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カテゴリ:熱砂の約束
第25話 『最終話』 <全25話>
──────────────────────────────────── グウェンの中で、絶望が激しい痛みとなって現れた。 涙が頬をつたった。 だがそのとき、頭の中で声がした。 レイフにそっくりな声で、彼女に言った。 「あきらめちゃいけない」 レイフの声だと思ったが、実際に声に出して言ったのはグウェンだった。 こんなことではだめだ。 甘えている場合ではない。 ここに立っているのはわたしで、今はわたしがなんとかしなければいけないのだ。 どんな状況に陥っても、自分で勝手に絶望に屈したりしてはならない。 炎は燃えているし、黒く濃い煙が上がっている。 パイロットには見えるはずだ。 きっと引き返してくる。 すると、ちょうどそのとき、グウェンが自分に言い聞かせていたとおりのことが起こった。 飛行機のエンジン音がまた聞こえ、大きくなってくる――戻ってきた。 戻ってきたのだ! それに、広い海の向こうには船が見えた。 小さな船。 救助船だ。 スピードを上げてまっすぐこちらに向かってくる。 後ろに白い航跡を残しながら。 頭上では飛行機が機首を下げ、また上げると、旋回して戻ってきた。 船は砂浜へと疾走してくる。 奇跡が起こったのだ。 わたしたちは救助される。 助かるのだ。 レイフのもとへ駆け寄ると、彼は意識を失っていた。 グウェンは彼の頭を膝に乗せて、ささやいた。 「ああレイフ。もう大丈夫よ。約束するわ。あなたはよくなる。助けが来たのよ……」 六カ月後。 毛並みのいい灰色の猫を足元に従えて、グウェンは子どもたちの様子を見てまわった。 まずケニヨンの部屋のドアをそっと開けて、爪先立ちでベッドのところへ行き、上がけを引き上げると、起こさないようにそっと体のまわりに押しこんだ。 それからマッティの部屋へ行き、同じことを繰り返すと、グウェンは大きなあくびをして、一人ほほ笑んだ。 廊下に戻ると、猫がドアのところで待っていた。 グウェンはあとをついてくる猫と一緒に階段を下り、家の一階にある夫のオフィスに向かった。 レイフはコンピューターの前に座って、今取りかかっている新しいプロジェクトの画面に見入っていた。 グウェンは一人ほほ笑み、静かに下がって部屋を出ようとした。 だが、レイフには聞こえていたらしい。 彼は椅子の上で振り向き、片手を差し出した。 グウェンは彼のもとへ行った。 レイフはグウェンの丸くなったおなかに手のひらを当てた。 「アイランド・ベビーのご機嫌はどうだ?」 「ええ、アイランド・ベビーは元気よ」 グウェンは身をかがめて彼にキスをし、唇の奥の甘さを味わった。 彼への深い愛をかみしめながら。 これが至上の愛なのね。 この愛は生涯続く。 何があっても壊れはしない。 <ご愛読ありがとうございました> ──────────────────────────────────── この作品の一部、または全部を無断で転載、複製などをすることは著作権法上の例外を除いて禁じられています。 All rights reserved including the right of reproduction in whole or in part in any form. This edition is published by arrangement with Harlequin Enterprises II B.V./ S.a.r.l. All characters in this book are fictitious. Any resemblance to actual persons, living or dead, is purely coincidental. Published by Harlequin K.K., Tokyo, 2008 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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