日なたの記憶とベランダー
何とも時間の進みがゆっくりな午後である。私は休日、予定を入れないタイプだ。根っからのインドアであり、何もない休日を作るためにスケジュールを管理しているといっても良い。今日は何も予定が無く、まさに理想的な日曜日である。何も無い、を謳歌するために早起きをし、午前中に掃除や洗濯などの家事を済ませた。午後を愉しむため、事前準備に抜かりはない。何かタスクが残ったままだと、宿題を済ませていない子供のように、ふとした瞬間「あ、あれまだやってないな」と心がざわつくので、身辺は完璧にしておくことだ。今日は朝から主人も出かけており、丁度13:00に私は完璧な状態となった。最強である。選挙カーが近くの団地で騒がしく演説をしているが、そんなことも気にかけない。今やこの国において私は最強なのだから。しかし、あんなに大音量で話すものなのか? さすがに苦情が来るのではないのだろうか。最強の私は、とりあえず日の当たるところに陣取り、ぽかぽかと冬の日差しを感じながら本を読み始めた。最近、ラクマなどで中古の本を買うようになった。随分安く手に入るものだ。で、読み終わったら近くのブックオフへ持っていく。しかし、今回の本は手放す気配はない。何たって、私の中で今アツイ、いとうせいこう氏の園芸エッセイ第2弾である。初めていとうせいこう氏の著作を読んだのは昨年のことである。私も主人も、「子供番組に出てた人」というのが共通認識であった。だが本当に、ふとエッセイを読んでみたところ、文章が私のどタイプであった。ストライク!おそらく、アニメや漫画で好きなキャラクターに出会うような感覚だと思う。推しのアイドル、というのも近いだろう。いかんせんこの人物が気になった。只者じゃないな?? Wikipediaによると、彼はラッパーでもあるらしい。私はラップやヒップホップというジャンルに足を踏み入れたことは無いが、下記の曲が非常に衝撃だった。(クチロロ)/ヒップホップの経年変化 (YouTube)だがやはり、ヒップホップジャンルと私とはうまくやっていけない感じである。曲の詩に感銘を受けたが、それ以上踏み込むのは止めようと思う。彼のことを知るタイミングは今だったんだろうな、と感じつつ話は戻る。日なたで読書をする、やがてうつらうつらとしてきて、そのまま昼寝をする。少しすると目が覚めて、また読書を再開する……というループが私は大好きだ。そうして長い時間過ごしていると、日が落ちてきて眩しくなったり、逆に影になったりする。太陽が動いているんだなぁ、などとスケールの大きいことを感じつつ、私はぼんやりと過ごす。日の当たる場所は特等席であるらしく、大体は猫たちもやってきて膝に陣取る。そして猫の背中に肘をついて本を読んだり、抱えていっしょに昼寝をする。目が覚めると、いつの間にか入れ替わって別の猫になっていたりするから不思議だ。私は人間であるにもかかわらず、子供の頃から日なたでの昼寝が大好きだった。本当なら窓も開けたいところだ。そのために休日でも日焼け止めクリームを塗っているくらいである。日なたでぼうっとしていると、ふと思い出す光景。小学校の授業で朝顔を植えているところ、土曜日の半日登校のあと、明るい部屋で昼ご飯にスパゲッティを食べているところ、大学生の頃、講義の一環でキャンパス内のタンポポをマッピングして歩いているところ。恐らくキーワードは、日なた・一人もくもくと・好きな事私は物覚えが悪いので、昔のことをあまり覚えていない。どんな関連付けをしているのか分からないが、こうした時に記憶が蘇る。蘇る記憶はどれも懐かしい匂いがし、多幸感にあふれている。そうして15時になった。今日は何とも時間の進みがゆっくりな午後である。さすがに遅すぎるのでは? と心配になるくらいに時が進まない。贅沢であるが、今度は暇を持て余し始めた。勝手なものである。こうしている間にも、限りある時間と闘いながら、あくせくと働いている人だっている訳で、相対性なんて言葉が浮かんだりする。とりあえず、干していた布団を取り込み、園芸エッセイを読んでいた影響からか、ベランダのプランターを観察してみる。会社の花壇からぷちっと手折ったローズマリーはすくすく成長している。ローズマリーは冬でも葉が緑色で嬉しくなる。最近、下の方の葉が枯れてきてハラハラしていたが、どうやら成長過程でみられることらしい。多分。木質化というらしい。確かに、下の方が木の枝のようになってきた。ただの茎を土に挿してから半年余り。声変わりしたような姿に、まあ立派になって……と感慨深い。我が家のベランダにはプランターがもうひとつ。去年の春先に種を蒔いたラベンダーである。長梅雨でひょろひょろと徒長してしまい、今は半分枯れている。が。枯れた茎の先から緑の葉がにょきにょき出ている。死んではいない。茎がだらんと横たわっているが、新しく出てきた葉はみんな上を向いている。どうしたものか、と思い、とりあえずそのままラベンダー任せにしている。完全に枯れた部分だけを切り去り、春の到来を待つ。鋏を入れると、ラベンダーの上品な香りがした。枯れていようが、素人が蒔いた100均出身の種だろうが、ラベンダーはラベンダーのようだ。ラベンダーと書いて、先ほどまで読んでいた本に出てきた単語を思い出す。ベランダー。いとうせいこう氏はベランダ園芸を愛するベランダーである。確か、ドラマ化もされていたはず。私はまだまだベランダーと名乗るのには及ばないが、ベランダで育つ植物たちにそそぐ目は、ベランダーのそれでありたい。恋しさと せつなさと 心強さと。これは本著にはまったく関係ない。【中古】 自己流園芸ベランダ派 河出文庫/いとうせいこう(著者) 【中古】afb【中古】 ボタニカル・ライフ 植物生活 新潮文庫/いとうせいこう(著者) 【中古】afb↑今日の昼寝のお供ははなちゃん。撫でないと怒りだすので厄介である。↑ローズマリー。写真だと分かり難いが、下の方の茎は固く茶色くなっている。