エコロジカル・ソーシャルワーク
スクールソーシャルワークの基底には、エコロジカルな視点があります。この点に関して、代表的な論者を2人以下に紹介します。1、ジャーメインのエコロジカルモデル(1992) ジャーメインは、学校が子どもにとって、生活の時間・空間を占めかつ濃密な人間関係が織り成される「生態学的な(ecological)な単位そのもの」であり、「『子ども』が『学校』と密接な相互作用を持つことは明らかであり、その密接さにおいては、『子ども』と『家族』の相互作用に次ぐものである」と認識している。そのため、ソーシャルワークにおけるエコロジカルアプローチが最も自然に適用できる場として学校を捉えている。 その上で、SSWerは「文字通り『学校』と『子ども』の交互作用の中間面(interface)に位置している」とし、同時に「『学校』と『家族』、『コミュニティ』と『学校』の中間面にも立つ」と位置づけている。そして、その位置でのSSWerの役割を、「子ども、両親、コミュニティが、社会的力量(competence)を高めるための援助をする位置に立つのであり、同時に、三者のニーズや願望にたいする学校の『応答性』を高める援助も行う」という「二重の機能」を担うことと規定している。2、山下英三郎のエコロジカルモデル(2003) 「学校で福祉の視点に立ったサービスを提供しようとする」「旧来の方法論とは異なる新しいパラダイムに基づいたサポート・システム」と山下はSSWを規定する。 山下論の大きな特徴は、「子どもは一個の人格として尊重され、SSWerは彼らのパートナーとして共同して問題解決に望むという姿勢を保持する」という視点を強調している点に見られる。SSWerは子どもの「伴走者」であるという表現を用い、このことを説明している。SSWerは「問題の肩代わりをするという関与」でなく、子ども自身の「自己の可能性に対する信頼回復の条件作り」に参加する姿勢をとる。援助の方法論とするのは、エコロジカルアプローチであり、生活モデルである。「当事者だけが一方的に治療されたり矯正されるというアプローチをされることなく、子どもの周囲の家庭や学校、地域社会も変革の対象として想定される」という主張はジャーメインと一致し、「調整や仲介、連携といった機能」を重視している。 そして、山下の学校教育に対する基本的な認識としてあるのが、「子どもたちの可能性を拓く場というよりは、もはや疲弊や欲求不満を醸造する場と化している」という不信感である。不登校の子どもへの教育相談やスクールカウンセラー制度などについても、「教育の対象者である子どもたちの側ばかり変容や適応を強いる対応策」としている。この意味するところからSSW制度によって学校のあり方を問うていく姿勢が感じ取れる。また、山下は不登校の子どもに対するSSWの目的を再登校には限定せず、子どもの最善の利益を探る援助を求め、フリースペースの立ち上げなど地域資源の開発や草の根の市民に対する呼びかけも行ってきている。 1900年代当初にアメリカにおいてSSW活動を創始したのがセツルメントという市民活動だったことを考えると、山下が草創したわが国初めてのSSWの実践方法論もアメリカをなぞるような市民活動をベースとした展開であったといえる。参考文献・山下英三郎、内田宏明、半羽利美佳(2008)『スクールソーシャルワーク論』学苑社・山下英三郎(2003)『スクールソーシャルワーク-学校における新たな子ども支援システム-』学苑社・日本スクールソーシャルワーク協会編(2005)『スクールソーシャルワークの展開』学苑社・カレル・ジャーメイン著、河村ちひろ訳(1992)「学校ソーシャルワーク」『エコロジカル・ソーシャルワーク -カレル・ジャーメイン名論文集-』学苑社