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April 22, 2004
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モバイルフォンに、データ着信の連絡が入った。
カフェに入り、備え付けのコンピュータにIDカードを挿して、パーソナルモードに切り替える。
画像付きのメールが届いている。
私のサイトに訪問して、私に興味を持ってくれたらしい。
淡々と賛美の言葉が並べられていて、シグネチャには、彼のサイトのアドレスが乗っていた。
画像を見てみる。
ごく普通の男性に見えた。
少し神経質そうだけど、やさしそうだった。
流行の髪型は寝癖にしか見えなかった。
少しだけ、私は微笑んだ。
彼のサイトにアクセスしてみた。
虜になった。
何故なら、私のサイトと対を成す内容だったから。
テーマは『愛と死』。
小説や詩、写真で彩られたサイト。
らせんのように絡み合う彼と私。
お互いがひとつになるような錯覚は生まれないかもしれないが、一定の距離感を楽しめる関係ではないかと思った。
返事を書くことにした。
淡々と秘めた想いを。

あれからどれだけの時間が過ぎたのだろう。
大好きだった前の彼。
旅先で出会って、忘れていた頃に、偶然、街の雑踏で再会したのだ。
連絡先を交換して、週末のデートを重ねた。
私の誕生日にプレゼントと一緒に、「俺と付き合ってくれないか?」というとても素敵な宝物をもらった。
それから1年後の誕生日も二人で過ごして、2年後の誕生日は独りだったんだ。
趣味の旅行も年に2回くらい一緒に行っていたけど、別れてからは、旅行に行くことも無くなった。
突然、居なくなった彼への想いを昇華させるために、このサイトを始めたのだ。
このサイトでいろいろな人から励ましの言葉をもらい、いつしか過去に溺れることがなくなっていた。
2年の月日。
長かったようで、短かったようで。
久しぶりに懐かしい思い出に浸かりながら、メールをしたためた。

どこかで会ったような懐かしい想いに浸りながら、心がフワフワと浮遊を始める。
それから順調に毎日メールの遣り取りが続いていく。
サイト仲間からの書き込みも「最近、明るくなったけど、何かあったでしょ?」という類の冷やかしが多くなってきた。
私も心が喜んでいるんだもの、仕方ないでしょ、と開き直ってみたりする。
でも、彼は淡々としていた。

毎日、お互いのサイトの作品と批評し合い、どちらが始めるとも無く、同じタイトルの小説を書き始めた。
実際に会ったことが無い二人の間で空想の世界の二人がデートを重ねる。
小説の主人公である恋人たちの模様は、実際の私と彼のようで、少しくすぐったいような感覚と逢いたいという想いが募る。
小説を通じて、とても濃密な会話をしているんだ、きっと。
二人の物語は呼応するように盛り上がり、いつしか終盤に差し掛かろうとしていた。
出会って半年間、電話で声も聞いたことが無いし、会ったこともない。
でも半年続いたお互いの小説は、二百編ほどの長編になっていた。
小説が終わりを迎えたときに、彼と会って、想いのたけをぶちまけようと思った。
この彼なら、私を護ってくれると強く思った。
「あと、一週間くらいで、この物語を終えようと思う。もしよかったら、新しい物語を始めるために、今度の週末会わないか?」
彼と私は、同じことを考えていたようだ。
とても嬉しいって思った。
そして、金曜の夜にエンディングをアップして、次の日の13時に、お気に入りのオープンカフェで彼を会う約束をした。
彼はどんなエンディングを書くんだろう。
私はもう、決めている。
そして、新たな物語を彼と紡いでいくんだ。
嬉しい想いが溢れ出しているのか、エンディングに向かって、私の物語はハッピーでいっぱいになっていった。
それに呼応するように、彼の物語は静かに淡々としている。
「何故?何故なの?嬉しくないのかしら。」
不安や期待、いろいろな想いが溢れてくる。
そして、眠れないまま、金曜の朝を迎えた。
仕事も手につかない。
二人の物語は、今日の夜、結実し、明日は彼に会えるのだ。
そして、また新しい物語を紡いでいく。
仕事もそぞろに、あっという間に一日が過ぎて、夜、彼のサイトを覗いた。
私のエンディングは、超ハッピーで夢に溢れている感じだ。
ちょっとやり過ぎたかなと思いながら、彼の小説を読んでいた。

彼の小説はバッドエンドだった。
小説の中の彼は事故死していた。
『愛と死』が書かれていた。
涙が止まらなかった。
彼の小説の感想をメールした。
悲しみに溢れていたら、疲れて寝てしまっていた。

次の日、彼から送られてくるはずの私の小説の感想がなかった。
そして、約束の時間にカフェにも来なかった。
カフェの閉店時間の30分前から涙が止まらなくなった。
彼へのメールの返事も来なかった。
痛みに耐えられなくなり、家に帰りめそめそしていた。

一週間後、小説も休止していて、コンピュータにさえ触れなくなっていたが、ふとメールボックスを覗いてみた。
彼のアドレスからメールが来ていた。

「はじめまして。直樹っていいます。
 以前、美樹さんと付き合っていた秋一の弟です。覚えていますか?
 何度かお会いして、優しくしてもらったこと、僕は覚えてます。
 兄貴が羨ましかったですもん。

 あ、兄貴ですが、先週の土曜に、交通事故で亡くなりました。
 兄貴の遺品を整理していたら、美樹さんとのメールの遣り取りを見つけて、
 全て、読みました。
 連絡が遅れてすみません。

 最近の兄貴、とても楽しそうにしていて、今度、美樹とやり直すんだと
 俺の頭を小突きながら言っていました。
 俺も、美樹さんとまた会えるかもしれないと思ったら、すごく嬉しかったんですが、
 こんな形で連絡することになってしまい、ごめんなさい。

……………………   」

あのメールに添付されてきた画像は、直樹君だったんだ。
ちょっと大きくなった直樹君。
「格好良すぎるじゃない。」
涙が溢れてくる。
隠れていた真実が涙で洗い流され露わになっていく。
「自分で書いた物語通りになるなんて卑怯じゃない。残された私はどうすればいいのよ。」

知り合った頃の彼の物語の主人公の名前が男の子は直樹で、女の子が和美だった。
彼に、和美って名前、私の妹と同じ名前だよってメールしたことがあった。
そして、彼は、偶然だよって言っていたんだ。
でも、偶然じゃなかったんだね。

そして、決心したんだ。
私と秋一の新たな物語を書いていこうと。

そう、あの日から、新たな物語は始まっているのだもの。

私は、涙を拭って、サイトにアップする新たな小説をしたため始めた。







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Last updated  April 23, 2004 04:56:40 PM


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