育児に役立つ情緒発達の見方
2.情緒発達の概要 生後すぐには、緊張や興奮を高めて不快感を表します。いわゆる固い感じの泣きが生まれた時から表現されます。欲求が満たされると、おとなしくなり眠ります。欲求不満の時にはもちろん不快で泣くわけですが、欲求が満たされた時にはリラックスするだけで快感は感じないようです。赤ちゃんの気持ちの内面までは分かりませんから、快感を感じていないとはもちろん言い切れませんが。 新生児期にまどろみの状態で自発的に現われていた微笑は、1~2ヵ月頃には、人の声や顔に対して緊張を伴って現れるようになってきます。このような緊張性の微笑は、メリーゴーランドのようなガラガラという反復性の刺激に対しても現れ、刺激(人も含む)に集中した喜びと考えられます。微笑する時には身体を固くさせながらもぞもぞ動いたり、グーとかアグーといった固い感じの声を出します。これが、集中性の喜び、または、緊張性の喜びです。 この段階に情緒発達が停滞すると、感覚刺激に集中し、変に身体を緊張させる自閉的な行動が顕著になると考えられます。満足感は乏しいので人との親密な関係も形成されにくくなります。また、緊張・集中を伴う情緒のためこだわり(固執性、頑固さ、同一性保持)が強く現われます。 さらに、生後3~4ヵ月頃には、人に抱っこされることを期待してバタバタと手足を動かしながら、キャッキャッと活発に笑い、興奮性の喜びを顕わすうになってきます。興奮が高まると、頭を左右に揺らすようになり、注意が定まらなくなります。 この段階に情緒発達が停滞すると、落ち着きのなさ(多動性)が目立ちます。はしゃいだ感じで心の底まで感じることが弱くなり、何かよくないことをしても反省することが弱くなります。カラッとした性格で、平気な感じで危険なことをするし、危ないことをして痛い目にあっても、ワッと大きく泣いたらスキッとしてしまってまた危険なことをしようとします。失敗しても懲りないわけです。また、深く考えることをしませんから、記憶が定着しなかったり、じっくり考えなかったりして、学習がうまく行かないことになります。 生後6~7ヵ月頃には、イナイイナイバーなどの弱弱強休といったパターンを持つ働きかけによって、イナイイナイの部分でジーと見ては、バッと部分でハハハと力を抜いて軽やかに笑うようになってきます。なぜこのように喜ぶかと言うと、イナイイナイの段階でバッが来るのではないかと予期し、バッという予期した通りの結果が現れて、「ああよかった」という感じにリラックスして喜ぶのではないかと考えられます。 生後7~8ヵ月頃には、欲求が満たされたり、期待通りになったり、目標が達成されたりした時にハーと息を吐き身体の力を抜きながら、微笑が現れるようになってきます。これもリラックスした喜びであり、弛緩性の情緒、くつろぎ性の情緒と考えられます。 このような満足感によって、ゆったりとした楽しさを感じるようになり、安心感や人に対する親密感を感じるようになります。このような安心感や親密感を感じることで養育者と赤ちゃんの間で愛着関係が生まれてきます。赤ちゃんは、心地よくくつろぎたいと思って母親と一緒にいたがるようになります。また、安心感が徐々に増える過程で不安も感じるようになります。いわゆる人見知りが現れるようになるのです。 また、弛緩性の喜びは、人の行動を見て結果を予期し、予期した結果が現れることで感じる喜びですから、弛緩性の喜びを感じれるようになることで、人のやることに興味を持てるようになります。人の活動は、例えば食事を準備し食事を出すという結果が現れるという仕組みになっていますから、「準備(予期刺激)+結果」という出来事を楽しむようになるわけです。弛緩性の喜びが現れることで、「準備+結果」という人の出来事を楽しめるようになり、人のやることに面白さを感じて、興味が湧くようになります。 人とのくつろいだ関係が成立し、人のやることに興味が現れることで、模倣や共感が現れてきます。人から学び、共に喜べるようになるのです。また、結果が現れて喜ぶことから、出来事の終わりを意識できるようになり、母親がイナイイナイバーをするとそれで終わったと思って、次に自分がイナイイナイバーをするというように、役割の交替ができるようになります。つまり人とのやりとりを楽しめるようになるということです。 また、出来事の結果を喜ぶことから、結果を自分で引き起こすことに興味を持つようになり、結果を引き起こす目標に向かって頑張るようになってきます。1歳頃になると、頑張って目標を達成すると、単に力を抜いて満足することから、気分を高揚させて喜ぶ達成感を示すようになります。達成感が現れてくると、何かした時に誉めると喜ぶようになってきます。誉められて喜ぶという形で親子の共感関係も強まります。 1歳半頃には、達成感や誉められることを通じて自信が育っていきます。また何をすると誉められるかが分かり、お手伝いのように誉められることをしようとします。また、共感する喜びから、自分から共感を求めるようになり、自分が感動したことを伝え、人と共に感動しようとします。このことが子どもと大人の情報交換を促し言語発達を促進することになります。また、質問に答えたり質問をしたりして知的な発達が促されます。人と楽しく過ごすことでその楽しさを再現する見立て遊びも盛んになり、生活への興味や想像力も増えることになります。 2歳になると、自信に基づいて自我(これだけのことができる自分という意識)が育ち、自己主張できるようになってきます。3.情緒発達を促す働きかけ 情緒に偏りがある場合は、行動も偏り、人からの学習も不十分になるので、人間関係を通じて情緒のバランスを促す働きかけが重要です。集中・緊張性の情緒が強い場合は、活発に遊びで緊張を発散させ、力くらべでリラックスできるようにします。高揚め興奮性の情緒が強い場合は、活発に遊んでは着席させホッとできるようにします。また力くらべや手ブラブラでリラックスできるようにします。その上で何かに集中できるように働きかけます。ゆったりし過ぎの子は、力くらべで頑張りを引き出したり、くすぐりで活発に遊べるようにします。また、弛緩性の情緒が不足して不安の強い子は、力くらべで頑張らせてはリラックスできるようにします。無断転載可、無断複写可、無断使用可 植草学園大学、ほどき心理相談所 安藤則夫