石の世界石は地球にだけあるものではありません。
人間は月に行き石を待ち帰ってきました。
宇宙を漂う大きな石塊に向けて機械を飛ばし、石の粉を回収しました。
また、遥か昔に地球に落ちてきた石を調べて、水の起源を、そして生命の起源を探っています。
”奇妙で美しい 石の世界 ”(2017年6月 筑摩書房刊 山田 英春著)を読みました。
さまざまな石の模様の美しい写真とともに、国内外のさまざまな石の物語を紹介しています。
石はあいかわらず世界の謎を解くカギなのです。
自然界の謎を石が背負っているように、石は人の心の謎を背負っています。
山田英春さんは1962年東京都国分寺市生まれ、1985年に国際基督教大学を卒業し、出版社勤務、デザイン事務所勤務を経て、1993年に装丁家として個人事務所を開設しました。
瑪瑙コレクターとしても世界的に知られ、いろいろな石を紹介した著書があるほか、ウェブサイト=LITHOS GRAPHICSでさまざまな石を紹介しています。
著者は鉱物学や岩石学の専門家ではありませんが、初めに基本的なことを説明しています。
石の模様に興味をもつようになったきっかけは、フランスの学者ロジエ・カイヨワの”石が書く”という、石の模様と人の想像力に関する、一冊の本だったといいます。
石の模様は人間が独自に作り出してきたと自負する芸術に先立って、より広く普遍的な美が存在するという事実を、つねに暗示し、思い出させる密かな声なのだといいます。
石の模様を見ると、人がものを見て美しいと感じる感覚とは何なのかということを考えずにはいられません。
また、人間が生み出してきた造形、とくに抽象美術をさまざまに思い起こします。
石を科学的に分類すると、鉱物と岩石に分けられます。
鉱物は一定の化学組成をもった結晶質のもので、単一の元素の結晶もあれば、複数の元素が結びついた物質の結晶もあり、化学式で表すことができます。
私たちが宝石と呼んでいるもののほとんどが、純度の高い鉱物の大きな結晶をカットして磨いたものです。
結晶は原子や分子が規則的なパターンで配列された個体で、それぞれの鉱物特有の形の癖である晶癖というものがあります。
たとえば水晶は先が尖った六角柱形、黄鉄鉱は正四面体や十二面体の姿になりやすいです。
この形の簡明な美しさ、そして色や透明感に惹かれ、鉱物の結晶を愛好、コレクションする人は多いです。
一方、岩石は細かい数種の鉱物の粒の集合したものです。
岩石は地中のマグマ由来の火成岩、泥や砂などの堆積したものが固まった堆積岩、岩石が熱や圧力の作用で変質した変成岩の三つに分類されます。
さらに火成岩は、地中のマグマがゆっくりと冷えて固まった深成岩と、流れ出した溶岩が固まった火山岩に分けられます。
深成岩には花尚岩、かんらん岩などが、火山岩には玄武岩、流紋岩などがあります。
河原に落ちているような普通の石ははとんどが岩石ということになりますが、鉱物の結晶の多くは岩石の穴の中に入っています。
日本で観賞石というと、主に天然の岩石の形を愉しむものが多いです。
石を本の台座に置き、その形を山景などにみたてて愉しむ水石も、ほとんどが岩石です。
本書で紹介する石のほとんどはいわゆる宝石ではありませんし、水晶などの大きな鉱物の結晶でもありません。
一部は岩石ですが、石の外形を見せるものでもありません。
ここで扱うのは主に、ある鉱物の微細な結晶が集合しつつ、他の鉱物と混じり合ってできた塊を切った断面です。
つまり、石の中に立体的に入っている造形を取り出し、平面的に見せたものです。
かなりの部分は瑠璃、ジャスパー、オパールといった、シリカ=二酸化ケイ素を主成分にしたものです。
シリカが結晶したものは石英と呼ばれます。
石英は私たちが上に乗っている地面を構成する鉱物で二番目に多いものです。
石英の大きな結晶は水晶と呼ばれ、石英の目に見えないごく微小な結晶が集合して塊になったものは玉髄=カルセドニーと呼ばれます。
この玉髄にいろいろな鉱物が混じることで、色や形のバラエティーが生まれます。
それらは日本では瑠璃と総称されていますが、欧米の宝飾の世界では色、模様の特徴別にさまざまな名が使われてきました。
オレンジ・赤茶色のサード、赤味の鮮やかなカーネリアン、緑色のクリソプレーズ、平行線の縞模様のオニキス、
そして、曲線の美しい縞模様のあるアゲート、樹木のような形が入っているデンドリティック・アゲート、苔のような、水草のような形が入っているモス・アゲートなど、
数十種にもおよぶ名前があります。
これら石英系の石が見せる色彩と造形には、他の鉱物を圧倒する多様性があり、名前の多さはそのバラエティーの豊富さを示しています。
こうした名前の使い方は地域によっても微妙に異なります。
日本語の瑠璃は英語のアゲートの訳として使われますが、イコールではありません。
アゲートは模様の美しい玉髄だけに使われる名前なのに対し、日本では無色透明な玉髄も瑞瑞と呼ぶことが多いです。
また、日本で玉髄という名は、地域によってはまた違ったタイプの石に使われることもあります。
本書では、やや日本での用法に寄せた形で、色のついた、模様のある玉髄全般を瑪瑙と呼ぶことにします。
本書では、三つのパートに分けてさまざまな石について紹介しています。
まず、石の特徴的な模様と、それを人々がどう受けとめてきたかという話”石は描く”、
次に石の造形にこめられた地球の歴史、地域の歴史、ひとつの時代の話についての”石は語る”、
そして、石を追い求めてきた人の歴史、私か石を探し求めた話の”石を追う”です。
それぞれの項はほぼ独立したものになっているため、読む順番は問いませんが、先に掲載されている項目で紹介したことがらを受けて書かれているものも多いです。
石は描く フィレンツェの石/縞模様の誘惑/モリソン氏の芸術的なジャスパー/虹を探して/インドの「木の石」)
石は語る オーストラリアの奇妙な石たち/ドラゴンの卵、亀の石/スコットランドの小石
孔雀石の小箱
石を追う 花の石/サンダーエッグの女王とその息子/「小さな緑色の怪物」/コロンビアの瑪瑙