~NFP は趨勢的に鈍化している~
先週 2 日に公表された米 7 月雇用統計は非農業部門雇用者数(NFP)に関し、前月比+16.4 万 人と市場予想の中心(同+16.5 万人)とほぼ一致した。
しかし、5 月および 6 月の NFP に関してはそ れぞれ同▲1.0 万人、同▲3.1 万人で計▲4.1 万人の下方修正が施されており、雇用の「量」につ いて言えばややネガティブな結果だったと言える。
平均時給はやや加速(前年比+3.1%→同 +3.2%)が見られたものの、
後述するように NFP の趨勢が明らかに鈍化してきている以上、平均時 給が一般物価を押し上げるほど今後加速してくるとは考えにくい。
米国経済の現状と展望を考察する上では、限界的に積み上げられる毎月の雇用量が減っているというのが要諦だと考える。
振れや遡及改訂の大きい NFP は単 月の結果に右往左往すべきではない。
NFP の積み上げペースは明ら かに 2014 年後半から 2015 年前半が ピークであり、そこから徐々に失速して いる。
2018 年だけがピックアップしてい るのはトランプ減税の効果と目される。
しかし、この効果が剥落しト ランプ関税の悪影響の方が大きくなっ ていると思われる以上、NFP は減速軌道に戻っていく可能性が高いと繰り返し論じてきた。
そうした懸念は徐々に現実化しつつある。
景気循環に最も遅行すると思われる賃金 が緩やかに加速していることを捉えて楽観的となるのは危険であり、賃金押し上げの原動力となる労働需要に陰りが見えつつあること に注目したい。
なお、前回の景気の 「山」である 2007 年 12 月から数えた 場合は約+1300 万人、今次景気拡 大局面の起点である 2009 年 6 月か ら数えた場合は約+2040 万人も増加 している。
過去の景気拡大局面 と照らし合わせた場合、もう失速が始 まっていても不思議ではない頃合い ではある。
現在起きている雇用拡大 は歴史的に見ても相当に稀な現象 であるという認識は持った方が良いだろう。
「今どうなっているのか」よりも「今後どうなっていくのか」のような状況を踏まえれば、「米 国の労働市場は悪化含み」を前提とし て相場見通しを検討するのが無難だろ う。
FRB の政策運営も最終的には労働 市場の帰趨に既定されるはずだ。
主要 市場の価格動向に落とし込むのであれ ば株安・米金利低下・ドル安がストレート な展開と思われるが、株価は米金利低 下に応じて堅調な時間帯もあるだろう。
雇用という実体経済で最も重要な セクションが悪化してくる頃には企業収益も相応に悪化している公算が大きい。
市場では「利下げ →株高」という直感的な反応が見られやすいが、
そのような値動きに永続性を期待すべきではない。
少なくとも「働ける人の数」が決まっている以上、NFP が減速する局面は必ず到来する。
景気拡大 局面が 122 か月と過去最長を更新する中、それはさほど遠い未来の話ではないと考えたい。
依然 としてグローバルに PMI が底打ちするに至っていない状況は減速基調にある NFP の今後に陰を 落とすものである。
「今どうなっているのか」
よりも
「今後どうなっていくのか」
に着目した上で NFP の結果を評価する姿勢が今、求められている。