マックの文弊録

2005/11/08(火)17:38

カーナビの陰謀

小言こうべえ(110)

◇土曜日: 旧暦十月四日 癸巳; 天一天上 群馬県方面に出かける用事が有ってレンタカーを借りた。 最近はレンタカーには例外なくGPSを利用したカーナビゲータが付いている。僕の自分の車にはこういうものは付いていない。付いていないというより、敢えて付けない。 自分で運転する時には「迷う楽しみ」というのが有るのだ。知らない所へ行き、どこかの道に迷い込んでしまう。困るけれど、それはそれで楽しい。だって、この道はこうして迷った結果でもなければ恐らくは一生通る機会も無かった筈だ。今、縁あって通っている道は、まさに一期一会じゃないか。それに、出かける前にはいきおい地図をちゃんと見るようになる。地図を見て、どこをどう曲がって、どの道路を通るのか?目印は何か?距離は?など予め色々調べて、大事な部分は覚えておく。これが結構な頭の労働になる。 カーナビが車に付いていると、こういう「予習」は一切不要になる。目的地さえセットしてしまえば、後はガイドに従って運転していけば誤らずに目的地に到着できる。だからそれが詰まらない。第一、カーナビに頼って運転していると道を覚えない。 しかし、これは僕のようなWeek End Driverだから許される事である。いわば、一種の贅沢だとすら言える。カーナビの登場と普及は、仕事で見知らぬところへ、しかも急いで行かなければならない、タクシーや宅配便の方々には大いなる福音であったろうし、いまや必須アイテムであろう事は充分理解できる。 ともかく、折角付いているのを使わない手はないので、目的地をセットした。これが中々手間がかかる。レンタカーを借りるたびに思うことだが、この辺の操作性は実に良くない。地図から検索したり、施設名から探したり、50音で探したり、いろいろな手段が用意されてはいるものの、そのどれもが使いにくい。小さなボタンや、ジョグダイアルもどうも使いにくい。目的地がそんなに遠くないところだと、いろいろやっている内に、本来ならもう着いてしまっているのにと思えてくる。 何とか、セットし終わって走り出すと、車の進行に連れて画面上を動いていく地図と共に、要所要所で音声ガイドが入る。「5キロ以上道なりです。」とか、「およそ700メートル先を左方向です。」などと教えてくれるのだが、これが平板な女性の声である。まぁ、平板な男の声よりは良い。この声が会社の憎たらしい上司の声だったり、我国の宰相の声だったりしたら厭だろうな。しかし、いつも同じ平板な女性の声だけではなく、幾つかのオプションを用意したらどうだろう。例えば「色っぽい女性の声」とか、「元気一杯の少女の声」、「大阪弁の男性の声」など、数種類のバリエーションを用意しておくと面白い。「はんなりした京女の音声ガイド」なんかが有ったら、ドライブも結構楽しめるんじゃないか? 無事に用事が済んで、東京に戻ってきたら、カーナビの女性は真っ直ぐ高速の終点まで行って、一般道伝いに帰着点まで帰るようにと指示なさった。ところが、これが渋滞で、恐らくはその後の一般道も混んでいると推定される。だから、カーナビに逆らって、首都高速へ分岐し、そこから高速道路伝いに戻る事に決めた。 そうなったら、今度はカーナビがご機嫌を損ねてしまったようだ。高速道路を走っているのに、次の信号を右だとか、左だとか指示を出してくる。とんでもないところで「およそ300メートル先を右折です。」などと云ってくる。右側はずぅーっと中央分離帯でしかないのに。 挙句の果てに、「およそ700メートル先を戻る方向です。」などとおっしゃる。時々高速道路を逆行する車の話しがニュースになるが、案外こういう事も原因に有るのかもしれない。 要するに、こちらは未だ高速道路に乗ったままなのに、カーナビの方は一般道に降りて走っていると思い込んでいるのである。広々とした郊外や田舎ではそういうことはないが、東京都内は道路が立て込んでいるから、一般道の上に高速道路が被さるように、同じ方向に走っている個所が多い。 カーナビは高低差には鈍感なようで、地図上で道路が重なっていると、「上」を走っているのか「下」を走っているのか区別がつかなくなってしまうのだ。 その場合カーナビ君は、こちらが指示通りに走っていることを前提にするらしい。 こういう場合のために、「カーナビの誤解を解く」手段はない。「一般道じゃなくて高速道路を走っているよ」と教えてやることが出来ないのだ。 だから、「右折だ」、「左折だ」、「後戻りしろ」という矢継ぎ早の指示をひたすら無視して、記憶を手繰りながら走らざるを得なくなってしまった。そうなるとカーナビの女性の声もただうるさいだけである。 早い話が、これなども「便利になれば人間の能力は落ちる」例の一つだ。 技術の進歩とは、人間の能力の代行を進める事だともいえる。 雲の形を見て天候の変化を占い、樹肌のコケの付き方や、時刻と風の吹く方向で方角を見定めたりしてきたのが、衛星画像やGPSでより正確な情報がいともた易く手に入るようになった。 その代り、一旦そういう技術から切り離されてしまうと、途方にくれてしまう。 要するに技術の進歩によって、本来人間の備えていた五感はどんどん退化していってしまう事にもなるのだ。

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