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カテゴリ:運命がくれた愛
第23話 『カルロヘの感謝の想い』 <全24話>
──────────────────────────────────── その夜遅く、ホテルの部屋のドアの下に、封筒が二通差し入れられた。エストレリャはそれをベッドへ持っていった。 ひとつめの封筒は濃いクリーム色で、なかからやはりクリーム色をした、厚手の招待状が出てきた。 インテグロ投資銀行主催、 映画『ワン・ハート』のプレミアショーに、 貴殿をご招待申しあげます。 明晩七時、〈リヴィエラ・ホテル〉まで ぜひお越しください。 カルロが約束してくれた特別上映会だ。 エストレリャは震える手で、ふたつめの封筒を開けた。そこには、ニューデリーまでのファーストクラスの航空券が入っていた。片道だけの航空券が。それを見て、目に新たな涙があふれた。 翌日の夜、エストレリャはまるで闘いの準備をするように細心の注意を払い、上映会のためにドレスを着て、髪を整えて、化粧をした。ある意味で、それは闘いの準備だった。今夜遅く、カルロのもとを去る前に、もう一度だけ彼と顔を合わせる心がまえをしているのだから。 エストレリャはバスルームの鏡に映る青白い顔を見つめた。 今夜は地獄の苦しみを味わうことになるだろう。カルロといっしょにいながら、本当の意味でその時間を共有できないことは、想像できるかぎりもっとも残酷な罰だ。 ドレスのストラップに手を伸ばして、位置を直す。ドレスの生地は肌色のサテンで、きらきら光る透明なスパンコールをあしらった小さなすみれの花々が、その上を覆っていた。とてつもなく高価で、ハリウッドで好まれる挑発的なデザインだった。今夜もう一度だけ、魅惑的なモデルの役を演じなければならない。カメラマンや記者たちの前で輝いてみせて、『ワン・ハート』が間違いなく最大限の注目を集めるようにしなければならない。 カルロが運転手つきのリムジンをよこしてくれたので、エストレリャはそれに乗って〈リヴィエラ・ホテル〉へ向かった。途中、輝くスポットライトが、夜空に何本もの白い光の筋をつけているのが見えた。 リムジンが砂浜で止まって初めて、そのスポットライトがプレミアショーのためにつけられたもので、その光のもとにたくさんの人々が引き寄せられているのがわかった。 エストレリャは畏敬の念に打たれた。これはみんな、カルロが考えてくれたことだ。赤いカーペットの上を進むうちに、いくつものフラッシュが目の前で閃いた。大きな会場で開かれるプレミアショーに負けないほど、おおぜいの記者たちが集まっていた。 たった三日で、カルロはどうやってこれほどの準備をすべて整えたのだろう?わたしのために、上映会場や観客や記者たち、赤いカーペットまでそろえてくれたのだ。 エストレリャはもう少しで落ち着きを失いそうになった。カルロのしてくれたことすべてがとてもありがたくて、その援助に対する感謝で胸がいっぱいだった。今までカルロのような男性に出会ったことはない。そして、これからも出会うことがあるとは思えない。 砂の上に張られた白いテントのパビリオンに入ると、そのなかでカルロが待っていた。上映会は盛装で参加することになっていたので、今夜もまたタキシードを着ている。 その姿を見たとき、エストレリャの胸は高鳴った。カルロはとても大きく堂々としている。わたしの夢を守るために、力を尽くしてくれたのだ。 「とってもすてきよ」 エストレリャはカルロのタキシードの袖に手を置いて、頬にキスしようと伸びあがった。 そのとき、彼がこちらに顔を向けたので、キスは唇で受けとめられた。 「愛している」 エストレリャの目が熱くなった。胸の痛みはまるで引き潮のようだ。そのうずきに引っぱられ、のみ込まれそうになっているのに、屈することは許されない。インドの少女たちのことが頭に浮かんだとたん、自分にはやらなければならない仕事があるのを思いだした。 「わたしも愛しているわ」 エストレリャはそうささやいてカルロから離れ、各国からやってきた映画バイヤーの輪のなかへ入っていった。 <10/30公開 最終話へつづく> ──────────────────────────────────── この作品の一部、または全部を無断で転載、複製などをすることは著作権法上の例外を除いて禁じられています。 All rights reserved including the right of reproduction in whole or in part in any form. This edition is published by arrangement with Harlequin Enterprises II B.V./ S.a.r.l. All characters in this book are fictitious. Any resemblance to actual persons, living or dead, is purely coincidental. Published by Harlequin K.K., Tokyo, 2008 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009年10月29日 09時50分21秒
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