2021/05/02(日)05:13
アルコゲスのレバレッジ取引始末記:スイス、日本の投資銀行部門で1兆円兆の大損害
東証上場企業の3月期決算発表が、本格化している。
こうした企業決算で、我々個人の度肝を抜かせるのは、時として「超」に近い損失が発表されることだ。
◎野村は損失が膨らみ3100億円
ただそうした巨額損失の発表は、通常は、「のれん」や設備などの資産の減損処理によるもので、現金で損をしたわけではない。過去には、ソフトバンクグループが1兆円超の損失を処理し、また東日本大震災後に東京電力が1兆数千億円の損失を出したことがある。
だから27日に野村ホールディングス(写真)が、アメリカ投資会社アルコゲス・キャピタル・マネージメントの取引で、22年3月期も含めて約3100億円の損失を出したという発表に接しても、驚きはしない(なおこの取引については、4月5日付日記:「米投資会社アルコゲス、巨額レバレッジ取引の破綻で野村が2200億円の損失か」を参照)。
驚きはしないが、それでもこれは、前述のような現金流出を伴わない損失処理ではないから、やっぱり驚く。野村は、実際にこれだけの損を出したのだ。個人だったら、2度と立ち上がれないどころか、生涯を通じても取り戻せない損だ。
◎いち早く逃げたGSの損害は軽微
アルコゲスの取引では、最も大きく関与していたゴールドマン・サックス(GS)が、いの一番に逃げ出して、損失を軽微に収めた。GSは、顧客基盤が分厚いから、立ちゆかなくなったアルコゲスの担保資産を早々に売り処理できた。
ところがスイスの投資銀行クレディ・スイスや日本の野村証券のアメリカ現法は、株価に大きな影響を与えないように処理する方針にしたために、処理に手間取り、結果として巨額損失を抱えることになった。
そのため野村は、当初発表した約2100億円という損失は、さらに1000億円も膨らみ、前記の3100億円にもなった。それでも野村ホールディングスは、21年3月期通期ベースで1531億円の純利益を計上したのはさすが、である。
◎クレディ・スイスの損失は5900億円
なおクレディ・スイスの損失は5900億円にものぼり、4月22日発表の2021年第1四半期決算では税引き前損益が7億5700万スイスフラン(8億2597万ドル=約890億円)の赤字を計上した(写真=クレディ・スイスのロゴ)。
それと野村の3100億円を足すと、9000億円、もう少しで1兆円になるところだった。この両社が、アルケゴスでは最も大きな痛手を受けた。
あとモルガン・スタンレーが約1000億円、スイスのUBSが約930億円、日本の三菱UFJが300億円と続くが、クレディ・スイスと野村に比べれば大したことはない。これらの会社はアルケゴスにそれほど深く関わっていたわけではないからだ。
◎インサイダー取引で巨額罰金のビル・フアンなどに関わった罰
最後にアルケゴス主宰者のビル・フアン(写真)は、インサイダー取引での容疑で、2012年にSECに4400万ドルもの罰金などを科されたいわく付きの人物だ。
こんな人物に深く関わった野村は、やはりそれ相応の罰を受けたと言えるだろう。昨年の今日の日記:「疫学者・医学者独裁に国家を委ねてはならない(下)、医療支出を生み出すためにも経済を守ることが絶対重要」