて、間違いなく貴兄たちが進んだ道の延長上にあります。もう一度どこかで論議できることを願っています。今後の論議のために3点報告しておきます。第一に、復帰という常識を問い直し、68年体制の崩壊を超える時代という最近の見解第二に、大局的な沖縄経済状態＝基地依存は遠い過去第三に、琉球独立論の新たな地平について●新しい時代の芽仲里効は次のように指摘している。「脱植民地の潮流が旋回する沖縄」（世界6月号）○「68年体制」の崩壊を超えて1995年の少女暴行事件以後、反復帰論が若い世代によって発見され、沖縄の内部に起こった変化の質を「68年体制の崩壊」へ向かった流動と「新しい主体」の台頭と理解した。68年体制とは1968年初の主席公選、立法院議員選挙、那覇市長選挙で、社会大衆、人民、社会の革新三党、沖縄教職員会、県労協などの労働団体を母体にして結成された革新共闘会議によって築かれた政治システムである。この体制は沖縄県祖国復帰協議会を引き継ぐもので、日本復帰を共通の目標にしている。95年以後の沖縄社会の動きは沖縄の政治を拘束し続けた68年体制の惰性的延伸にはっきりと見切りをつけたものであった。95年の少女暴行事件の衝撃を内在化させ、自らも95年世代と呼ぶ世代が反復帰論を再発見しことに象徴的に表れている。○68年体制の思想風土からどう逆立ちしても出てきそうにない新たな潮流が現われている。沖縄の閉鎖性を打破するために、国連の先住民族作業部会、人種委員会、琉球の歴史文化の復権と自決権、琉球弧の先住民族会などへの注目。居酒屋独立論と揶揄されてきたが、沖縄の潜在的オートノミ―のその熱気と渦は緩やかに、確実に時代を刻みつつある。こうした新潮流の三つの特徴○95年の衝撃を内在的にくぐり、沖縄の位置を日米の植民地として認識している○68年体制が日本国家の円環に拘束されていることに対して、その円環を踏み越えていこうとする視座を持っている○沖縄のオートノミ―への不断の関心と志向を抱懐している●沖縄の基地依存経済論は遠い過去。その潜在的発展力に注目が集まる時。前泊博盛（沖縄国際大）は次のように指摘している。「40年にわたる沖縄振興は何をもたらしたか」（世界6月号）「高失業、高借金、低賃金、低貯蓄、低進学率、米軍基地依存と財政依存の依存経済、観光の伸び悩み。厳しい沖縄の経済。他方で、沖縄経済は成長と発展の可能性を限りなく内包している。復帰40年の節目を迎え、アジア経済の成長が著しい今こそ、沖縄経済の構造改革と変革の時である」○沖縄の県民総所得に占める基地収入の割合は5・3％であり、観光収入10・9％の半分に過ぎない。終戦直後の沖縄は70％の基地依存、復帰直後の基地依存は15％であった。現時点において、基地依存経済と呼ぶことは出来ない。基地依存どころか「沖縄は基地のおかげで大損している」との沖縄県の試算がある。○政府は主たる成長のエンジンを三つに定めてきた。３K（基地、公共事業、観光）といわれ、依存経済を再生産してきた。 統計でいえば、基地収入は2000億／年、公共事業は政府予算で2000億／年、観光収入は年間500万人で4000億／年、総計8千億が県民所得を支える。しかし、県内総生産は2007年で、3兆6620億円（72年当時名目4459億）。伸び率は8・2倍全国平均の5・4倍を大きく超えている。○政府の見解は次のようなものである。「復帰以降、平成13年までの30年間沖振開発法に基づく沖縄振興計画は6・7兆円の事業費が投入された。この結果過去30年に道路、港湾、空港、上下水道、電気・ガスなどの社会資本整備は本土並みになったが、一人あたりの県民所得は全国平均の約7割という所得格差、全国一の失業率など本土との経済格差が依然として残されている」「沖縄の持続的な発展のための基礎となる民間主導の自立的経済は展望が開けなかった」として、10年前に沖縄振興法を策定した。この精神は「ハードからソフト」への転換、目玉としての「沖縄特区制度の活用」であった。しかし、本土政府の実態は「名ばかりで10年が経過し、検証すると国家官僚による省令、政令、規則による特区制度の骨抜きの実態」が明らかになった。「東北各県は先行する沖縄特区を教訓に、制度の裏側にある政令、省令、規則、実施細目などで制度を骨抜きにして使えない制度のしてしまう官僚たちの罠にはまることなく、制度の内容を十分に吟味、検証、監視し、使える制度、実効性のある特区の獲得にあたってほしい」今年度は4月から沖縄振興法の決定権限が政府から沖縄県に移行し、沖縄県の一括交付金が増額された。72年返還以来の沖縄県の悲願の実現であり、沖縄県の側の経済ガバナンスが問われる時代になった。地味ではあるが、画期的変化である。●琉球独立論の新たな地平について○「琉球救国運動―抗日の思想と行動」（2010年・出版舎Mugen）で、著者・後田多敦は琉球処分（1879年）に抵抗して、中国に亡命し闘い続けた琉球の人々の歴史を掘り起こした。「目からうろこ」の著作であったし、この時期に琉球問題の地理的空間的範囲を拡張するうえで大きな意味を持つと思った。そして今年に入り松島泰勝は「琉球独立への道」―植民地主義に抗う琉球ナショナリズムーを出版した。この著作は「琉球の自治」から「琉球の独立」へ大きく発展していることが注目点である。（NPO現代の理論・フォーラムオピニオン４号松島論文参照）琉球独立論がここでは経済。社会、国際環境の中に根を持ち、現実の沖縄の経済発展と基地撤去、琉球の憲法制定を展望する中で対抗的に語られている。時代の大きな変化を感じ取ることが出来る。松島の提言は「植民地としての琉球」を正面に据え、その歴史を掘り起こし、琉球は日本とは異なるネイションであること鮮明にし、自らの憲法を制定しない限り、今の植民地主義の矛盾を乗り越えることは出来ないと主張する。その現実的可能性を世界各地の先住民族や太平洋島嶼国・地域の脱植民地化を先例にして琉球人の自己決定権を打ち出す。そして日本頼みの自治論を超えて、琉球自治共和国連邦の構想を提案する（是非一読を）松島はグァム日本総領事館、パラオ日本大使館などで勤務しながら綿密な調査をして、その立論を構成した。1960年国連で採択された「植民地独立付与宣言」を重要な立論の根拠においている。先住民族の闘いに着目しながら「琉球独立」の困難な問題に接近する若い人々を代表している（▲アイヌ民族の最近の新たな胎動に似ている）○本土サイドのわれわれの立場で考えると、72年の時点で「復帰」自体を問う思想はレーニンの「帝国主義と民族・植民地主義問題」を手掛かりにして、琉球処分の意味を捉えかえし、沖縄人民の自決権と沖縄への植民地支配の歴史を掘り起こしたことを思い出す。松島?勝の手法はわれわれのような手法・思想とは異質である。新川明が「40年目の感慨」（世界6月号）というメッセージを出している。「復帰」前後沖縄サイドの新川明たちの「反国家の凶区」などを読んで、日本と沖縄の関係は琉球処分によって歴史的につくりだされていること、この事を前提にして「復帰＝72年沖縄返還」自体を考えるべきだとの主張に私たちは共鳴した。「この視点に立つとき現前の日本国の沖縄に対する構造的差別を生み出し続ける植民地主義の根源が透視される」からであった。保守も革新も、本土も沖縄も、祖国復帰と本土並み返還が両輪となって日本国家＝現憲法体制への復帰で、戦後を終わらせると祝賀した。沖縄を返せという大合唱に抗して、本当か？と異議を唱え、復帰自体を問いただした。私たちは「反復帰派」と言われた。琉球処分という言葉は本土の私たちにとっては72年返還を問い直した思想的歴史的な集約的言語であった。○最後に、本土サイドの西谷修「接合と剥離の40年」（世界6月号）を批判する。日本政府は何を選択しているのか？「沖縄の米軍基地は本土防衛のためにあるのではない。米軍の世界戦略の要としてある。米軍と自衛隊の一体化と日本の防衛戦略の一環に＜沖縄＞を組み込む形ではあるが、日米同盟はどこまで行っても米軍主体である」「日本政府はほとんど当事者能力を失っている」「対米言いなりになっている」。こうした西谷の言説は日米安保を批判する日本の知識人の多数派の思想である。「属国論、58番目の州だ?」に示される「宿?としての米軍」「運命としての米国支配論」である。今は、この認識を疑い、問い直す時だ。この認識枠組みでは、政治の展望を反米闘争強化論に集約することになり、戦後反米・反安保としての沖縄闘争の枠を超えられない。どこまでいっても闘いの質は「沖縄の祖国復帰」対応する本土並み返還と平和憲法国家論に集約されることになる。沖縄の、琉球の自立・独立への新たな模索に応えられない。確かに、西谷は「琉球処分」と沖縄人民の大きな変容。世界ウチナンチュウー大会に言及している。しかし、琉球処分に言及するならば、本土（ヤマト）の側の固有の論理はないのか？比喩的に言えば、抑圧民族の側の琉球サイドとは異なった固有の思想と論理はないのか？西谷にはこの問題領域が欠落している。従って、宿?としての米軍、日米同盟が出てくることになるのではないか?日本の在り方はすでに問われ続けており、そこに食い込む論理を待たないに過ぎないと思われる。思想の貧困である。沖縄に渦巻く本土政府（と本土人民）への不満を背景に「米軍基地を本土に持って帰ってほしい」と公然と語る人々が増大している。注目すべきことだ。国外ではなく、県外移設論は「基地負担の横滑りであり、人民内部での押し付け合いでは基地問題は解決しない」との常識と倫理性（沖縄の人々の他者への遠慮や配慮もあるだろう）に縛られて、「基地は持って帰れ」との言辞を沖縄の人々はほとんど口にしなかった。福島原発事故を見て、沖縄と福島は同じ「政治の構造」にあるとの認識は急速に広がり「沖縄差別をなくすことの重要性」が再発見されているのではないか?県外移転受け入れの思想を本土の人々に語ることが出来るか、問われているのは私たちヤマトンチューである。

  2012.06.11

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• 市民社会の概念はどこで誕生したのか？

  市民社会の概念はどこで誕生したのか？（1）はじめに近代の国家と社会が誕生する時期に登場する市民、市民社会像は極論すると中世都市の編成原理の復活であった。増田四郎の都市論はこうした（私の）問題意識を刺激する論点を提供してくれる。（2）増田四郎の都市論には次のような問題意識が貫かれている。●「ヨーロッパ近代を支えている思想・原理を正しくつかむために＜都市＞を取り上げ、市民意識の基盤はどこにあるかを検討する。＜市民＞という考え方は、いかに西ヨーロッパに独特のものであり、ヨーロッパ近代にとってどれほど重要であったか、逆に言えば東洋に極めて弱い考え方であるのかを示したい」。近代国家の原理は大げさに言えば中世都市の構成原理にあり、中世都市の編成原理の再生を通じて歴史的に継承され、近代国家の原理となった。中世都市は歴史の中で形成され、発展し、成熟し、没落した。この歴史の中で形成された都市の編成原理が“近世”を経て近代国家の誕生の中で引き継がれ、近代国家の原理となった。これが増田四郎の都市論の意味である●古代都市と中世都市の原理的違いヨーロッパの古代都市はアテネ、スパルタはいずれも領土を持った都市国家の姿をしている。原則として周辺の地主である市民がその領土の真ん中に集団的な生活を営んで奴隷その他の従属の民がその地主の土地を耕作する。アテネ、ローマは都市であると同時に国家であった。都市の密集した部分だけを見ると消費者都市であり、生産者はその周辺の農村にいる奴隷及び従属の民という形を取る。西欧の中世の都市(特に北欧)は決して都市国家にはならなかった。この地では都市と農村が対立していた。農村は封建諸侯が治め、都市には市民が住んでいる。この市民は自分で商業を営み、自分で手工業を営む広義の生産者の集団である。●市民社会の二重性の意味について第一に、市民社会というものをブルジョア社会（＝資本主義社会）という意味で解釈する。イギリス；経済生活の実質的な内容をつくっている。フランス：政治的な運動のかたちをとって、必ずしも経済的に爛熟していないブルジョア層が政治的な意味での革命を達成する。その後の近代化は多難な歴史である。ドイツ：その中間。立ち遅れた後進国。観念的に国家と社会、個人と社会ということが学問の重要な論点を構成した。カントとヘーゲルとマルクス。第二に、別に今度は市民をシティズンという意味で考えてみた場合、もう一つのヨーロッパ像が現われてくる。＜ブルジョア＞＜市民＞という言葉はいずれも都市という言葉から発生している。ブルジョアとはブルクに住むもの、シィティズンはシィティ内に住むものという意味である。いずれも＜都市＞を抜きに考えることは出来ない。市民を市民権、人権、生活共同体の一員として見なすと、究極的には世界市民という発想に至る。国民という発想からは世界市民という言葉はない。●中世の都市の聚落の構造中央には広場があって、そこに市が立つ。文字通りの市場である。その市場の近くに教会がそそり立っている。教会のそばには普通市庁の建物が建っている。大きな商人のいる地区がその市場の近くにある。大体において職業に応じて町の名前がついている。都市の市民の構成がギルドを中心に組織化されていたからである。他方城壁の外は農村であって、原理としては都市と農村は対立したものである（城壁の外まで町が拡大している場合もあるが）。この都市は都市国家のように都市が農村を支配しているわけではない。農村は封建領主が支配権を握っている。都市はその封建領主から離れた別個の法域をなしている都市法の行われている特殊な法域である。経済的にみると都市と周辺の農村とは相互依存関係である。農村は原料や食料の供給地であり、都市は手工業製品を農村に売るという関係に立っている。出来るだけ農村に商人や手工業者が出現しないように、競争者が出ないように、一定範囲の農村内に都市と同じ同業者を認めないという特権（▲禁制圏という）をもつ。他方中世都市には出来るだけ遠くの市場と結合して利益を上げるように考える。ここには都市の開放性という側面がある。●中世都市は何よりもまず商工業に直接従事する市民の集団であって、古代のような消費の都市ではない。史上初めてホモ・エコノミクスと呼ばれる人間類型が小規模ながら都市の内部に発生したのもであって、（農村部とは）根本的に違った社会構成を予想しなければならない。（▲増田史観の特徴。都市論で初めて＜商人の視点＞から歴史を見直す学風に出会った。実に興味深い）●中世都市の歴史的形成11世紀ゲルマン民族のキリスト教化と平和的な商業の興隆の中で、中世都市が誕生した。ブルクのそばに新たな商人地区が出来る。ブルクとは、封建諸侯の保護の下にすでに都市的なブルクがあった。教会、城壁、保護された商人、修道院など。この旧いブルクは封建的な支配の領域である。新たな商人地区は大部分無主の土地である。川沿いであるとか、交通に便利であるとか。中世では無主の土地は国王のものであったから、新商人たちは国王に貢租を支払い、自由にその土地を利用し、居住地をつくった。この新商人地域は封建的な支配の要素を持っていなかった。国王に直属していた。ここが論理の出発点になる。国王は部下を派遣した場合もあるが、大半はその地は商人たちの自治に委ねた。自治の担い手はギルドになった。商人の富が拡大すると、隣の封建諸侯は国王に対して、商人地区の支配権を特権として付与することを要求する。（▲日本の荘園と同じように、税のとりたての権限をめぐる闘いが始まる）（▲歴史の面白いところは次の点だ）。11世紀半ばに、神聖ローマ帝国の皇帝と教皇との正面衝突が起きた。叙任権問題である。司教、大司教は教皇の側に。封建諸侯も国王を離れて教皇側につく。皇帝は孤立し、動揺し、皇帝の権力は弱体化する。結果、都市への教会や封建諸侯の支配権が増大する。都市の領主が教皇側に味方して商人を収奪するということになった。＜この時＞に市民の反乱と暴動が始まった。商人地区の住民の一致団結。さらには古いブルクの全住民、古い城壁の中の者と新たな商人地区の住民とが一緒になって封建領主を都市外に追い出す。ここに初めて市民、シティー（ブルクに住んでいるもの、ウィックに住んでいるもの統合）という都市の考え方が成立、都市を守るものはわれわれ自身であるとし、全体として国王に直属する法理を以て（貴族、教会の封建領主と）対抗することになった。1074年ケルンの大暴動がその象徴である。（▲私自身はこの歴史を知らなかった。類似した反乱は北フランスから多数認めることが出来るという）。●商人ギルド起源考早い時期の都市は事実上、通商を営みとする人々のユニオンであった。7世紀から13世紀、古ギルド、古ゲルマン社会の変質過程があり、当初、都市は商工業者たる市民階級にことさら密接の関連を持つごとき団体ではなかった(旧ブルグ)。10世紀中葉から「商業の復活」を背景に市場ないし商人移住の新現象がみられる。「ギルド」から「商人ギルド」へ、ギルド一般ではなく商人ギルドの歴史的形成である。この商人ギルドはイングランド、北フランス、フランデルン、低湿地方、西北ドイツ、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、などゲルマン的要素の濃厚な地方で強まった。政治的民族的諸対立を超えた「商人社会」ともういうべきものが出来上がり、最も緊密な有無相通の交易圏が浮かび上がってきた。ここに定着した新市区の住民はやがて中世都市の母胎となる新団体を形成したのであるから、その指導権はおのずと遠隔地商業に従事した裕福な商人階級、または機業地にあっては織物業の豪商階級であった。当時の遠隔地商人なるものは、外地における仲間（ハンザ）と、本国市場的移住地区におけるギルドという二重の団体であった。通商的団体であり、地縁的な団体の法制に根を下ろした。●ケルン：司教都市の例1074年ケルンの反乱。1073年ウォルムス市の暴動に連動し。司教への反抗、皇帝への忠誠で、ライン沿岸に都市領主への反乱気運の醸成を生み出した。反乱は敗北し、首謀市民への刑罰、大司教領主権にケルンは服した。1074年ケルンの大司教追放事件は敗北したとはいえ、大司教の恣意的な統治、封建的な無節操は少なからざる掣肘を受け、市民勢力を無視することが出来なくなった。叙任権をめぐる戦闘の勃発に際し、都市の大勢は司教への反乱となって爆発。1106年ハインリッヒ4世を支持する戦争となるや市民と近傍農民の傭兵からなる「都市の軍隊」はハインリッヒ5世の騎士軍に抗して最後まで皇帝と都市の尊厳を守り、市壁を占領して防備の一切を市民階級の手中に収めた。防備権の掌握。こうした抵抗と反乱の戦いは、1112年大司教による全市民の誓約団体承認という画期的事件で集約された。外に向かっての恣意的支配への闘争。内に向かっては運命共同体としての誓約共同体の結成を意味する。都市法の基本精神となりうる自由の成立である。都市（コミューン）は誓約によって団結を強め、友愛関係によって平和を維持せんとする自由な誓約団体として構成された。（▲ケルンのコミューンは教会サイドから見れば、教会法上侵すべからざる聖域諸権利の侵害である）。●中世都市と農村の関係都市の経済政策は＜同質社会＝都市の家計＞維持に向けられた。原料の供給と食糧の補給とは近傍の農村に仰がざるを得ない。都市国家＝都市による農村の植民地化とした道でないとすれば、この家計維持のために都市による農村への経済政策が発生する。一定範囲の農村を都市の経済圏に従属せしめ、それをあくまでも異質な農耕社会に釘付けすることによって、都市内部の機能分化を高める政策である。都市経済のアウタルキー（自給自足）。禁制区域の設定など。中世都市は市場を中心として厖大な＜一個の家計＞の単位として観念させられ、都市住民とも称すべき特殊な団結体で、政治法制的な生活の共同の場であると考えられることとなった。都市は国王、強力な聖俗界の封建諸侯に対する従属関係を個人ではなしに＜都市＞を単位として保持するとともに、内部に張り巡らされ錯綜した個別的封建関係を民主主義的に置き換えることに成功した。市域の統合確定、市壁防護権の自立、市民軍の編成、下級裁判権の獲得、築城する権利、貨幣鋳造権、市場税取立て権。これらの誓約の当事者としての市民とは15歳以上の者、誓約によって平等になるのであるから他国の者でも一年以上の居住でその条件が出来た。都市市民内部に関する限り、中世的封建制の否定原理に貫かれた同質社会の性格を持つ。構成員は原則として平等の権利義務を持つ自由民であり、個別的主従関係の排除がその建前であった。市民は個別的な従属の民ではなくて、全体として（都市市民として）国王諸侯に臣属する。市制はもちろん、軍備・財政・裁判・などの一切に無関心ではなく、積極的な自治の民である。近代的市民精神はこの等質社会の意識に育まれた。●近代都市の成立と中世都市の没落16～18世紀にかけては絶対主義と重商主義の時代である。経済政策は都市を離れて次第に国家に吸収されていく。国家が中心となって国民の富を拡大する。自治体としての都市は国家権力によってその自治権を剥奪されていく時代である。この時期、都市は繁栄の時期ではない。むしろ停滞と没落の時期である。こうした中世都市の存在と輝きは中世全体で見れば一部分であり、中世はキリスト教が欧州の大半を支配する社会であったことは疑いない。この中世の都市は主として北欧で展開された都市の歴史である。南欧での中世都市の展開は少し異なった原理を持っていた。増田四郎の説はこの違いを更に近代の始まりとされるルネッサンスと宗教改革の北欧、南欧のそれぞれの受容の違いと重ねて論議を進めるが、この歴史観全体は別の機会にしたい。

  2012.05.20

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• 検察改革の行方

  検察改革の行方（検討メモ）１）問題の所在大阪地検・特捜部前田前検事によるＦＤ改ざん事件は日本社会に大きな衝撃を与えたが、同時に裁判員制度導入に次ぐ「検察改革」というテーマを政治の日程にのぼせた。グローバリズムに対応した刑事司法の改革・再編の大きなうねりの波が押し寄せていると考えるべきだ。焦点は検察（警察も）の取調べ過程に録音・録画を導入し可視化することが出来るかになっているが、現時点での刑事司法の在り方全体で何が問題か検討しておきたい。「特捜検察は必要か」（江川紹子編・岩波書店）を読んでみると、この問題では二つの視点が存在していると思われる。「全能の検察の終焉」―国家エリートから法律家に戻れー河合幹雄（桐蔭横浜大教授）と「検察に外の風を」江川紹子（ジャーナリス）との二つの論文に典型化されている。第一の河合幹雄論文は検察権力を日本の近代の権力の歴史中に位置付け直し、検察権力の在り方を問う視点から描かれている。第二に、江川紹子論文は、逆に具体的な事件の展開の中で検察及び司法当局、関連するジャーナリズムの在り方を含めて刑事司法の在り方を問い、検察改革を訴える視点である。私自身は従来次の点を主張してきた。検察という国家権力の中核組織は「国家権力の代理人」であり続けてきたが、21世紀に向けては「市民社会の代理人」へとその存立の原理を変えるべきだという立場に立ち、市民主権の拡大という視点から、司法組織（裁判所、検察、警察、法務省、メディア、弁護士主権者＝市民関与等）の在り方と市民参加と情報開示を徹底すること、こうした視点から検察・警察の歴史を洗い直し、制度改革を求めるべきだと考えてきた。この視点からすると河合論文の方に関心が向くが、実際の検察改革を検討する場合には江川紹子の提起の方が方法的に具体的で、分りやすい。ここでは江川紹子の提起を紹介しながら検察改革の内容をと今後を検討し、その後にその政治的意義を考えるという形で、河合論文を検討する。２）村木事件とは何か？検察の組織犯罪であること（上記論文集から）○検察官が押収証拠を改ざんした―郵便不正事件をめぐる大阪地検の不祥事では、証拠改ざんの事実ばかりが注目された。しかし、頑張ったのは前田元検事だけではない。関係者の取り調べをした検事・副検事たちは元前田検事が描いた筋書きに沿った調書を作成すべく全力を挙げた。裁判を担当する公判部の検事たちも弁護士から検察の筋書と矛盾する証拠の存在を指摘され、ＦＤの改ざんを知りながら、何食わぬ顔で有罪を立証し続けた。裁判所が供述調書のほとんどを特信性がないとして証拠採用を拒んだ後も、大阪地検は長大な論告書を作成し続け、懲役1年6か月に処するように求刑した。前田元検事のＦＤ改ざんや大坪前部長らの隠ぺい事件はそうした検察庁の総力を挙げた活動の一部である。この二人が注目され、その特異性が語られるほど、事件の本質から人々の関心がずらされて行くように思えてならない。（●その通り）○村木厚子さんの裁判を傍聴しながら思ったこと検察が事実を積み上げて真相に迫るのではなく、彼らなりの「真相」が先にあって、それに合せる形で関係者の供述調書を作成していく現実を目の当たりにした。過去にも同様の問題はいくつもあった。郵政不正事件では、障害者団体を名乗る「凜の会」の代表者がかつて秘書として仕えた政治家に厚労省への口利きを頼み、その政治家が村木さんの上司に働きかけて、上司からの指示を受けた村木さんが部下の係長に公的証明書を偽造させた、この筋書きが検察にとっての「真相」だった。この公的証明書の偽造が行われたのは2004年5～6月、障害者自立支援法は法案どころか基本的デザインすらない時期であった。にも拘わらず厚労省関係者は検察側の筋書きに沿った供述書を作成されている。○なぜそうなってしまうのか、その手口を批判する（取調べの実体は闇の中）検察の筋書きに見合う供述証拠が作成され、筋書きと異なる事実が無視されていく。証拠の改ざん（ＦＤの改ざん）は検察の筋書きに沿った証拠作りが行われる捜査の流れの延長線上の出来事であり、決して突発的に起こったわけではない。日常的に行われている供述調書の「作文」も供述の改ざんに等しい。改ざん事件は特捜部だけの問題ではない。また、郵便不正事件で取り調べを行った検事6人は検察側証人として出廷し、取調べは適正に行われ、強制や誘導などはなかったとし、法廷での証言より取調室で作成した調書の方が信用できると主張した。しかも、検事が取調べ時にとっていたメモはすべて廃棄されている。もし改ざんが露見しなかったら、従来通り村木有罪＝冤罪が完成されることになった。なぜなら双方の証言の食い違いを裏付けるものは何もないからだ。３）裁判所とメディアの責任も重い日本の裁判所は99％を超える有罪率である。極論すると検察の取調室が事実上の第一審であり、裁判所は上告審ということになっている。この長い歴史をふまえると、裁判所は「調書」について、とりあえず調書の任意性を認め、そのうえで内容の信用性を吟味するというパターンで処理してきた。つまり書面を作成すれば、裁判官は何らかの形で証拠採用してくれるとの期待があるので、捜査機関は何が何でも筋書きに沿った供述調書をつくろうとしたのではないか。その意味では裁判所にも責任がある。この99％有罪率という現実は、メディアにも強い影響を与えている。特捜が扱う事件は話題性が強い。特捜神話があり、特捜事件では「特オチ」しない報道心理が強く働く。だから調書と違う証言を被告人が法廷でしても、それを軽視し直ちには取り上げないことが多い。判決で検察側の主張通り有罪になることが多い以上、裁判で多少問題があっても、判決まで様子を見ようということになる。報道の見立てが間違っていたとの評価を回避するためである。有罪率がきわめて高いことも反映している。４）反省しない検察ＦＤ改ざんが表面化してから3か月後、大阪府貝塚市での放火事件で公判前準備手続が行われている中、基礎から10カ月後、大阪地検は公訴の取消を決めた。アリバイを申し立てていたが、その部分を削除して作り直していた事実を公表。検察官の虚偽文書偽造罪にあたるが立件を見送り、減給処分とした。これは新たな改ざん事件である。４）陸山会事件とは何か？（世界10月号から）○裁判の争点は何か？小沢一郎議員の秘書3人の政治資金規正法違反事件（8月22日最終弁論、9月26日東京地裁判決予定）。この事件は土地の購入をめぐってのお金の出し入れについての記録が、政治資金規正法に則って適切であったかどうかをめぐる、かなり事務的な判断になる。○事件の概要と問われている諸点「裏金問題という見立て」検察は銀行からの融資で土地を買ったように偽装し、小沢から直接借りた4億円を隠していたと見ている。この金がヤミ献金などの後ろ暗いカネの原資であり、それを隠すための虚偽報告であったと見立てている。水谷建設からの裏金は5千万が二回、合計一億円が小沢の秘書を通じて渡っていたという疑惑である。岩手県で建設中の大型特定多目的ダム、胆沢ダムの工事。JV（共同企業体）の幹事会社として受注したければ1億円を大久保秘書が要求した。メディアもこの裏金問題を中心にして報じている。しかし、この検察の主張は初公判の時からすでに破綻している。仮に水谷建設からの5千万の献金があったとしても、4億円に入り込むことは不可能であることは一目瞭然だ。（一回目の献金日時：04年10月15日。水谷建設社長河村尚証人は同日午後全日空ホテルで石川にカネを渡したと証言している。石川被告は10月13日には小沢から預かった現金の分散入金を始めている。銀行記録上明白。ヤミ献金が紛れ込む可能性は少ない。二回目の現金授受は翌年4月19日。小沢の4億円が石川にわたってから半年以上後のことで、4億円とは無関係である）検察官役を務める指定弁護士は水谷建設からの裏献金を争点にしていない。当然だ。「支えを失った検察の主張」しかし、東京地検にとって、この“ヤミ献金疑惑”こそが本命であった。政治資金規正法で問うた政治資金収支報告書の記載時期をめぐる形式的な問題は、入り口に過ぎない（▲別件起訴）なぜ、地検は正面から行かなかったのか？証拠が極めて脆弱であった。石川被告への現金授受は川村元社長の証言以外証拠が何もない。運転手の運転日記にも記載がなく、同席した人物もいない。水谷元社長が「見届け人」のつけない河村社長の行動は「考え難い」と証言している。つまり、河村元社長証言自体に疑問が出されてくる。「検察官調書の大半が採用されなかった」「石川録音が決め手であった」東京地裁は石川被告については切ちがえ尋問があったことを認定した。（注「切り違え尋問」と呼ばれる違法な取り調べ方法がある。複数の被疑者がいる事件で否認している場合は、一人の被疑者を「他の人は認めている」とだまして捜査機関の思うような供述を獲得し、その結果を他の被疑者にぶつけることで、否認する気力を失わせるなどして同じ供述を引き出すやり方である）。池田被告への取り調べはその任意性を否定。証拠として採用しなかった。裁判所の決定では検察側が証拠請求した検察官調書38通のうち、11通を全文却下。さらに20通を部分的な採用にとどめた。裁判所の判断に大きな影響を与えたのは、石川議員が保釈後、東京地検呼び出しを受けた際にひそかに録音していた取調べの状況であった。恫喝による取り調べが行われていたことは、裁判所にとってショックであったらしい。池田被告の取り調べをした花崎検事は取り調べ時に作成したメモを廃棄して、裁判所に提出しなかった。しかも、東京地裁判事は「被告人石川による録音がなければ、水掛け論に終始していた可能性すらある」と指摘。判断を間違わないようにするには、取り調べの状況を判断できる客観的な証拠がほしいと検察陣に要求していると言える「反省しないメディア」新聞、メディアは特捜検察の改ざん問題では厳しい検察批判をしていたが、陸山会事件では検察サイドばかりからモノを見る習慣は全く改まっていない。検察捜査の違法性を無視するメディアというだけではない。今回は小沢関連自演ということで、メディアが権力機関の監視という役割を完全に放棄。むしろ検察と一体となって、事件を盛り上げた。検察の筋書きに乗った報道合戦であった。猛省すべきである。５）改革要求：検察改革の行方郵政不正事件、足利事件、布川事件、無理な取り調べや誘導などが問題になった。少なくとも被疑者本人や弁護士が請求する事件はすべて全過程の録音録画を行い、任意の捜査でも原則として録音機の持ち込みを認めるべきだ。（検事総長記者会見での江川の質問：陸山会の証拠決定について）「任意性や特信性はもともと検察が立証すべきことで、検事証人で、口先でいっても飲めません、＜客観証拠を持ってこい＞というメッセージとして受け止めた。そういう方向性はこれからの流れになる。」手続きの透明性を求める時代の潮流から逃げることは出来ない、検察トップの発言である。改革推進室による諸施策もこの認識に立っている。取り調べの録音録画の試行について、弁護士からの請求があった時はどうするかと質問、「考慮要素になる」と明言。知的障害者の被疑者については、特捜部以上に考慮要素となる、むしろ弁護士から知的障害に関する情報をもらえることがありがたいこうした発言は画期的なことだ。それでも、検察が意図しているのは、検察主導で検察の活動に資する形で録音・録画を行うことであり、取り調べの全課程を記録し、そのプロセスを後から検証可能にする可視化ではない。（せめぎ合いは続く）

  2011.09.26

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• 市民社会論の探求： 変革主体としての社会

  市民社会論の探求・メモ（5・17）●私の関心テーマ「変革の主体としての社会」この言葉は、1988年10月～89年11月／現代の理論・「変革主体としての社会」連載，井汲卓一からのものである。（内容はまた別の機会にコメントしたい）「階級闘争はその社会を発展させ、前進させるための最も重大な対抗的要素であった。それが（階級闘争が）本質的に新しい社会への転化をもたらす力であることはあり得ない。新しい社会は別のとこらから来るのである。もし、そうであるとするならばあのロシア革命に始まる社会主義革命とはいったい何であったのだろうかが問題である」「変革主体は労働者階級である」とのテーゼからの決別宣言であり、このテーゼへの挑戦であった。当時、私はコメントできなかった（批判される側の思想に立っていた）●1989年と私○二つの気持ち。スターリン主義体制の崩壊は当然＋ロシア革命の思想的文化的枠内にあったわれわれ自身の敗北。グダンス造船所の労働者はレーニン像を撤去した。○ところで、社会主義は敗北したのか？敗北を超えて、終わったのか？社会主義とは何か？何であったのか？▲「社会主義権力の矛盾」（佐藤昇）（第一次現代の理論創刊号論文）「歴史としての社会主義」（渓内渓）（1965年現代の理論論文）▲＜社会＞主義。＜国家＞主義、＜民族＞主義、＜個人＞主義。思想体系の中心に社会を置いたとして、ではその社会とは何か？○「市民社会とは何か」（平凡社新書）での植村邦彦の主張は、結局のところ社会主義の敗北論であり、マルクスの思想的復権に集約される。市民社会とは資本主義社会と同義であり、言葉としても使う必要はない。「現代の『新しい市民社会論』は新自由主義的国家に事実上の能動的合意を与え、それを支える補完物になっている」植村意見はイデオロギー過剰という水準を超えている。この方法がマルクスの思想を貶めると思う。●1989年と市民社会論の復権ソ連崩壊後、ヨーロッパでは市民社会の復権と立憲主義の復権が進む。パリコミューンを超え、フランス革命と近代市民革命の再評価へ。ポスト・モダンの思想傾向と区別された「再帰的近代」論と重なる。▲グローバル経済の進展は＜国家と市民社会＞の歴史的バランスを崩壊させた。そこに、＜新たな社会空間が誕生＞を余儀なくされたのではないか？○市場社会（経済社会）がグローバルに膨張するのであるから、その力は巨大化し、国家と対抗しうるまでに至った。＜国家―市民社会＞として、歴史的バランスの中で市民社会の一翼に収まっていた市場社会が非市場社会を圧倒し、非市場社会から独立した。これに伴って、市場社会が非市場社会を一段と圧迫し、非市場社会が悲鳴を上げ始めた（家族も、地域も、宗教も、文化と伝統も、労組も其々のアイデンティティーの危機へ）国家＝政治社会＋市民社会（グラムシ）政治社会（国家）＋市場社会（経済社会）＋社会的社会（市民社会）の＜三層社会＞へこの三層社会はそれぞれの領域で国民国家の枠を超えている。三つの社会の力学と均衡が定まっていないので、総体としての歴史的なバランスを持った安定的な均衡点に至っていない。従って現在は構造的に非常に不安定な社会である。（私は国家と社会の全体を指す言葉として「この国のかたち」と表現している）○「自由」が問題になっている。新自由主義は市場原理主義の政治思想として理解されているが、自由とは＜個体的自立＞の価値表現であり、これからの社会はこの個体的自立を前提にした社会構想が問われる。自由が優先し、従って、自己責任が伴うという思想は一つのイデオロギーに過ぎない。問題を人間の本質的存在にさかのぼって議論し直すことが変革の理論にとって重要であると思う。個体的自立と三層社会論は「人間の複数性の復権」を必然化する。多様な社会と文化の承認は、人間の複数性を抜きに考えられない。階級社会論の二元論との決定的分岐である。人間は共同的存在である。人間とは社会関係の総体である。昔懐かしい唯物論的論議の見直しが重要ではないか。社会とは何かという設問は、人間と何かという設問と不可分であるからだ。●日本での出来事・阪神淡路大震災とボランティア。「市民社会をつくろう」あの阪神大震災は、現在の東日本トリプル震災と重なるが、あの時の経験は重要である。地震とともに、政府と自治体の機能が崩壊した時、突如として全国各地からボランティアが大量に現地に駆け付けた。山口組も普通の人も皆炊き出しの中で暮らした。高速道路の崩壊とともに、日本中が震撼し、支援に向かった。日本も捨てたものではないと多くの人々が実感した。ところで、あの震災後は時間とともに、自治体・政府の機能回復に伴って、ボランティア・市民社会の役割が後退し、邪魔な存在として扱われ、最後は音もなくボランティア・市民社会は退場した。現地では日常社会が回復し、最後は仮設住宅で孤独死が生まれた。コミュニティーと切り離された仮設住宅の思想―人をその歴史と地域から切り離して単なる個体として収容するーの無残な失敗であった。ボランティア・市民社会は日常回復に対抗できず退場し、記憶の中に追いやられた。この強烈な体験は現在の3・11に蘇っている。当時ボランティアの若者たちは「市民社会をつくろう」とメッセージを出し続けた。この「社会をつくる」いう発想は、私には新鮮であった。日本の市民社会論者やグラムシ関係者にはなかったと思う。市民社会は何時も全体概念であり、個別概念としては存在していなかった。例外的に生活クラブをはじめとして、生協運動、現在のワーコレ関係者の中に、市民社会をつくるという思想は確実に存在していた。（横田克己・小塚尚男の歴史、安東仁兵衛などの雑誌「現代の理論」の歴史。構造改革派としてのフロントの東大全共闘の歴史的総括参照）ところで市民社会をつくろうという、若者の発想は成熟社会に到達した中での市民活動にとって「普通のこと」であった。偉大な変化である。当然のことながら、市民社会とは市民の成熟という要素と社会の成熟という要素が二つあり、それら全体を総括するうえでの諸問題がある。現状では「市民」の要素が論議され、「社会」の要素が不問に付されているので、市民社会論自体がその全体性を復権していないように思う。●日本人の社会観を考える○「市民結社と民主主義」1750～1914（岩波書店：シュテファン＝ルートヴィヒ・ホフマン著山本秀行訳）西欧のみならず東欧・ロシアを含むヨーロッパ全域での市民たちのアソシエーションを軸にヨーロッパ近代史の新たな鳥瞰図を描き出し、トクヴィルのアメリカ（市民の自発的な意思による民主主義）VSヨーロッパ（権威主義的で国家中心主義）の構図を打ち壊す著作（宣伝文）から。「市民社会」を市民結社と民主主義と翻訳した訳者の慧眼に感心した（ニュースレターに書評あり）。日本社会と西欧社会の実体と歴史に精通しないとこの訳語は出来ない。どのような回路をたどっても、市民社会は規範的、自覚的、意思的な諸個人の結びつきを表現する概念になる。強い個人の結びつきとして市民社会論が構成される。批判的に指摘するのではない。むしろ重要な点だと思っている。○私は日本人の社会観の原点は故郷（ふるさと）にあるのではないかと思う。故郷が日本人の社会観の原風景ではないかと思う。「ふるさと」の原風景の中に山や川や海があり、街並みがあり、学校があり、友達がいる。農業、漁業、林業などその生業のイメージがあり、家族がおり、親せきがおり、働く場所があり、土地がある。古くからの歴史や伝統やしきたりがあり、お寺や神社やお祭りがある。寄り合いがあり、結もあり、講もある。近代と資本主義はどうしても外からやってくる。工場とともに働く場所をもたらし、新しい文化と暮らしをもたらす。ふるさとは工場を飲み込むが、いつしか工場がその農業、漁業、林業など生業のイメージがあり故郷を崩壊させる。欲望が組織され、カネがものを言う気運が支配的になる。日本近代の時代的集約が「北の国から」にある。（北の国からと水戸黄門が日本社会を切開するキー概念であると思う）問題はこの日本社会の領域を市民社会論はどのように連結していたのかという点だ。連結よりも切断の歴史ではなかったのかと思う。これはどこか方法上も思想上も問題点が存在していることを示しており、この領域を措定した市民社会論をどう構築するのかがテーマではないかと思う。●コミュニティー関連の研究に学ぶ社会の在り方を今後検討するには「コミュニティー＝人間がそれに対して何らかの帰属意識を持ち、かつその構成メンバーの間に一定の連帯ないし相互扶助の意識が働いているような集団」（コミュニティーを問い直す・広井良典著・ちくま新書）という、コミュニティーに関する研究に学ぶ必要がある。広井は同書でコミュニティー形成の編成原理を検討するうえで三つの点を指摘している生産のコミュニティーと生活のコミュニティー農村型コミュニティーと都市型コミュニティー空間コミュニティー（地域コミュニティ）と時間コミュニティー（テーマコミュニティ）広井の提起の全体を検討できないが、ここでは一つだけ指摘する。＜都市＞という視点をこれからのテーマにする必要があると思われる。西欧での「都市と市民」の歴史的関係と日本（やアジア）の「都市と市民」との関係は相当異なる。これは現代の都市の在り方、公共の在り方にも、関連する。（都市・増田四郎、ちくま学芸文庫）さらには、「法人の起源はローマ時代や中世における都市や僧院や大学にある。法人とは企業のことという考えは最近の観念である。法人とは現代の言葉でいえばＮＰＯである」「21世紀とはＮＰＯの活動、特に、ＮＰＯ法人の活動がますます活発になっていくでしょう」。それはある種「先祖帰り」に他ならない（岩井克人）●植村の著作は「基礎概念の系譜」であるから、歴史的な整理として理解するが、では何のために「市民社会」概念を検討するのかという視点から見ると貧弱な限りである。植村の立場が市民社会派のイデオロギー暴露である以上当然であろう。今後、社会とは何かを検討しながら、市民社会論を重ねていく作業を進めたい。

  2011.05.18

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• 言葉の革命　 Civil Socieyは「市民社会」ではない？

  Civil Societyを訳してみると「市民社会」ではなく「市民結社と民主主義」が原意を正しく伝えるという。言葉の革命である「市民結社と民主主義」を読む。「市民たちのアソシエーションを軸にヨーロッパ近代史の新たな鳥瞰図を描き出し、市民社会の歴史に再考を迫る画期的な著作」との宣伝文句にもひかれて、読んでみた。実は読了するまでに大変時間がかかった。「ヨーロッパの歴史の再構成と市民社会」序章を別にすれば、第１章から第4章まで大半はヨーロッパ史の叙述であり、しかも18世紀から20世紀の初頭、つまり19世紀のヨーロッパ大陸の歴史叙述であった。難解というよりも理解するのが大変であった。私自身の浅薄な知識にため、この著作が叙述するフリーメースンをはじめとした18～19世紀のヨーロッパ大陸のアソシエーションに関する知識や素養がほとんどないためであった。しかし、読了してみて、もう一度読み直してみようという気分になったことは確かである。私の知っている常識的なヨーロッパ史とは違う角度から「歴史を再構成」するという視点の思想的意味を理解できたからである。その魅力は歴史や社会を見直す「視点」の核心である「市民社会」という言葉の革命（再定義）を伴っているという点であった。1989年一連の東欧市民革命のあとのヨーロッパの新たな変革の点をどう構想するのかという問題意識と共鳴し合っており、私の関心とも重なっている。アソシエーション革命を主張している柄谷行人がさっそく書評しているのもうなずける（５月３日朝日新聞）。市民社会という視点は国家、民族、階級の興亡の歴史という視点と異なるという意味で歴史学では重要な点であるが、同時にこの著者・訳者の日本の中での市民社会という言葉の意味を日本人に向けて革命（再定義）しているという意味では“二重の革命”である。Civil Societyを訳してみると？この著作の「市民結社と民主主義」という邦題は、実によくできた名訳だと思う。原タイトルはCivil Societyであり、普通に訳せば市民社会である。訳者はこの原題を「市民結社と民主主義」と変更し、かつ市民結社という新しい言葉をつくったという。「翻訳していて気付いたのが、Civil Societyと、わが国で一般的に使われている市民社会とでは、どうやら意味や視点のずれがあり、必ずしも同じものを指していないのではなかという点である」（訳者解説）「『市民社会』の実践家、『社交団体』の活動に従事していた人々、『市民結社』が国境を越えて広まり、という語句の言葉は、皆Civil Societyであるが、そのまま市民社会と訳すと違和感を持つ」「ドイツ語では合唱協会や体育協会などといった協会・クラブ・団体が、英語訳では市民社会なのである」。日本（ドイツも同じ）では、市民社会は市民権などと関連し普遍的で理念的なものに理解されているが、英語では協会・クラブ・社交団体といった「具体的だが、部分的にしか過ぎないものを市民社会」と呼んでいる。市民社会は常に「規範」と「社会的現実」の二つの側面があり、「18世紀のイギリスから始まったクラブ、アソシエーション、コーヒーハウス、フリーメースンの会所、公園、図書館など」からなる「新しい種類の社会」を記述するものとして市民社会が存在した。どうしてこうしたズレが存在しているのかは重要な論点であり、今後の検討課題であるが少なくとも、日本社会の中での「市民社会」への否定的響きは、実は文化的思想的に深くドイツ的であり、しかもヘーゲル・マルクス的である音色と重なっていることも重要であろう。著者の説は19世紀のドイツはアメリカを別にすればアソシエーションの文化が花開いた国であったということになる。従来の通説は市民社会と中産階級とを結び付け、市民社会とブルジョア社会とを同一視してきたのであるが、アソシエーションに注目すると中産階級がなくとも市民社会が成立することになる。市民社会と経済的価値概念との関連を切断して市民社会を再定義して、新たな論議の地平を切り開いている近年のハーバーマスなどの論議と重なる。これまで国家や国民国家を軸にヨーロッパの近代史は叙述されてきたが、アソシエーションに注目すると国境を超える結びつきや広がりが見え、ヨーロッパの歴史の再構成に発展する可能性が見えてくる。そうした著作であることに特徴がある。トックヴィル・アソシエーション・フランス革命訳者はこの著作の一貫したテーマであり、重要人物であるトックヴィルの思想と中心概念としてのアソシエーションをイメージしながら「市民結社」を考えたという。トックヴィル政治理論は「自発的なアソシエーションこそがアメリカ民主主義の基盤をなしている。アメリカでは市民活動と民主主義は結び付いている。自分たちの社会問題・政治問題を解決するのに政府に直接訴えることのかわりに、まずアソシエーションを結成する。自分たちの問題は自分たちで引き受けて、公共善のために活動するのである。言論の自由よりも結社の自由こそが最も重要な政治的権利の一つである」。民主政治において、どのようにして市民の心が貧しくなることを回避するのか？市民の心が貧しくなればそれは専制政治に道を開くことになる。ここにはトクヴィルのフランスカ革命のテロルの総括が秘められている。（●トックヴィルの一族はギロチンで処刑された側にいた）「市民結社」という言葉は政治結社や経済結社と区別され、しかも自発性や主体性の意味を強く表す言葉である。アソシエーションはしばしば結社と訳されているが、日本ではまだまだアソシエーションの概念や歴史すら見えていない。その上で、アソシエーション（市民結社）と民主主義は手を携えて発展してきたという従来のテーゼに対して、市民結社と民主主義は緊張関係にあったこと、市民結社の民主化と発展が逆に市民社会を掘り起こす要因になったことなどの指摘は現在の市民社会論の大きな手掛かりを与えることになる。歴史的には民族主義の発展が市民結社を通じて実現されたのであり、市民結社（アソシエーション）は両義的な意味を持ちうる概念である。参考文献市民結社と民主主義（1750～1914）：シュテファン＝ルートヴィヒ・ホフマン著・山本秀行訳・岩波書店NPO現代の理論社会フォーラム：ニュースレター09年4月号書評

  2009.07.08

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