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北 の 狼

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Feb 9, 2005
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1997年、オーストラリア、サマンサ・ラング監督、パメラ・ラーブ主演。

出演する役者や監督をはじめとして、製作陣の殆どが女性でしめられており、また作品内容も女性の解放をテーマとした、フェミニズム映画です。



*****************

足が不自由な中年女性へスター(パメラ・ラーブ)は長い間父親とふたりで暮していたが、そこへ家政婦として施設育ちの若い娘キャスリンがやってきた。
質素で単調な田舎暮らしに嫌気がさして飛び出したキャスリンを追いかけて、なだめて戻るように説得するへスター。キャスリンとへスターのぎこちない共同生活が始まるが、やがてふたりの間には親密な感情が生まれる。

父親が亡くなりへスターが遺産を相続すると、ふたりは思うままに金を使い、ぜいたくな生活を送るようになる。そのお金が底をつくと、ふたりは農場を売って大金をえて、外れにある小屋に移り住む。
その家の庭には古い井戸があった。ふたりは将来の欧州旅行を約束しながら、お金を小屋の中に隠し田園暮らしを再開する。
この時点では、お互いに必要とするものを与えあうふたりの関係は、バランス良く保たれていた。

ある夜、酒に酔って車を運転していたキャスリンが、山の小道で見知らぬ男を轢いてしまった。怯えるキャスリンに代わってヘスターは、男の死体を庭の井戸に捨てる。
翌日、偶然立ち寄った近所の人から、最近空巣が出るという話を聞き、もしやと思い確かめてみると、隠しておいた大金が跡形もなく無くなってしまっていた。ふたりは、昨晩轢き殺してしまったあの男が空巣だったに違いない、だからなくなったお金は死体と一緒に井戸の底にあるのだ、と思い至る。
ヘスターは、キャスリンに井戸の中に入ってお金を取ってくるように言うが、キャスリンは人を轢き殺してしまったことに怯え、さらにヘスターの命令にも強い嫌悪を覚える。

キャスリンはやがて「井戸の中の男はまだ生きており、自分は井戸の食べ物を与えてきた。彼は私を愛しているといい、私も彼を愛している」と言い出した。ヘスターは、男は死んでいたと説得しようとするが、キャスリンは聞く耳を持たない。かみ合わない言い争いを続けるうちに、ふたりが心に秘めていた確執が明らかにされていく・・・・・。

外は嵐を前にして雨が降り続いている。涸れていた井戸の水位は雨で上昇し始める。彼は本当に生きているのか? 消えた大金はどこにあるのか? 

*****************



原題は『The Well』ですが、井戸は二人の女性の関係のメタファとなっています。

人は、井戸から水を汲み上げ、その水によって渇きを癒します。

足が不自由で、少女時代のヨーロッパ旅行を唯一の華やいだ思い出として、あとは父を扶けて家を切り盛りすること以外になんの変化もみられない生活を当然のこととして甘受していた、クラシック音楽好きの中年女性ヘクスター。
施設育ちで自由奔放、テレビやディスコやロック音楽がなければ生きていけない、キャピキャピの現代娘のキャスリン。

タイプも性格もまったく違うこの二人の女性は、お互いに自らの生を充実させるためのアイテムを相手から汲み上げてきたわけです。
中年女性のヘスターはキャスリンから自由への予感や恋を得、対してキャスリンはヘスターからお金や愛情を得てきました。つまり、両者とも相手と交わることを通じて、人生の新たな可能性(=エロス性)を相手(=井戸)から汲み上げていたのでした。
かくのごとく、庭の井戸は、二人の良好な関係性のメタファとなっていたわけです。


そこへ一人の男が登場します。酒に酔って車を運転していたキャスリンに轢かれ死亡(?)した男です。
そして、その男の死体は、こともあろうに、二人の良好な関係を象徴する庭の井戸に投げ込まれてしまったのでした。
このことによって、二人の良好だった関係に徐々に亀裂が生じてゆくことになります。

なくなったお金は井戸のなかの男(空巣)が持っているとされ、また、その男は生きており、キャスリンはお互いに愛し合っていると述べるようになります。
このことは、それまでのキャスリンはお金や愛情を(井戸たる)ヘスターから汲み取っていましたが、井戸に男が投げ込まれた結果、お金や愛情の源(井戸)がヘスターから井戸の男へと移行してしまった、ということを意味しています。

恋人の片方に別の恋人ができて破局をむかえる物語・・・・こう書いてしまうとあまりに俗っぽいものになりますが、この作品の射程はもっと広いものがあります。
どう広いのかというと、ひとつにはフェミニズム、もうひとつには「欠如」という要素がみられることです。

フェミニズムについてですが、ヘスターとキャスリンの間を仲介するとともに破局に導いたものとして、「父」が重要な要素をなしています。ヘスターは、父権的な支配・被支配という関係のもと、キャスリンにお金と庇護的愛情というこれまた父性的なアイテムを与え続けていたわけです。
ヘスターとキャスリンの関係は結局は破綻するわけですが、このように欺瞞的な父性に基いた(女二人の)人間関係の脆さを、この作品は告発しているといえます。

「欠如」についてですが、足が不自由なヘスターは父親と二人っきりでずっと自閉的な生活を送ってきたわけで、彼女の生活には自由や恋愛というものが欠如していました。対して、施設育ちのキャスリンには、経済的基盤や家族愛というものが欠如していました。
二人はお互いの欠如を補いあい埋め合わせあっていたのですが、このような消極的なモチーフに基いた関係では、将来的にそう長続きはしない、とこの作品は訴えているようです。つまり、このような関係からは一時的な癒しの効果は期待できるでしょうが、生を充実させるために本当に必要な環境は、欠如の埋め合わせではなく新たな創造性を喚起しあえるような人間関係なのであって、それが無理なら早晩破局をむかえるしかないのだ、と。


◇      ◇      ◇      ◇ 


この映画では「足」が各場面で強調されています。
足が不自由で杖がなければ歩けないヘスターの姿に対して、キャスリンの健康的な足は必要以上に露出され、ヘスターの不自由ぶりを表徴するとともに、二人の性的関係(レズ)のメタファともなっていますね。実は、この映画ではラブシーンらしきものは一切登場しません。

他にもブーツ、髪の毛、鍵などが象徴的に用いられています。

また、ブリーチ・バイパスと称される、青を基調とした映像、さらには、いかにも女性中心の作品らしい繊細な映像やアクションが印象的でした。





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Last updated  Feb 10, 2005 11:13:07 PM
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