soul-eye

2006/05/20(土)19:33

極楽峠2

【小説】風来坊旅の途中にて(24)

老婆の顔をよく見てみると、以前どこかで会ったことがあるような、見覚えのある顔だ。しかし思い出せない。 「さぁさぁこっちだよ」 老婆は俺を諭すように言う。 まるで久しぶりに帰ってきた自分の身内を家に招くようなその態度に、いつしか俺は警戒心を解き、彼女の背中に吸いこまれるようにして後をついていった。 夏草に覆われた林道を少し歩いたところで、老婆は林道からはずれ、けもの道のような人ひとりがやっと歩けるような山道を下り始めた。 その足取りはさしずめ“カモシカ”のそれである。山歩きでならしたこの俺がついて行くのさえやっとだ。「こいつはただ者ではないな」と俺は思った。 ブナやナラといった広葉樹の森の中を黙々と歩く老婆。 その背中から暖かいものを感じる。 30分ほど歩いただろうか、山道が終わったところに一軒の民家が建っていた。 萱葺き屋根で庭には小さな男の子がひとりで遊んでいる。老婆の気配に気づいた男の子が顔をあげた。 「婆っちゃん!!」 「隆史、お利口さんにしていたかい。風来坊さんが来てくれたよ」 「何で俺の名を・・・?」 男の子は俺の手を取り、さかんに遊ぼう遊ぼうと誘う。人見知りしないくりっとした黒い瞳がかわいらしい。最近の子供には無い澄んだ眼をしている。 「夕げの支度をするから、それまで隆史と遊んでやってくれませんか。この子もずっと一人でそこで遊んでいるんですよ。久しぶりのお客さんだから多少わがままなことを言うかもしれませんが、大目に見てくださいね」 そう言い残し老婆は民家の中に入っていった。 「さぁ早く遊ぼうよ!僕ね、いま砂のお城を作っていたんだよ。これからトンネルを作るんだ」 砂場にはこんもりと砂が盛られていた。 「坊やは隆史くんっていうのかい?はじめまして。お兄さんは風来坊っていうんだ」 「はじめてじゃないじゃん」 「えっ!」 「そんなことより早く早く!」 老婆にしろ隆史にしろ逢った瞬間、なぜか懐かしさがこみ上げてきていたのをいま思い出した。 こいつらはいったい誰なんだ・・・。

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