≪闇の覚醒≫
幕が上がり、司会者をスポットライトが照らす。「レディース&ジェントルメーン!! ようこそ、この劇場へ!」 大きく手を広げて客席を見渡しながら大声で言う。「ここでは様々な世界を紐解き、色々な物語を上演しております」 前に出した右手の平に丸い球体が現れる。 球体の表面に描かれている模様はクルクルと高速回転しながら次々と入れ替わっていく。「現在上演中である『真紅の堕天使』、『閑話-物語にもならない物語-』、そして『闇に映る月』。偶の偶に更新される短編劇『真紅の堕天使 談笑編』、『SDガンダムズ-真紅の堕天使版』…etc…。今回は凍結中だった『紅の魔道』であります。アホでバカのヘッポコ製作者がやっとやる気を起こしたらしいですね。まったく、遅いんだよウスノロの狗が……おっと失礼」 ワッと観客が笑い声を上げ、劇場は騒然となる。「あまり長引かせても悪いので、早速始めましょうか。では、『機動戦士ガンダムSEED-DESTINY 紅の魔道』、開演」 機動戦士ガンダムSEED DESTINY 紅の魔道 第一幕≪怒りし瞳を持つ者≫PHASE-00≪始まりの始まり≫ 漆黒の宇宙空間、青く輝く地球と、白く輝く月が見える。 そして、超高速で擦れ違い、ぶつかり合う二つの巨大な影…。デウス・エクス・マキナ、機械仕掛けの神と呼ばれる機械神である。「魔道回路に異変、戦闘力…52%にまで低下」 血のように紅い深紅の装甲を持つ翼を背負った機械神の中で、真紅の髪に深紅の瞳を持つ少女が、後ろに立つ男に言う。 男はギリッと歯噛みし、苦々しげに呟く。「ちっ、もはや此処までか……奥義で奴の目を眩ます。そのうちにお前は逃げろ…。そして、次なる主人を探し出せ」「はい。それが貴方の望みとあらば」 男の言葉に少女は賛同し、頷く。 それを確認し、男は必滅の究極奥義を繰り出すべく、精神を集中させ、魔力を一点に集めていく。「ふ、何をするのかは知らぬが…無駄な足掻きだ」 深紅の装甲を持つ機械神とは対照的に、寒々しいほどに蒼い装甲を持った機械神の中で、少年は呟いた。 だが、動きを止めている相手に攻撃を仕掛けるわけでもなく、悠長に構えるあたり、かなりの余裕があるらしい。「兎も角…次で終わりと言う事だな…」 少年が呟いた瞬間、深紅の機械神は右手に漆黒の刃を持つ剣を持ち、掲げる。「魔を砕きし漆黒の神剣よ、契約の元にその力の一端を我に貸し与えよ…。『エグレイド機関完全燃焼』!」 男は蒼い装甲を持つ機械神に憎しみのこもった眼を向け、一気に接近した。「受けよ、我が断罪の一撃を!」 その言葉と共に振り下ろされた黒き神剣から光が溢れ、周囲を焼き尽くした…。「…魔道回路損傷、稼働率45%まで低下、やってくれたな」 数分後、装甲の一部を抉り取られた蒼い装甲を持つ機械神の中で、少年は苛々しげに呟く。 魔力障壁を張っていたとは言え、やはり『あの』機械神の相手をするには完全ではないこの機体では荷が重かったようだ。「だが、これでアレは無力な本となったか…」 そう、主人を失った魔道書に何が出来る…。 少年は薄く笑い、機械神は闇に同化するかのように消えて行った。「あ~暇だ~空から破壊ロボでも落ちて来ないかな~?」 薄暗い図書館の中で、蒼い髪の少女は本当に暇そうに呟いている。「いや、本当に暇なんだもん」 ……しかし、彼女の瞳は鮮血のような深い紅に染まっている。しかも、絶望を称えたような色をしているのは…気のせいだろう。「よく『お前は目つきが悪いな』って言われるけど…そんなに悪いかな~?」 ここはアーカムシティ。悪の天才科学者、ドクター・ウエストが時々破壊ロボを繰り出して街に出現する以外にはいたって平和で、普通な街である。「ホントにあのおっさんは懲りないよね」 少女、紅 春奈(ハルナ・クレナイ)は新聞を見ながら呟く。見出しには『破壊ロボ、出現!GGGの巨大機動兵器とメタトロンによって被害拡大前に食い止められる』と大きく載っている。 魔術と錬金術の恩恵により、この街は他に類を見ないほどに成長していた。 多くの成功者達が巨万の富を築き万民に支えられ、憧れという名の脚光を浴びる、大黄金時代の只中にある街と言って良いだろう。「さてと、帰るかな」 新聞を読み終えたハルナは軽く伸びをしてから立ち上がった。鞄を取って出口へと向かう。 今日も昨日とさして変わらない一日が過ぎ、明日も今日とさして変わらない一日が過ぎる。そう思っていた…あの事件が起きるまでは…。 町の中心部に在るミスカトニック大学から彼女の家までは徒歩で10分ほどである。 くたびれた感のあるマンションの一室、そこが彼女の現在の家だ。 10年以上前の事件に巻き込まれ、両親を失ったハルナには肉親がいなかったため、両親が残してくれたお金を使って暮らしていた。 あれからいろいろあった…そう、本当にいろいろと…。「…らしくないな…」 軽く頭を振る。昔の事を思い出すなんて…嫌な思い出しかないというのに。 そして、ふと空を見上げた彼女の眼は、驚愕に見開かれた。 血の様に紅い深紅の装甲を持った巨大な人型の人形が堕ちて来る。 そうか、さっき破壊ロボが落ちて来たらな~とか思ったからか。とか思ったが、そんな事はない。 思っただけで全て真実になってたら今頃世界は大混乱になっているはずだ。「でも、綺麗…」 このまま走ってもあの巨体なら軽く押しつぶされる。それに、あの色は…とても現実離れしていて、尚且つ、綺麗な色…。 そう思った次の瞬間には、彼女の華奢な身体は、機械神の巨体に押しつぶされた。 ズドーーーーーーン! グシャッ! 機械神が地面に直撃し、巨大な音が響き渡る。そして、小さな何かが潰される音も…。 幸い、周囲には人が居らず、犠牲者は出なかった。約一名を除いて。 後にこの事件は新聞に取り上げられるのだが、それは別の話である。「ん、んんん…」 紅い…視界が、赤く染まっている…なぜ?あ、そうだ……私潰されたんだっけ…じゃあここは天国かな?「うわぁ」 ハルナは目を開け、そして心底嫌そうな声を漏らした。 彼女の周囲は紅く染まっていた。そう、紅く、ただひたすらに紅く。 多分地平線まで赤く染まっているのではないかと思うほどに紅い世界であった。「すいません、巻き込んでしまって…」 後ろから突然かけられた声に、ハルナは反射的に振り向いた。彼女とて魔術師である。まだ未熟だけど……。「誰?」 それは、紅い少女だった。ただでさえ赤い世界の中で、一際紅いローブを身に纏い、真紅の髪に血を湛えた様な深紅の瞳を持ち、どこか神秘的な感じを漂わせる少女である。 ハルナはそんな彼女に対して警戒したまま問い掛ける。「…私は魔道書『エノクの書』です」 その名前には聞き覚えがあった。たしか、十六世紀末に英国の科学者・数学者である、ジョン・ディー博士の手により解読不能の言語で記された魔道書だった気がする。「ん…?ちょっと待ってよ。魔道書なら本の形してるはずでしょ?」「ええ、たしかに通常の魔道書はそうですが、長い歳月を経験し、力を持った本は人型になることも出来るのです」 ハルナの実直な疑問に少女は答え、ハルナは感嘆の声を上げた。「ほへ~、本当にそんなのが実在したとはね…で、要件はなに?」 真面目な顔で、ハルナは少女に問う。 少女は沈痛な面持ちで俯き、言葉を吐き出していった。「実は、私の前マスターが戦死なされ、次のマスターを探すべく地上へと降りたのですが、ちょっとしたトラブルがあってそのまま…」「つまり、主人を探すために地上に降りたは良いものの、そのトラブルとやらのせいであの巨大なのが私の上に落ちたと。そういうわけね」「はい…すいません」 少女は本当に申し訳なさそうに俯き、謝罪の言葉を口にした。「…あんな事故を起こしておきながら、なんですが…」 少女は暫らく逡巡していたが、やがて意を決したように言う。「私のマスターになってくれませんか?」 ハルナは呆けた表情を浮かべたまま、固まった。 まあ、普通ならいきなりこんなこと言われて快く了承する人間なんてのはそうそういない。そう、普通なら。「…まあ、良いけど…飽き飽きしてたんだ。あの生活にはさ」 ハルナはあっさりと了承し、逆に唖然としている少女に向き合う。「私はハルナ、ハルナ・クレナイ。貴方は?」「あ、私はニーナと申します。これは前のマスターが付けてくれた名ですが…」「ふ~ん、ニーナか…良い名前じゃん」 ニーナは自分の名を褒められ、頬を薄紅色に染める。「な、何ですか?」 ハルナが好奇の目で見ているのに気付き、問う。「いや、あのでかいのはなんだったんだろうな~って思ってさ」「ああ、デウス・エクス・マキナのことですね」 ハルナの問いにニーナは答え、説明をした。「…んじゃあ、今あるの?」「はい」 ニーナの返答と共に彼女の後ろに巨大な人型の物体が出現した。デウス・エクス・マキナ、エクスシアである。 その装甲は血の様に紅く、背中には翼があり、肩には2枚の盾が装備されている。 腕は細く、指の先は尖り、悪魔の爪を連想させる。脚はスラリとしており、つま先には2本の剣がある。 その姿はまさに『鮮血の天使』と言うに相応しいだろう。 ハルナは、その圧倒的な存在感、そしてその神気に圧倒された。「凄い…綺麗だ…」 そんな言葉しか出せないほどに、禍々しく、そして華麗で神々しい。これが、機械神……。「さあ、マスター行きましょう…魔を討つ為に」「うん…そうだね」 ニーナの言葉にハルナは頷き、コクピットへと収まる。 そして、エクスシアはこの紅い世界から消えて行った。その先に、運命の出会いがあるとも知らずに……。<次回>機動戦士ガンダムSEED DESTINY 紅の魔道 PHASE-01≪始まり≫おまけ司会者「とりあえず、やっと始まったって感じだね」???(?「長らく凍結状態のまま放置されてたし。あのバカは……まったく」司会者「始まりの始まり。これからか。……君も出るんだろう? ***君」???(?「あくまで未定。でるかも、としか言えない。カイゼルやユウヤは出ないけど」司会者「彼らは真紅の堕天使のみで使うことを正式に決定したらしいしね。本編と談笑編ぐらいか、此処での出番は」???(?「そうみたい。……私には関係ないけど」