■三丁目の魔女■前編
物語の始めに私の自己紹介をしておこうと思うの。私の名前はアン。アン・グリーン。ありふれた名前だと思うけど、綴りはanではなくanneそう、読書好きな人ならぴんと来ると思うだろうけど赤毛のアンのanne。私としてはanでもanneでもかまわないのだけどグリーンなのに赤毛をよく排出する私のママの実家では、誰よりも赤い髪の毛で生まれて来た子にはアンと名づける事が決まっているの。曾祖母辺りが赤毛のアンフリークでもあったんでしょうね。昔語りでママが私が産まれた時に、赤ちゃんにしてはあまりにも赤い髪の毛なのを見てお見舞いに来てくれたママの親族全員で「この子はアンだね」と一致団結で決まってしまったのだという。赤毛の集団に詰め寄られてしまっては、私の意見など通りもしなかったよ、とナチュラルブロンドのパパは苦笑していた。そんなわけで私の名前はアン。anneのアン・グリーン。今年で13歳になるぴちぴちの女子中学生。あだなはそのままレッド。私としては、赤毛の赤と名前のグリーンでクリスマスをイメージしてキャロルとでもあだ名をつけて欲しかったんだけどそんな洒落た発想の転換をする,気が利いた子が私達の住む田舎町にいるはずも無くレッドもしくは普通にアンと言われて過ごしているの。人参頭?赤い猿?そんな言葉を私に吐こうものなら、元祖アンに負けずにノートで頭をかち割ってあげるわ。そんな私の家の隣に、ダイアナという老婦人が越して来たのはジュニアスクールの入学式のお昼の頃だった。人口1000人足らずの、小さな村に新しい住人がといえば、大ニュースになってもおかしくないのだけどダイアナさんは、私が生まれる前、ほんの15年前程に引っ越していって戻ってきたといういわゆるでもどりさんで、引越し当日はさすがに近隣の人達がわさわさと挨拶に来ていたけど三日もすればもう何十年も住んでたかのように、村の住民の仲間入り。それってつまらなくない?ママにどんな人って聞いても「いい人よ」で終わっちゃうしパパにどんな人って聞いても「変わってるけどいい人だよ」で終わっちゃうの。昔からの知り合いで、よく知っているから特に説明する事は無いと思ってるみたいなの。大人達はよく知っていても、私には初対面よ?隣人なら仲良くなりたいわよね?もしかしたら、昔使っていたアクセサリーやドレスに綺麗なレースを、可愛い隣人さんねって下さるかもしれないじゃない?そして、アンティークなドレスにアクセサリーをつけた私はパーティーで一躍脚光を浴びて素敵な上級生とフォーリンラブ♪って事が可能性として無いとは言えないんだしさ。素敵にスマートに出会う為に、夜中にお隣との境目の柵にハンカチを落としてみたりスクールからの連絡用紙、はたまたお気に入りのヘアピンを落としてみたりと私も頑張っているものの。敵もさることながら朝目を覚ましてみれば、ポストにハンカチは糊を利かせて綺麗に返却されてたり、連絡用紙はラベンダーの匂いをしみこまされて返されていたりお気に入りのヘアピンには、可愛いレースがリボン結びされて返されていたりと中々手ごわいの。休日や朝の通学時間、夕刻にふわふわと綿毛の様な白髪がお隣の窓から見えるのだけど私はまだお隣さんに出会った事がない。お年よりは朝早く夜早いから、出会う時間に被りがないのは仕方ないけれど・・私はため息をついて、窓辺から隣のお家を伺い見る。お隣の窓の向こうで、綿毛の様に真っ白で所々染めたのか、薄紫の白い頭がぴょこぴょこと動くのが見える。グランベリーソースアップルパイにフルーツケーキシフォンケーキにカントリークッキー近所の奥さん同士で噂になって、母も大好きなミセスダイアナのお菓子・・・。レースの肩掛けに替え襟にポプリパパの大好きなスープにチキンにスパイシーソース!私にも甘受する権利はあるはずだわ!お隣なんだもの!大人だけが、楽しむのはずるいとおもうの。出窓に頬杖ついて、ため息。日曜のお昼の日差しが明るくて気持ちよくてつまらないの。私だってお隣のミセスダイアナのお菓子を食べたいわ。大人があんなに楽しそうに美味しそうに話すんだもの。続く