何度も何度も
このシュミレーションを
見直しては、
システムのプログラム実行の手順を詳しく解読しようと調べていました。
「必ずや回避の方法が……」 と休む間もなく続けていたその傍らで、
神々の権力欲は増し、更に増大した戦線をくり広げ、人間の生み出す闇の力とは比べられない程の規模で、正に混沌と化した神々の世界となっていきました。
「死」 など無かった世界に、この闇と化した人間の魂は神々に 「死」 をもたらし始めました。これが、システムの 「神の抹消プログラム」 です。
閻魔天のシステムコンピュータに記録されているのは、生命の歴史データのみであった為に
システム内で起こる作用についてのシュミレーションが、ビジョン化できない為、
時間のビジョンが再生される前の空白の数秒間に、このシステムで起こる流れが表示されているはずだということは解ってはいるものの、閻魔天の専門は電気化学で、ソースの解読は梵天王の分野であった・・・
閻魔天の持っている小さなシステムコンピュータも、実際には梵天王に頼んでプログラムしてもらったものであった。けれども、その梵天王も、すでに神々の戦に巻き込まれ、
力をつけた帝釈天の手に掛かり抹消されていた。
「早くこの流れを食い止めなければ……」 と思う閻魔天は何度も見返していたシステムシュミレーションの中に、ふとした違いに気がつきます。
それは、進行中の地球時間の人口率と、シュミレーション後の人口率の差がかなりあるということでした。
「これは…神々の世で増幅された闇の魂の力を使って、相対となる新しい領域を造り出し、
システムにリンクさせたネットを伝って、地球へと放出している... エネルギーを送り返しているのか……
だが、だからといって人間が増えるというのはどういう仕組みであるのか、闇の魂が勝手に肉体を形成するはずは……」 と言いかけて閻魔天はもうひとつ、ある働きに気が付きました。
元の闇の力は人間の魂に附随したが、送り返された大量の闇の力は、よく見ると月に一直線に同等の質量で又、一定の速度で流れ込み地球に面した領域から人間の魂の質量と同じ分子量に分けられ地上に降りそそぐような様子で、流れ込んでいました 「これは……」、閻魔天はこの働きに驚きました。
「闇の力が闇で無くなっている…… 一体どういう事だ、月がまるで浄化を行っているような、何故月にそんな働きがあるのか……」
破壊を生み出す闇の力は月の中を通りぬけ、地表にたどり着くと汚れをおとしたように元の
七色をおびた美しい光を放つ変化の力に戻っていた。
そして不思議なことに、変化の力がふりそそぐのは月と直面している、つまり
地球から見て満月に見える位置に対して流れ、そのエネルギーはまるで何かを探知しているかのように、陸地へと向かっていくのでした。
その様子を見た閻魔天は 「隠された答え」 の更なるシステムの意図の確信に近づきます。
闇の力を浄化する月を見て、閻魔天は考えました。
「何故、月に流れ行くのか、闇の力を浄化するというのは…」
「変化の力である魂というものは、システムの時差から生じたものであるが、
時差はシステムにおいて混沌(カオス)と呼ばれていたもので、この混沌(カオス)についてシステムのデータベースには、何の記録も無かった。記録に無い事が何故起きるのであろうか… 全く解らない事だらけだ…電子の流れを追ってみるしかないか…」
閻魔天は独自のデータベースをもっています。
いわゆる 「閻魔帳」 と呼ばれるものですが、元々閻魔天という名の下にプログラムされたのは電気化学です。つまり閻魔天は、化学変化に伴う電気的な現象や電気に関する化学変化についての理論及び応用を研究し、そのデータを解析するノウハウをプログラムされた科学者なので、
その解析を行う為に、造り上げたのが 「閻魔帳」 というシステムコンピューターです。
その閻魔帳を使って、閻の力の流れと月の作用の関係を調べました。
太陽系のネットワークからはじめ、神々は銀河を通じて太陽へと結ぶ道を創り上げましたが、それは闇の魂をシステムに戻す為の働きで、システムの中に住む神々の内に保管した闇の魂を送り出すというネットワークなどまだ誰も考え着く間もなく、混沌の戦いが始まってしまったので、それどころではなくなった・・・というのが、実状でした。けれども閻魔帳に映し出されたシュミレーションは、はっきりとこの闇の魂の浄化法を示していたのです。
閻魔天はつぶやきました。
「相対となるものはむしろ、必然であるのか…でも、何故月であるのか、それに相対が必然であるなら時差となる混沌はシステムの進化にとって排除するものではなく逆に最も重要なものではないのか、…だとしたらあらかじめ、それは起こるべくして起きている事で、ただ我々が知らないだけではないのか…」
はっとしたように、閻魔天は閻魔帳を使って月に関する情報を調べ上げました。
「どこかにあるはず...いや、必ずある!!」 そう言いながら解析を続けました。
閻魔天が探していたのは、システムに記録されていない「未来」でした。
つづく