フォルクスオパー 「白馬亭」
フォルクスオパーで「白馬亭」を見た。http://www.weissesroessl.at/de-videos-beauty.shtml オーストリアのザルツブルク(「塩の砦」の意)の東側に広がる高原地帯は、ザルカンマークートと呼ばれ、「サウンド・オブ・ミュージック」の舞台として有名になったが、そこでも描かれているように、周囲には美しい湖が多く、夏は多くの観光客が訪れる。ザルツブルクからは少し距離があるため、そこまで足を延ばす日本人はそれほど多くはないが、自動車で良好をする現地の人たちには非常に人気がある観光地である。19世紀までは、この地方は産出される岩塩で経済的に繁栄し、モーツアルトが最初仕えていたザルツブルク大司教の経済的な基盤を作っていた。そこの湖の一つがヴォルフガンク湖であり、その湖畔のヴォルフガンク・ザンクトにあるホテル「白馬亭」がこのオペレッタの舞台となる。このホテルは現存する人気ホテルとなっている。 "Im weissen Roessel"というのは、"「白馬亭」にて"といった程度の意味であるが、この”Roessl”というのは Ross(Pferde「馬」の雅語)の縮小形である。ドイツ語を勉強すると授業で、-chen -leinなどの縮小語尾を習うが、バイエルンやオーストリアでは、-el, -l,-erlなども縮小語尾として使うのである。ザルツブルガー・ノッケルSalzburger Nockerlというザルツブルグの山々に見立てた、焼きたてが命の有名なスフレがあるが、この言葉Nockerlは、Nocke「岩石でできた山頂」に-(e)rlを付けたものである。ただNockerlというのは、ここではもともとスープにいれるような小麦粉から作った小さな団子を意味し、現地ではSpaetzleとも言う。Spaetzleはウィーンではよく付け合わせででてきて、パスタやマカロニのような感覚で使われ、スーパーでもインスタントのものが売っている。 このオペレッタだが、設定は第一次世界大戦前で、オーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ1世の統治下で、皇帝自身このオペレッタに特別ゲストで登場する。フランツ・ヨーゼフは1848年に三月革命時に前皇帝が退位したのを受けて即位し、以来第一次大戦中に86歳で逝去するまで70年の長きにわたり君臨した、ハプスブルク帝国の歴代の皇帝の中で国民がもっとも愛着を寄せる人物である。あのエリーザベトの夫であり、マイヤーリングで自殺した皇太子ルドルフ(最近ルドルフのドラマがORFで作られて人気になった)の父親である。 このオペレッタは、一部他の作曲家の曲を使っていて、ローベルト・シュトルツの作曲のものもある。 配役とあらすじを紹介すると、配役 Dirigent Michael Tomaschek Josepha Ulrike Steinsky Ottilie Gabriela Bone Klara Susanne Fugger Leopold Josef Luftensteiner Giesecke Gerhard Ernst Siedler Dietmar Kerschbaum Sigismund Stephan Wapenhans Franz Josef II Peter Minich Adjutant Michael Weber Portier Josef Forstner Gustl Konstantin Hladik Koch Hermann Lehr 一物語一 第一次大戦前のザルツカンマーグート。 舞台:ヴォルフガンク湖畔のザンクト・ヴォルフガンクにある宿屋「白馬ホテル」第1幕 観光シーズンの到来とともに、給仕頭レーオポルトLeopoldは、押し寄せる観光客の対応に大忙しである。(舞台は、右手に客室らしき棟があり、そこに左からぐるりと2階に階段がかかっている。その手前のところがレストランになっていて、そこに多くの客がテーブルについていて、ウェイターは注文・精算に忙しそうに走り回っている)レーオポルトは、このホテルの女主人ヨゼーファ・フォーゲルフーバーJosephaに恋心を抱いているが、彼女と話をするよりはホテルの観光客と話をするほうがうまく話ができるような男である。「あなたに愛してもらえるなら、どんなに素晴らしいだろう。」と愛の告白の歌を歌うレーオポルトだが、女主人の方は、常連客の弁護士ジードラーSiedlerに気持ちが惹かれている。 ジードラーは毎年夏休みの始めにこのホテルに投宿する常連であるが、仕事の都合で夏休みの始めの時期にしか来られないのであるが、ヨゼーファのほうは彼が自分に会いに来ていると勝手に思いこんでいる。(ジードラーはスポーツカーで登場したという設定で、女性に非常に人気があるように演出されている) そこへ蒸気船が到着し、その客の中にベルリンのメリヤス工場主ギーゼッケ一Gieseckeとその娘オッティーリェ一Ottilieがいる。ギーゼッケは競争相手のシュルツハイマーと目下裁判で係争中であるが、そのシュルツハイマー側の弁護を担当しているのがジードラーなのである。レーオポルトは、先にジードラーが予約しておいたバルコニー付の部屋を、独断でギーゼッケに渡してしまう。(ギーゼッケ一は太ったいかにも道化的なハンスブルストで、やや娘のオッティーリェ一とは釣り合わないが、そこがなかなかおもしろい。Gerhard Ernstという歌手であるがどこかで見たような気もする) 一方、ジードラーが到着するのを知ると、ヨゼーファは大いに喜ぶ。「ヴォルフガンク湖畔の白馬亭、ドアには幸せが待っている」と歌う。ヨゼーファはジードラーをすぐに予約の部屋に案内するが、すでにその部屋はジードラーに渡していたため、一揉めあり、結局ギーゼッケがその部屋を明け渡すことになる。 そんなゴタゴタの中で、ジードラーはギーゼッケの娘オッディーリェのことを魅力的に感じるようになる。「君の目を覗き込むと、世界はすべて空色さ……」という二重唱を歌う。ヨゼーファは、ジードラーに嫉妬するレーオポルトに腹を立てて解雇してしまう。レーオポルトは「見ちゃいられない」と嘆く。そこへ、ギーゼッケの競争相手ジュルツハイマーの息子ジーキスムンドが到着する。ジュルツハイマーは、自分の息子とオッティーリエがうまく結ばれれば、裁判も片付くとほのめかすが、しかし息子のジーキスムンドのほうは、旅行中に知り合ったヒンツェルマン教授の娘クレールヒュンに興味がある。舌のもつれるクレールヒュンと禿頭のジーキスムンド。「ハンサムであることは、ジーキスムンドのせいじゃない」の二重唱を歌う。 一方、ジードラーとオッティーリエはバルコニーからお互いに挨拶して、「恋の歌はワルツでなけりゃ、花の香りと日の光に満ちた--」と歌う。またジードラーも敵方の弁護士を利用できると考え、娘の交際を支援している。ヨゼーファの方は、「ザルツカンマークートでは、みんな楽しくなる」などを歌い、ジードラーへ熱烈な気持ちを伝えようとするが、それを見たレーオポルトは、もはや見ていられなくなるほどであった。 しかしフランツ・ヨーゼフが当地にくることになり、白馬ホテルが皇帝の宿舎に決まっると(フランツ・ヨーゼフは、夏は近くのバード・イシュルにある別荘で過ごすのが通例であった。)ヨゼーファはすっかり興奮し、レーオポルトの助力が必要となり、解雇したことを取り消す。皇帝陛下の船が到着、レーオポルトは歓迎の挨拶をするが、ヨゼーファとジードラーが並んでいるのを見て、すっかり混乱してしまう。(続く・・・)