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2005.09.01
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カテゴリ:うつくしいもの


 これは冷たいチャイを飲むためのグラスです。チャイといえばインドを想像するのですがこれは確かインドではなくパキスタンかバングラディッシュかスリランカかどこかそのあたりの国のものだったと聞いたようにおもいます。
 もう何年も前になりますが「いいものがあった」と友人がぼくの分も買ってきてプレゼントしてくれたものです。先日その友人に「あのコップはどこのものだったかな」と確認してみたのですが彼もすでに覚えていませんでした。

 ガラスのことにはまるで知識もないのですがこれはおそらく型成型のようにおもいます。淡い緑味を帯びた気泡だらけのこのコップはなんの装飾もなく、すくっと伸びたフォルムは型であればこそのこの上なくシンプルな姿で、また強く握れば簡単に壊れてしまいそうなほどに大変薄手に作られています。
 このなんとも洗練された姿には大変感激して、もののかたちというものを大いに学びました。ここまで来ればもうこの先がないという最後のガラス工芸だという気がします。なかなか現代の手仕事の作者にはここまで捨て切った仕事は難しいものです。かたちを少しひねってみたり、余計な紋様を付けてみたり、ついついそういう色気のようなもの、手作りの味と言ってもよいのかも知れませんが、何かそういうものに捕まりがちなのです。そうした仕事の結果がうつくしい場合はほとんどなく、報われないのをわかっていながら抜け出せない業のようなものかも知れません。本来工芸品の味とはものつくりの素材と工程、そして使い込まれてゆく間の手馴れによっておのずと備わる性質であり、作り手による作為の味などはいかにもわざとらしくて化学調味料のような嫌な感じがします。手仕事であれ機械製品であれうつくしいものにはたしかに味と言ってよいような性質が備わってはいますが、先に書いたような意味で味でものを作るのは極めて危険であるという気がしているのです。

 このうつくしいコップもこのような薄手の作りでは日々の暮らしの中では簡単に割れてしまうはずです。それからするとこれは日本で言えばファストフードの紙コップのようなほとんど使い捨てに近い大安物なのかも知れません。インドの駅でチャイを飲ませるコップがやはり素焼で出来ていて飲み終えればみんな汽車の窓から投げ捨てるというのを何かで読んだことがあります。素焼のものなら踏みつぶせばそのまま土に還って、そこが舗装していない場所ならばなんのゴミにもなり得ないのです。これがやはり近年プラスチックのコップに変ってきたにも関わらず同じように投げ捨てるのでそのゴミが問題になっているとも書かれていました。これと同じようなことはやはり日本でもあって、野山を歩けば至る所に空き缶やコンビニで買ってきたようなお弁当の容器などが散乱してあたりを汚くしています。これも一昔前の竹の皮でおむすびを包んで持ち歩いた頃の、捨てれば自然に還るという素材の時代と同じメンタリティーの名残でしょうか。感性は少しは知性の検閲を受けてもよいのだという気がします。一番簡単なものが素焼や竹皮からプラスティックに変ったということにはもっと自覚的にならねばなりません。何かを捨てたい時にはどのように捨てればどのように還元されるのかということを考えなければならない。うつくしいと感じたならばその拠って起こる因を考えなければならないと想っています。





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Last updated  2005.09.01 22:52:48
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