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さあ、店の中に入った。 そこのあんた、店内を見渡したらいけないよ。 すぐカウンターに近寄るんだ。 カウンターの上に無造作にチケットを放り投げる。 ただ、チケットを裏返しにせずに、表をはっきり見せるんだよ。 ここで間違うと、店員の「チエッ」という舌打ちを聞くことになる。 品名を店員に確認させるためには、ちゃんと見せておくことが肝要だ。 チケットも「ざる」「かけ」「きつね」「天ぷら」と大きく書かれている。 書かれている、そう、それしか書かれていない。 そうそう、だから、ここで大分というか西日本の人間は注意しないといけない。 何も言わなかったら蕎麦が出てくる。 うどんを喰いたい場合は、ひとこと言わなければいけない。 「うどん」 それだけでいい。 「うどんでお願いします」などと丁寧に言わなくてもいい。 「うどん」とぶっきらに低く言うだけでいいのさ。 ただ、間違っても叫んではいけない。 周囲の人から「やかましい」と言われるのがオチだろう。 ぶっきらぼうでいいのか。いい。店員もぶっきらぼうだ。 「いらっしゃい」などの挨拶はない。 「うどん」と言っても、「あいよ」などの返事もない。 白い汚れの染みた服を着ている。白い長靴を履いている。 頭には紙でつくった小さな帽子を被っている。 それになにより無愛想だ。 店員の笑顔などを見たこともない。 「ありがとうございました」 そんな言葉など忘れたかのような顔をしている。 おっと、躾がなってないとおっしゃるのかい。 おっと、おもてなしがなっていないとおっしゃるのかい。 おっと、おっとのおっとせい、愛想がないとおっしゃるのかい。 それでいいんだべえ。 それが立ち食い蕎麦屋なんだよ。 それだからこそ、東京の立ち食い蕎麦屋なんだ。 ああ、懐かしいな。東京の立ち喰い蕎麦屋よ。 一度、喰ったら忘れられない、あの味、あの早さ、あの安さ それになによりあの雰囲気がたまらなく愛おしい。 おいしいかって……誰もおいしいとは言っていない。 まずいのかって……誰もまずいとは言っていない。 あの味が懐かしいと言っているだけだんべえ。 ふふふ、立ち食い蕎麦屋談義を続けやしよう。(つづく) 人気blogランキングへ←ランクアップのために良かったらクリックして下さいな! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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