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2009年07月22日
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カテゴリ:熱砂の約束
第2話 『クルーズに来た思いは・・』 <全25話>

────────────────────────────────────
このクルーズに来たのは、夫と二人きりになりたかったからだ。

二人が愛してやまない子どもたちのことや、日々の雑事も忘れて。

雑事とは、おもにアンドリューズ・アンド・マクミラン建築設計事務所の仕事のことだ。

結婚して八年になるレイフは、才能と努力の人で、熱心に仕事に打ちこみ、今やこの会社の共同経営者としてなくてはならない存在になっている。

カタカタカタカタカタカタカタ。

ああ、また聞こえてきた。

いやというほど知っているあの音が。

荒れた波が打ちつけ、雨が激しくたたきつけ、風がうなる音をかいくぐり、水槽の通気装置のごぼごぼという控えめな音に混じって、あの音が聞こえてくる。

カタカタカタカタカタカタカタ。

レイフがノートパソコンを使って仕事をしている音だ。


まったく、レイフときたら。

この一生に一度のとびきりロマンチックな休暇に、パソコンと電話機とブリーフケースをしっかりと持参するなんて。

マイアミへの機中も、マイアミに泊まった夜も、彼は電話をかけてばかりいた。

グランドバハマ島へのローカル便の機中では電話は使えなかった。

アナベル・リー号の船上でも通じなかった。

だが、パソコンは彼を失望させなかった。

そんなわけで、昨夜の乗船以来、彼はグウェンとではなくパソコンと結婚したのではないかと思えるほど、その前に張りついていた。

レイフ・マクミランは、ラム酒入りのカクテルを楽しむ時間も持たなければ、デッキに出てカリブの金色の太陽の下でのんびりと過ごすこともなかった。

妻に注意を払うこともしない。

あんまりだわ。

彼の目はモニターに釘づけで、新しい物件の予備設計図をつくるのに夢中になっている。

雨が激しさを増した。

風がひゅうひゅうと鳴る音も少し大きくなった。

それにつられるように、グウェンは体を起こして座った。

今夜はまだあきらめてはいけない。

レイフをその気にさせるために、ターコイズブルーのサテンとレース地の、透けたテディーをわざわざ身に着けたのだ。

もう一度、なんとか彼の注意を引かなくちゃ。

グウェンは立ち上がった。

かなり大きな波がまたアナベル・リー号にぶつかり、足元の床がわずかに揺れた。

でも、そうひどくはない。

心配することはないわ。

船長がそう言ったじゃないの。

グウェンはチーク材で縁取られたアーチ型の戸口を抜けて、リビングルームに入った。

レイフはソファに座り、その前にある低いコーヒーテーブルの上にノートパソコンを開いている。

一心に集中している彼の表情を見ると、結婚して八年たった今でもグウェンは胸がどきどきしてしまい、ため息をつかずにいられなくなるのだった。

憎らしい人ね。

                       <7/23公開 第3話へつづく>

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この作品の一部、または全部を無断で転載、複製などをすることは著作権法上の例外を除いて禁じられています。

All rights reserved including the right of reproduction in whole or in part in any form. This edition is published by arrangement with Harlequin Enterprises II B.V./ S.a.r.l.  All characters in this book are fictitious. Any resemblance to actual persons, living or dead, is purely coincidental.

Published by Harlequin K.K., Tokyo, 2008





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最終更新日  2009年07月22日 16時44分24秒
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