カテゴリ:学生の頃
間借りをしていた。すると外食が多くなる。 間借りをしている付近の食堂での食事がほとんどだった。 ただね、喫茶店での食事ということも少なくなかった。 いいや、当時は「喫茶店文化」といってもいいほど、 学生街には多種多様な喫茶店が沢山あった。 コーヒーを飲み駄弁る。 それが学生の本分と勘違いしているヤツもいた。 うん、その喫茶店では、マッチをレジのところに沢山積んでいた。 そのマッチを集めるのが、当時の学生の趣味だった。 ふふふ、それが私の「話したくない趣味」なのだ。 喫茶店で貰ってきたマッチを鴨居に並べる。 うん、わからない人のために具体的に説明しよう。 画鋲でたこ糸を鴨居の端と端の柱に張り、 その糸の間にマッチをずらーっと並べる。 ジャズ喫茶あり、クラシック喫茶ありと、並べているマッチにより、 その学生の品格というか気質がすべてわかるのだ。 そう、スナックやバーなどのマッチを並べているヤツもいた。 マッチを集めて並べるだけ、ただそれだけだ。 畳に寝転び、ぼんやりとマッチを眺める。 それだけでなんとなく気持ちがゆたかになれた。 うん、単純な哲学のない学生の私がそこにいた。 そして……「怠惰」にして「欺瞞」に満ちた今の私がいるのだ。 ああ、話さなければ良かったな。 そうだよな。マッチなど、今頃の学生は使っていないだろう。 うん、学生だけじゃない、誰も使っていない。 うん、それくらいはおろかな私にも理解できる。 でもね、鴨居に並んだマッチ、あのきらびやかなこと あの青春のきらめきにも似たマッチ、 そうだよな、マッチ棒を一本も使わなかった。 そう「スル」ところに傷があったら価値が落ちていたもんな。 茜色に染まった間借りの部屋、 遠くからはデモのシュプレヒコールが聞こえていた。 陽射しとともに風が突然に吹き込んできた。 鴨居に飾っていたマッチがバラバラと落ちてきた。 寝転んでいた私の頭にマッチがバラバラと落ちてきた。 バラバラ……私は青春の真ん中でおろかに不器用に生きていた。 (おわり) 人気blogランキングへ←ランクアップのために良かったらクリックして下さいな! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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