2009/10/30(金)09:37
最終話 [運命がくれた愛_第24話]
第24話 『最終話』 <全24話>
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しばらくすると、大きな白いテントが巨大な映画のスクリーンになり、きらびやかなドレスやタキシードに身を包んだ招待客たちは、砂浜一面に用意された椅子やブランケットに腰を下ろした。テントのなかを照らしていた明かりが落とされ、映写機のスイッチが入れられる。そして、二巻あるフィルムのうちの一巻めの上映が始まった。
上映が終わるころには、『ワン・ハート』は数々の放送局や、独立配給会社や、アメリカの大手ケーブルテレビ局に買われていた。プレミアショーに参加した人たちのあいだには、この映画はアカデミー賞の候補作品になるだとか、翌年のサンダンス映画祭で上映されるのではないかといったうわさが、飛び交っていた。
その夜は大成功だった。しかし、何事もそうであるように、結局はパーティーも終わるときがきた。招待客たちはいなくなり、テントはたたまれて、エストレリャはホテルへ帰った。
そこで旅行用の服に着がえると、荷物をまとめて、宿泊料を支払った。
ニース空港に着いた彼女は搭乗手続きをすませ、セキュリティチェックを通りぬけた。そして、搭乗ゲートで待っているとき、見覚えのある黒みがかった頭に目がとまった。頭の持ち主は新聞をのぞき込んでいる。
エストレリャは口をあんぐりと開けた。カルロがなぜ空港にいるのだろう?
「ここで何をしているの?」
彼に向かって尋ねたとき、もうすぐ搭乗が始まるというアナウンスが流れた。
カルロは新聞から目を上げて、驚いたふりをした。
「どうしたんだ、エストレリャ?きみこそ、ここで何をしている?」
「まだわたしの質問に答えていないわ。あなたはここで何をしているの?どこへ行くつもり?」
彼が立ちあがった。
「飛行機に乗るんだ。そして、インドへ行く」
「そんなはずないわ。インドへはわたしが行くのよ」
カルロは口笛を吹いた。
「運命だな」
「いいえ、運命じゃない。ただの間違いだわ」
「間違いじゃない」
彼は搭乗券を差しだした。そこに印字された座席番号は、エストレリャの席の隣だった。
「ここにチケットがある。席も取ってある。ぼくはインドへ行く」
「でも、なぜ?」
「きみが行くからさ。そばにいたいんだ。きみに目を光らせている人間が必要だろう」
彼がこんなことを言うのは、わたしを信用していないからではない。心配してくれているのだ。愛してくれているのだ。
前にも愛の告白は聞いていたが、このとき初めて、エストレリャはカルロの愛を体と心のすべてで感じた。これからは彼がいっしょにいて支えてくれる。長い年月、たったひとりでがんばってきたあとだけに、彼女は天にものぼる思いだった。
それでも、カルロが自分といっしょにインドへ行くという事実に対する驚きは大きかった。彼が何を手放し、何を犠牲にしようとしているのかをわかっていたからだ。
「でも、銀行は?家族の方たちはどうするの?」
「気にしなくていい。ぼくがこうするのは、きみのためでもあるけれど、自分のためでもあるんだ。ぼくにあの子たちを救うことができるなら、救ってやりたい」
エストレリャの目に涙があふれた。
「これから行くところに、高級ホテルはないのよ」
カルロは手を伸ばして彼女を抱き寄せ、腰に両腕をまわした。
「わかっているよ、カーラ。ぼくは寝袋や、蚊帳や、水筒の必要な生活でもだいじょうぶだ」
「それじゃあ、向こうに虫がいることは知っているのね」
「ああ。虫はたくさんいるだろうな」
カルロは少し唇をゆがめて笑った。
「だけど、これからの一年をきみと過ごせるなら、ばったの大群にだって耐えてみせるさ」
エストレリャの笑みがためらいがちになった。
「一年だけ?」
「それは、きみが結婚してくれるかどうかによるな」
「結婚するわ!」
エストレリャは両腕をカルロの首に巻きつけ、背伸びして彼の唇にキスした。
「カルロ・ガベリーニ、わたしがしたいことを教えてあげる。あなたと結婚して、あなたを愛して、死ぬまであなたと過ごしたい」
カルロが顔をほころばせて、エストレリャの唇を唇でそっとたどった。
「今のを書類にしてもらえるかい?」
エストレリャは声をあげて笑った。何年かぶりで心が軽くなっていた。
「必要ないわ。そんな書類を使う日はこないもの。わたしたちがいっしょになるのは、運命だったんだから」
<ご愛読ありがとうございました>────────────────────────────────────
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Published by Harlequin K.K., Tokyo, 2008