2024/01/25(木)10:48
「肉弾」河崎秋子
「肉弾」河崎秋子
圧倒的なスケールで描く人間と動物の生と死。第21回大藪春彦賞受賞作。
大学を休学中の貴美也は、父・龍一郎に反発しながらもその庇護下から抜け出せずにいた。北海道での鹿狩りに連れ出され、山深く分け入ったその時、2人は突如熊の襲撃を受ける。貴美也の眼前でなすすべなく腹を裂かれ、食われていく龍一郎。どこからか現れた野犬の群れに紛れ1人逃げのびた貴美也は、絶望の中、生きるために戦うことを決意する。
圧倒的なスケールで人間と動物の生と死を描く、第21回大藪春彦賞受賞作。
解説 平松洋子
直木賞を受賞した「ともぐい」がまだ図書館から借りれないし、
購入予約もしているが在庫切れということで、この本を借りてきた。
いやー、河崎秋子さん恐るべしである。
彼女の作品を何作か読んでいて、「骨太」だとは思っていたけれど、これはさらに迫力があった。
私は本来、サバイバル的な小説はあまり好みではないし、
中でも生きるためとは言え獣と闘い食べるというようなシーンは避けたい方だ。
この作品はまさにそんな感じで、読み始めてからちょっと逃げたいような気がしたけれど、
河崎さんの迫力に射すくめられた感じで、結局ガーッと読んでしまった。
この作品は、まさに彼女の本領発揮という感じだ。
北海道の自然の中で、飼われている動物であれ自然の中で生きる動物であれ、
動物の命の営みを身近にしながら、
生き物としての人間として生きている人ではなければ書けないと思う。
生きることは食べること。それは、命をいただくこと。
大きな食物連鎖と自然の循環の中でしか人間は生きれないということは、
誰しも頭でわかっているとは思う。
しかし、本当に実感としてわかっているだろうか。
私はきっと、多くの都会人よりはそれをわかっていると思うし、
北海道の農業はそこに生きている動物たちとの攻防戦であり、
傲慢にも人間の都合によって、
自然界で必死に生きている動物たちを駆除をすることも知っている。
動物愛護の使命に生きている人たちは、人を襲う羆でさえ「殺すな」という。
最近はペットを飼う人たちもとても増えているが、
そんな人たちにも是非この本を読んでほしい。
動物にとってどのような生き方が本来の姿なのかについても、考えさせられた。
生きる意欲や意味を見失った時、自分自身の身体が何を欲しているのかに気付くのは、
命の危険を感じる時かもしれない。
単なるサバイバル小説と思ってはいけない。
本当に様々な問題提起をしている作品だと思う。