カテゴリ:小言こうべえ
◇月曜日:旧暦七月二十五日 乙酉(きのと とり)
このごろ又ゴミ箱が消えた。 僕の家からじゃない、東京の駅からである。 2001年の9.11の大事件以来、テロルは世界の自由主義国家にとって最大の脅威になった。テロリストにとっての先ず第一の標的は無論亜米利加合衆国である。一般に自由主義国は、こういう危機に対抗する防御において脆弱である。元々国境の検問だけでなく、あらゆる国際間の往来を制限しないというのも、「自由主義」の要件であるからだ。 しかし、テロル実行を期して入国してくる者を無制限に受け入れていてはたまらない。だから入国検査は以来格段に厳しくなった。 飛行機への刃物類の持込は厳禁となり、見つかれば没収となった。タバコのライターも持ち込み禁止である。機内全面禁煙はかなり以前から実施されているが、ライターを持ち込むのは自由だった。今はジッポやダンヒルはもとより、百円ライターも全く持ち込めない。 ビジネス以上のクラスでは、機内食はコースで供される。器もプラスティックではない。ビアグラス、ワイングラス、リキュールグラスと、ちゃんと区別されている。箸はちゃんとした利休だし、無論ナイフやフォークも金属製である・・・であった。 実はアレ以来スプーンとフォークは金属製のままだが、ナイフだけはプラスティックになってしまった。 靴のかかとに爆弾を仕込んで入国しようとした者が摘発されて以来、亜米利加の入国審査で、靴を脱がされるのは当たり前になった。 やむを得ない措置だとは云え、少数の不心得者や危険分子のせいで、「美風」が廃止され、善良な大多数が迷惑を余儀なくされるのは愉快どころではない。 当時亜米利加への出張者に対する定番の冗談があった。(対象は男性だけである) 「おい、今度はいよいよ靴だけじゃなくて下着も脱がされる事になったの、知ってるかい?」 「嘘でしょう?靴だけでしょう?」 「いや、ちゃんと下着を脱いで金属探知機でじかに検査されないと通過できない。」 「まさか」 「だけど、入国審査の役人は、未だに歌麿伝説を信じてるのが多いから、検査のたびに幻滅して笑いをこらえるのに大変だそうだ。君は大丈夫か?日本男児として恥じるところはないか? 「・・・・」 日本はこういう対策面でも、率先垂範の姿勢をとることはない。元々事実上の単一民族が海に囲まれて暮らして来た国だ。しかも念の入ったことに、暫く前200年以上門戸を閉じていた期間もあった。その所為かどうか、こと国際紛争や外交交渉の場に臨むと、この国は実にナイーブである。 テロルに付いて云えば、日本だけが対象外などということは無い。特に今の日本の外交方針は、これは明らかに対米追随だ。そうじゃないといったって、テロリストにはそう見えるに決まっている。国土のあちこちには米軍基地も点在している。この国は外交・防衛面では、官のみならず民草も、おおらかにものんびりしているから、相対的に容易に入国できる。無防備な標的は有り過ぎるほど有る。 だからテロ対策も、それなりのアクションは取られているはずだし、日々色々脅威も発生しているはずだ。しかし、「今何が起こっているのか」については、不思議なくらいに明らかにされない。 テロに関する情報は、地震の予知情報同様、「民は依らしむべし、知らしむべからず」の方針の下に置かれているようだ。 で、テロ対策については吾が民草のレベルには直接には見えないのだが、それでも、何となく動きを伝えてくれるようなのが「ゴミ箱」なのだ。 東京という街は、実に何本もの鉄路が張り巡らされ、数知れない電車が走り回っている。どこかに行く場合には、路線図を見なければ行き方に迷うほどだ。 また、この街は日中と夜間とで人口が極端に変わる。つまりは近郊からの通勤者が多いという事なのだが、この膨大な人たちの通勤手段の主力も電車である。 これら鉄道各線の駅のホームや構内には幾つものゴミ箱が置かれている。これが時々「消える」のだ。 最初は、9.11後数ヶ月経ってからであったと記憶する。 この時は駅構内のゴミ箱が一斉に封印されて使えなくなった。 要するに爆弾が仕掛けられるのを恐れての事であった。我が西武線では、ゴミ箱の投げ込み口がガムテープで封印され、実にみっともない有様だった。僕は、飴ちゃんやガムの包み紙、レシートなど、ちょっとしたゴミを捨てる場所がなくなってしまって不自由した。 この封印は暫くの間続けられていたが、やがて何事も無かったようにガムテープは剥がされて旧に復した。「今日からゴミ箱が使えます」の報せもなかった。 その後一度か二度は同様のことがあったが、ここのところ暫くはゴミ箱君は本来の用を果たしていたように思う。 それが今朝、僕の「経路オプション3」(これは、西武線→有楽町線→都営線の経路)で移動している際、都営線の駅構内からゴミ箱が消えているのに気が付いたのだ。 西武線はガムテープでふさぐのだけど、都営線はゴミ箱そのものを撤去してしまうのかもしれない。お蔭で、粘つく飴ちゃんの包み紙の処分に再び困った。西武線と有楽町線ではどうだか気が付かなかった。最近は、「ゴミは自己責任で処理する」という傾向が強くなって、ゴミ箱自体が減っているから、意識していないと中々分からないのである。 つまりは、警察庁あたりに何がしかの情報があったか、警報が入り、首都圏の鉄道会社に指令が発せられた。それに従い、各社は自らの駅構内のゴミ箱を封印乃至は撤去した。そういうことだろう。少なくとも前回や前々回はそうだったはずだ。 しかし今回も、若しテロ対策であったとしても、何らの具体的情報も発表されないし、報道もされない。 何かの事故や故障で、電車のダイヤが十数分でも混乱すれば、律儀に張り紙が出たり、テレビで報道されるような街で、これはやはり妙だ。 テロルに関する情報が、地震予知に関するそれと同様、民草のパニックを恐れて秘匿されているのなら、我々はつぶさにゴミ箱を観察して、危険を憶測するより他は無いことになる。 ・・・・そういうことでいいのかなぁ? 東京都周辺では、ゴミ箱がテロ対策状況の指示装置になっているけれど、東京以外の中部、関西、九州などではどうなのだろう? 無論、テロは効率上、有名な若しくは象徴的な意味を持つ建造物や施設、或はある程度以上の規模の都市交通網しかターゲットにしないだろうと思う。 大阪や名古屋でも、時々ゴミ箱が消えたりするのだろうか? お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005.09.01 12:15:48
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