DJ Kennedy/life is damn groovy

　　

　　　　



"Sweet Tooth"　甘いもの好きのことを言う。


NYでは、健康志向が当たり前、体型やフェイスラインが崩れることは、名刺に
書かれた肩書きのランクが下がっちゃう、というくらいの大事だからなかなか
大食いの女性にはお目にかかれない。良く言えばストイック、悪く言えば偏屈？

ただひとりだけ、私の友人にチーズケイクの大食いだけは許してくれという女がいる。

「ニューヨークスタイル・チーズケイクは幸福の象徴」とまで言い切るジャネルは
新聞記者。身長180センチ体重62キロのスレンダーな体に似合わず、かあるいは
似合うのか、あのもったりたっぷりなNYチーズケイクをいくらでも食べる。飽きずに
食べる。本当に不思議なくらい、直径25センチのホールをぺろりと平らげる。

　　　　　　　　　
10年前の3月。とうとう彼女に運命の相手が現れた。フランス人の雑誌編集者、ジャン。
彼の周囲には常に美しく聡明な女性が大勢いて、女性に対しては半ば「飽和点」に
達していたのだと言う。おしゃれな会話や身のこなし、食事の仕方まで申し分ない。
が、それも慣れてくると魅力として感じられなくなるという贅沢な人。そんな人生を
優雅に送ってきた彼が、あるパーティでジャネルと出会う。

彼の、ヨーロッパ各地のチーズケイクの話が彼女の好奇心を誘った。その場で二人は
会う約束をし、次に彼がNYに降り立った時、彼女が彼をエスコートした。


ブルックリンのJunior's（ジュニアーズ）というダイナー（大衆的なレストラント。メニューも
豊富で、日本のファミレスに近い）。ここはNYチーズケイクが有名なのだ。


日本ではこのNYチーズケイク、わりと新しいものなのだと聞いた。私達が日本に来て本当に
驚いたのが、日本のチーズケイクはふんわりとしたスフレタイプやレアチーズケイクなどが
多いことだった。そんな素敵なチーズケイクと比べると、NYスタイルは掟破りの超ヘヴィ級。


初めてのデイトだと言うのに、ジャネルは決して手を抜かない。というより相手に対して
遠慮するとか、より女性らしさをアピールしようとか、そんなもの、チーズケイクの誘惑に
勝てる訳がない人なのであった。


　　　　　　　　


お相手のジャンは、まずデイトでダイナーというシチュエイションに驚いた。本当は彼は、
ジャネルをミッドタウンのスペイン料理に連れて行きたかったのだが、「私はニューヨーカー
だもの」の言葉にレイディス・ファースト、「そう、じゃ楽しみにしてるよ」と快く譲ったのが
かえって彼の運命を決定付けることとなる。


二人はビアを飲みながら軽い食事をして、楽しい時間を過ごした。彼女のたっての勧めで
チーズケイクを所望することになるのだが、彼は1スライス。そして彼女は、ホール。彼は、
ジャネルがその場で食べずにテイクアウト用にオーダーしたのだとばかり思っていた。

なのに、彼女のフォークはずんずんホールのケイクを突き進めて行く。彼は勿論、唖然。

おそらく普通なら、ここで男性はドン引き、なのであろう。自分が食べているスライスの
8倍もの量を臆面も無く頬張っているのだ。ところが彼は、頭が良くどんな話題にも深い
知識を持つ反面、可愛い口元にチーズケイクを放り込む彼女の、自分にとても正直な
ところに惹かれてしまった。いや、今は彼も「あの頃は、彼女のあの姿が珍しかったん
だろうな」と笑っているが、恋の始まりにタブーもTPOもありはしない。


それから1年が経ち、彼はNYに移った。いよいよ彼女との結婚を考えてのことだった。
そしてある夜、ジャンはジャネルを部屋に呼んだ。

食事に呼ばれたと思っていた彼女は、いきなり彼がお手製のチーズケイクを、しかも
彼女の大好きなNYチーズケイクを出して来たことに驚く。彼は予めJunior'sと同じレセピを
入手し、見事に焼いていた。

彼はまるごと彼女に進めた。この時ばかりはジャネルも遠慮して、「一緒に食べましょうよ」
と言ってみたが、彼は「最後まで、君が食べて」

まるいケイクが中心に辿り着いた時、フォークにコツコツと硬いものが当たった。「ん？」
中には2枚重ねの大きなクッキーが入っており、その間に小さなメモがサンドされていた。


"Marry me" （結婚してください）


彼等は翌年結婚した。そして恐ろしいことに、今では二人して、チーズケイクの
大食いカップルとなっている。更に恐ろしいことに、ジャネルは当時の体型とは全く
変わっていないけれども、彼の方はふたまわりくらい大きくなってしまった。
それでも彼等はハッピーだ。

私達を含む、彼等の知り合いは皆、彼等の家でパーティという日は必ずJunior'sの
チーズケイクを4つは持って行くことにしている。けんかしないように、2つずつ、4つ。


　　　　
　　　　　　



幸せの象徴NYチーズケイクを作ってみませんか。

NY Style Cheesecake　（18センチ型）

クリームチーズ　　 2箱（室温に戻しておく）
グラニュー糖　　 　 80グラム
コーンスターチ　 　 大さじ 3
バニラエッセンス 　2滴
卵　　　　　　　　　　2つ
生クリーム　　　　　200cc

底に敷く市販のスポンジケイク（手作りの方が良いけれど、ケイクの全量を使う訳では
ないので、既にできているプレインのスポンジケイクで十分）

私はケイクの代わりに、砕いたグラハムクラッカーと無塩バターを混ぜたものを敷きます。

=作り方=

1.　オーブンを175°Cに温めておく。

2.　室温に戻したクリームチーズを混ぜて柔らかくし、生クリームを3,4回に分けて
　　 よく混ぜ合わせる。

3.　卵をといておき、3回くらいに分けて混ぜ込む。

4.　 ふるったコーンスターチを2回に分けて馴染むまで混ぜ合わせる。ただし、混ぜ過ぎると
　　 分離することがあるのでご注意を。

5.　型の底と内側面にキッチンシートを合わせておき、底に、底辺に合わせた大きさの
　　 スポンジケイクかグラハムクッキーとバターのミクスチュアを敷き詰め、その上から
　　　4.を流し込む。

6.　175°Cのオーブン中段で1時間焼く。途中表面が焦げ気味になってしまったら
　　 アルミフォイルをかぶせて焼く。

7.　 オーブンから下ろし、あら熱が取れたら冷蔵庫で冷やす。

＊前の晩に作って翌日おもてなしすると一番良い状態で召し上がれます。　
　 おもてなしが当日の場合も、4時間ほど冷やされた方が美味しいと思います。




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