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2009年08月03日
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カテゴリ:熱砂の約束
第10話 『水平線の向こう』 <全25話>

────────────────────────────────────

ぼくたちは西へ流されているらしい。

これはいいことなのか?わからない。

そろそろ水平線上に島が現れてほしいものだ。

船でもいい。

沿岸警備隊とか。

この海域には、麻薬の密輸船などを追う沿岸警備隊の船がうようよしているのではなかっただろうか?

一、二度、何かがレイフの脚にぶつかった。

そして離れていった。

鮫?それとも、同じくらい危険な何か?そうだったとしても、死は二人を素通りしていった。

レイフはグウェンがため息をつくのを感じた。

彼女は頭をレイフの肩に預け、丸めた体を流れにまかせて少し伸ばしている。

まるで海がベッドで、レイフの肩が枕だというように。

彼女の髪が海面に浮かんでゆらゆらと動き、レイフの首をなで、首に絡みつき、また離れていく。


「見て」

グウェンが言った。


「かもめだわ」


見ると、ブーメランを二つつなげたような姿が空を背景に羽ばたいていた。

空は、二人がやって来た方向が明るくなりつつあるように見えた。

グウェンが言った。


「海の上でかもめを見たら陸が近いって、どこかで読んだわ」

がっかりさせるのはつらいが、レイフは言った。


「それは間違った説だよ。鳥は途方もない距離を飛ぶことができる。実際に飛ぶしね」

グウェンは、またため息をついた。


「間違いなの?」


レイフは、そうだと言う代わりに喉を鳴らした。


「ああ、レイフ」


グウェンはささやいた。


「愛しているわ。本当にごめんなさい」


レイフは、しょっぱい味のする彼女のこめかみにキスをした。


「そんなふうに考えるな。自分を追いつめるんじゃない。疲れるだけだし、なんのためにもならないよ」


「わたしを追ってくるべきじゃなかったのよ」


レイフは笑みをもらした。


「今さら遅いよ、グウェン」


「避難訓練を受けたとき、教わったわよね。誰かが海に落ちたら――」


「救命浮き輪を投げてブリッジに連絡すること。でも、ブリッジに連絡しようにも、きみは遠くへ流されてしまっていて、できなかったんだ」


グウェンは何も言わなかった。

だが、何を考えているかはわかった。

また自分を責めているのだ。


「やめるんだ」


そう忠告しながら、頭は別のことを考えていた――間違いない。

東の空が確かに明るくなっている。

レイフは片手でグウェンの腕をなでた。


「日が昇るよ……もうまもなくだ」


グウェンは、笑い声とも、すすり泣きとも取れるような声をあげた。


「そんなにひどいようには見えなかったの。嵐のことよ。デッキに出た当初はまったく。手すりのところまで行ったわ。そうしたら、みるみるうちにひどくなっていったの」


「もうすんだことだよ、グウェン。今の状況に対処しよう」


グウェンは小さく息を吐いた。


「あなたはいつも本当に現実的ね」


「きみはロマンチックじゃないと言うけどね」


「わたしがばかだったわ」


レイフはほほ笑んだ。


「だが、ぼくの愛すべきおばかさんだ……」


「レイフ?」

グウェンは体を起こして立ち泳ぎしていた。


「どうした?」


「見て」


グウェンは西のほうを指さした。


「見える?」


レイフにも見えた。

それは陸地だった。

                       <8/4公開 第11話へつづく>

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この作品の一部、または全部を無断で転載、複製などをすることは著作権法上の例外を除いて禁じられています。

All rights reserved including the right of reproduction in whole or in part in any form. This edition is published by arrangement with Harlequin Enterprises II B.V./ S.a.r.l.  All characters in this book are fictitious. Any resemblance to actual persons, living or dead, is purely coincidental.

Published by Harlequin K.K., Tokyo, 2008





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最終更新日  2009年08月03日 10時09分05秒
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