沢木遥の「幸せ力をつける練習日記」

以前、会社の大先輩（団塊世代）が、小柳ルミ子の離婚騒動のとき、
「ルミちゃん、かわいそうに……。あんないい子が、若い男にまんまとだまされちゃって」
とすごく悲しそうに言っていて、
「え、あれって小柳ルミ子がケンヤを食ったんでは？？」
と、いう言葉を飲みこむのに苦労したことがある。

アイドルっていうのは、そんなもんだ。
若い頃のアイドルは、自分にとっていつまでもアイドルだ。
彼女（彼）を振り返るのは、若き日の自分を振り返ることだし、
その後の人生を、自分の人生と重ねてみたりする。
だから、どんなに「転身」しても、歌手が女優になっても、
ママドルになっても、バラエティーの司会やっても、
どこか旬のころの世代観がべったりくっついていて、
「あの人は今」あるいは、「あの人の昔」的なものは、尽きないのだろう。

なんとなく再読してしまった、『アイドルという人生』。
７０年代、８０年代のアイドルたちの生きようを綴っているムック本。
これも結構古いのだけど、引っ越しをして、本の順序が変わると意外な再会がある。

天知真理、麻丘めぐみ、石野真子、中森明菜、わらべ、長山洋子
工藤夕貴、本田美奈子、若林志穂、斉藤由貴、おニャン子クラブ……、
こないだの日記にも書いた岡田有希子のことも載ってる。

「蛍ちゃん」と言われ続けることへの屈折した思いを抱きながら、倉本監督を父のように慕い続ける中島朋子。

絵に描いたようなアイドルとしてデビューしながら、自己の世界を見つめ続け、孤高の人生を歩む斉藤由貴。

横浜銀蠅の妹分としてデビュー、史上最年少で武道館コンサートをした岩井小百合。ディズニーランドでの恋人の突然死、芸能レポーターとしての復帰……

現在国際女優といわれる人から、行方不明のＢ級アイドルまで、
さまざまな人が出てくるし、ライター何人かで回しているので、語り口も、温度もまちまち
ごった煮ふうなのだが、これが、読むたび発見がある。

男性はまた違う読み方をするんだろうけど、女性にとってはかなり痛いのが、
アイドルとして脚光を浴びてからの迷走ぶりだ。
年とともに残酷なまでに値段が下がっていく。もがく。スキャンダル、トラブル……。

ああそうか、と思う。
当時の彼女たちの多くがなぜ、
「結婚したい、子供のお弁当をつくる優しいママになりたい」と
夢を語っていたのか。
ずっと、「こんなの事務所のイメージ戦略」、と思っていた。
けれど、実際若くして結婚している人が多い（すぐに離婚している人も多いが）。

それはもしかして、自分に値段をつける、人身売買のごとき過酷な世界から
「商品」であることをやめたい、「競争」から降りたい、外側に身を置いて楽になりたい、
ということではないだろうか。
結婚して母にでもなれば、女としての商品価値はとりあえず、ゼロになる（ような気がする）。
もうだれかに「買って」もらおうとしなくていい。
キャンディーズが言った、「フツーの女の子に戻りたい」というのは、
「降りたい」ってことなんだな。

とはいえ、フツーでも、元アイドルでも、雅子さまでも（またかい）、

結婚したからと言って、子供産んだからといって、
歳をとったからといって、うずく心からは逃げられない。
夜な夜な煩悩やあきらめられない夢たちが首をしめてくる。
だいいち、結婚なんて、シェルターでもなんでもない。
夫だって生身の人間だし、結婚って案外簡単に壊れたりするし。
見切りをつけたはずの「女」が、じくじくするし。
かっこわるくなるし、落ち込むし、体調もくずすし。
中島みゆきの歌に、どんどん坂を下りていく……というのがあったけど、
「そっから先」が、たいへんだ。

女の人生には「いっちょあがり！」はない。
なんてこったい、トホホのほ、だ。
もがいて闘って、自分の人生を切り開いていかなくちゃいかんのだよね。

がんばろうね、堀ちえみちゃん。