11年前の方が迫力がありました 蜷川幸雄『ハムレット』
蜷川幸雄80周年記念 彩の国シェイクスピア・シリーズ番外編 NINAGAWA × SHAKESPEARE LEGEND 第2弾『ハムレット』 [ 藤原竜也 ]価格:5950円(税込、送料無料) さて、買ってしまいました。蜷川幸雄が80才の記念に、藤原竜也と2度目のハムレットということで話題になった舞台です。オフィーリアが満島ひかり、その兄レアティーズを実弟 満島真之介が演じました。叔父 クローディアスを平幹二朗、母 ガートルードを鳳蘭、ハムレットの親友ホレーシオを横田栄司。 こう書くと本当にそうそうたる顔ぶれなのですが、、、、、正直、舞台としては11年前の『ハムレット』の方が迫力があったな、と思いました。あの、檻の中で演じるハムレットですね。WOWOWでは放送されたのですが、DVDにはなっていません。これは当時、蜷川幸雄が藤原竜也の喉を考慮して、台詞を一部、カットさせたためでしょうね。シェイクスピアの舞台の中でももっとも長くて難易度の高い『ハムレット』。当時、最年少ハムレットだった藤原竜也の喉が潰れるのでは?と心配されたそうです。必死で覚えた台詞を長期の公演を考えてカットされてしまった、藤原竜也はとても悔しかったそうです。それは演出家も同じでしょうね。きっとそれで形として残すことを許さなかったのだと思います。完璧主義の蜷川幸雄らしい判断ですね。オフィーリアが鈴木杏、フォーティンブラスが小栗旬だったのですから、売れるはずの作品だったと思いますが。 今回は「原点回帰」がテーマだったのか、舞台装置が一変。古い日本家屋になっていました。『ハムレット』が紹介され、舞台にかけるため練習され始めた当時の日本を思い出すためだそうです。そうなると芥川比呂志より前の時代になるのでしょうか?(芥川比呂志の舞台映像も観たいものです。残っているのでしょうか?)この舞台装置の構造のせいか、音響が悪かったのか、どうも台詞が聞き取りづらくて仕方なかったです。 さすがに平幹二朗は存在感がありますし、藤原竜也、横田栄司は安定していますし、満島ひかり・満島真之介もよかったのですが脇を固める若手の俳優さんたち、発声がちょっと、、、、。特典映像を観たのですが車椅子で、酸素吸入をしながらの指導、駄目出しをする相手は9割が藤原竜也だったようで、他の部分には力を注げなかったではないか、と思わせられるメイキング映像でした。 満島ひかりの立場から撮られたドキュメンタリーも観ましたが、注意をされないことに戸惑っている様子が映っていて、ああ、、と思いましたね。 一般的に、最初に出る時には駄目出しをされないらしいのですが、特定の相手(寺島しのぶ、藤原竜也、西島隆弘など)には1回目からガンガン駄目出しをした蜷川幸雄。駄目出しの多さ = 期待値の高さという風に見えます。名指しされての出演だった満島ひかりからすれば、「え?」だったでしょうね。それでもさすがはプロ。今まで観たオフィーリアの中で、一番、木から落ちて川に流れていきそうなオフィーリアでした。正気の時とは違い、狂ってからのオフィーリアはウィッグも違いました。つやがなく、ぼわっと広がった赤みがかったウェーブのロングヘアー。まるでラファエル前派の女性像(ロセッティの妻 エリザベス)みたいでよかったです。焦点が定まっていない眼が本当に怖かったです。松たか子も鈴木杏もそれぞれよかったのですが、ひっくり返って足をバタバタさせて、すごく元気。川に落ちたら泳げそうに見えるんですよね。松たか子・鈴木杏が「動」なら、満島ひかりは「静」の狂気。松たか子は映画『告白』や舞台『sisters』のように静かな狂い方も出来るのですが蜷川幸雄が選んだのはこの見せ方だったというのは面白いですね。 満島ひかりのオフィーリアで思い出したのが、ある人の思い出話。昔、仲代達矢・平幹二朗・市原悦子の『ハムレット』を観に行ったそうです。なんだか「反則」っぽいキャスティングの凄さに聞いていて笑ってしまいそうになりましたが。その人が市原悦子のオフィーリアのことを「川に落ちたらクロールで戻ってきそうなオフィーリアだった」と表していました。声が高くてきれいで、演技がものすごく上手い女優さんですが、「流れていきそう」に、はかなげに見えるかどうかは別問題みたいです。