通訳とは二つ以上の異なる言語を使うことができる人が、ある言語から異なる言語へと変換することです。
一般的には、異なる言語を話す人たちの間に入り、双方の言語を相手方の言語へと変換し伝えます。
その中で、同時通訳は、話者の話を聞くとほぼ同時に訳出を行う形態であり、通訳の中でも花形的な形式です。
”同時通訳はやめられない”(2016年8月 平凡社刊 袖川 裕美著)を読みました。
同時通訳者として異なる言語を行き来することで見える世界や、表には見えない日々の格闘をユーモラスに描いています。
袖川裕美さんはこの同時通訳者の一人で、1980年東京外国語大学外国語学部を卒業、1988年カナダのブリティシュ・コロンビア大学修士課程修了しました。
1996年から4年間、ロンドンのBBCワールドサービスで放送通訳を務め、帰国後、NHK・BS、BBC、CNN、日経CNBCを中心に、放送通訳や会議通訳を行ないました。
2015年から愛知県立大学外国語学部英米学科准教授を務め、一部通訳の仕事を残しつつ、異文化コミュニケーションのための英語を担当しています。
通訳と言っても、逐次通訳、同時通訳、ウィスパリング通訳などの違いがあります。
通訳者は、通訳を行う場所・場面によって、会議通訳、商談通訳、エスコート通訳などがあり、求められているスキルにそれなりの違いがあります。
逐次通訳は話者の話を数十秒~数分ごとに区切って順次通訳していく方式であり、一般に通訳技術の基礎とされています。
話者が話している途中、通訳者は通常記憶を保持するためにノートを取り、話が完了してから通訳を始めます。
同時通訳は、話者の話を聞くとほぼ同時に訳出を行う形態であり、異言語を即座に自家国言語に訳す能力が必要とされます。
ほかに、相手の発言内容をある程度予測する必要もあります。
通訳者は、ブースと呼ばれる会場の一角に設置された小部屋に入り、その中で作業を行うのが一般的です。
ウィスパリング通訳は同時通訳方式ですが、通訳者はブース内ではなく、通訳を必要とする人間の近くに位置して聞き手にささやく程度の声で通訳をしていきます。
高価な通訳設備の用意が必要ないため、企業内の会議などで使用されることが多いです。
同時通訳では、通訳者の音声はブース内のマイクを通して聴衆のイヤフォンに届けられます。
同時通訳作業は非常に重い負荷を通訳者に要求するため、2人ないしは3人が同時にブースに入り15分程度の間隔で交代します。
時には、ブース内の控えの通訳者が、単語の提供など訳出の協力もします。
多言語間通訳が行われる国際会議で特に多用されますが、多言語地域であるヨーロッパでは通訳の需要のほとんどが同時通訳です。
同時通訳を仕事にしているというと不思議そうな顔をされる、といいます。
世の中に多い職業ではないせいか、すぐにはピンとこない人も多いそうです。
テレビのニュースの同時通訳を例に、これこれしかじかと説明すると、”へえ”と驚かれ、時には”すごい”と言われることもあるとのことです。
そして、英語だったら何でも分かり、右から左に、左から右へと、機械のごとく言葉を転換できると思われます。
だが、話はそう単純ではなく、残念ながら、そうすごくはないのだそうです。
他の多くの仕事と同じように、四苦八苦しながら取り組むうちに、だんだんこなせるようになっていく地味な仕事です。
職人的仕事であり、天性のセンスがいい人はいても、基本は研鑚と経験で技が磨かれる息の長い仕事です。
通訳はまた、舞台に出る俳優や演奏家、試合に出るアスリートのように、本番のある仕事です。
本番は一回しかなく、相手は毎回違うので、自分だけではコントロールできない不確定要素があります。
通訳はリハーサルもないので、自分がどこまでやれるか、事前に予想しきれないリスキーな仕事でもあります。
毎回自分の不備を感じつつ、実際にはそれほど頑張れない時を挟み、通訳は終わりのないマラソンのような、かなりマニアックな仕事かなと思う、といいます。
でも、日本語以外の言葉で世界のいろいろな人とコミュニケーションし、その仲介ができることはとても楽しいとのことです。
まえがき──同時通訳は職人+アスリート
1 同時通訳うちあけ話
華やかに見えますか?/株価も色気かと思いつつ……/「資料が命」の仕事です/「知的お得感」を求めて/同時通訳は“人間離れ”している?/飛び込んで、知る悦び/
テロと私/インフルエンザの誘惑/エージェントのコーディネーター/憧れのヨーヨー・マがすぐそばに
2 同時通訳が見た世界と日本
グローバリゼーションは終わった!?/「アンダー・コントロール」と「トラスト・ミー」/ケニヤ大統領の都内視察に同行/ちょっと微妙な香港/「おいしいoishii」を国際語に!/Wow ! 感いっぱいのインド/インド人に比べて日本人は幸せ?/固有名詞にご用心/スウェーデンの社会保障に学ぶ/“親日”に甘えてはいけない/日本ラグビーにしびれる/日本人の英語も、Cool !/コミュニケーションにおける論理と感情/誤訳のメッセージ性と真実/オバマ大統領にオマージュ
あとがき──ご案内の旅を終えるにあたって