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マックの文弊録

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2009.03.18
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カテゴリ:よもやま話
◇ 3月18日(水曜日); 旧二月二十二日 壬戌(みずのえ いぬ): 大安

今日もまた5月並みの陽気だったそうだ。さすがに今日はコートを家に置いて出たが、結構風が強くて、往来を歩いている時には、小寒い気がしないでもなかった。

さて、僕の愛読する釈迦楽教授の最新のブログのテーマは、NHK FMで朝放送されている「バロックの森」であった。
この番組は、以前は「バロック音楽の楽しみ」というタイトルで放送されており、僕も大学の研究室時代、自作の管球アンプにジャンク屋から掘り出して来たチューナーを繋いで愛聴していた。

自作のアンプは当時東芝から新発売されたばかりの50CA10という、大きめの魚肉ソーセージを半分に切った位の三極管を、A級シングル回路の出力用に使った、至って単純で従って素直な作りだった。
その代わり大きなNFB(ネガティブフィードバック。要するに音の粗さを抑える仕組みです。)をかけたので、アンプの出力は片チャンネル8ワットしか出ない。だけど常識的な音量でまともな音楽を聴くのなら、出力は3ワットもあれば充分だ。

スピーカーはダイヤトーンの16センチシングルコーンを密閉箱に入れ、グラスウールを詰め込んだ、これも極単純で素直な仕掛けだ。プリアンプは作るのが難しくて面倒だった(お金も無かった)ので無し。

つまりはチューナーからFM放送を聴くための(それしか聴けない)専用機みたいな、オーディオシステムなどとは恥ずかしくて言えないほどのものだった。(しかし、その後暫くしてサンケンという会社から廉価なICプリアンプが発売されたのと、アルバイトで貯めたお金で、中古だったけれどマイクロのレコードプレーヤーが買えたので、一応レコードも聴けるようになりました。念のため。)

アンプにチューナーを繋いでスイッチを入れると、シャーシーに2本並んだ50CA10のヒーターが赤く温まって程なく音が出てくる。ソリッドステート回路には無い、このウォームアップのラグタイムが何とも良くって好きだったのだ。
真空管の様子を良く見ていると、熱せられて陰極から飛び出した熱電子が、途中のグリッドを通過する時に吹き込まれた音楽の精を帯びながら陽極に飛び込む様子が見える。(客観的にはウソです。)
腹に響く重低音や、鋭い撥弦音など、つまりは「ドガチャガ音楽」を聴くには向かない代わりに、正に室内楽やバロック音楽をゆったり長閑に聴くためには最適と自負できるシステムだった。

これを完成させて、初めてスイッチを入れた時に聴こえて来たのが、NHK FMの「バロック音楽の楽しみ」だったのだ。
寒い冬の朝で、窓を開け放って部屋にこもった煙草の煙を追い出していたら、窓ガラスの湯気が凍りついて綺麗な模様が出来た。猛烈に寒くて震えながらだったけれど、出来立てほやほやの手作りのアンプから響いて来るバロック音楽の旋律は、凛然にして清冽な寒気に相応しくあくまでも繊細で且つ美しかった。方々に大声で触れ回りたいけれど、同時に誰にも秘して内緒にしておきたいような、晴れがましくも後ろめたいような、何とも云えない感動を味わったものだ。

調べてみたら、この番組は1969年(昭和44年、40年前!)に始まったそうだから、僕が研究室にいた時代には既にやっていた。ちゃんと我が記憶は計算に合っている事になる。

それにしても、番組のタイトルこそ少し変わったものの40年後の今も、釈迦楽教授によれば番組はまだ放送されているそうだ。これはすごい。
最近の番組は、持ってせいぜい一年。視聴率が下がれば、半年にも満たないで放送を打ち切ってしまう。それを考えれば、こういう番組を地道に40年間放送し続けているNHKもエライ。

これだけになれば最早立派に一つの文化である。実際日本の音楽愛好者にバロック音楽の魅力を啓発するのには、この番組は大いに有為な貢献を果たし得たろうと思う。

NHKには他に、N響アワー(1980年4月放送開始。継続年数29年。)、日曜美術館(1976年4月放送開始。継続年数33年。)、新日本紀行(1963年10月放送~1982年3月。放送期間19年。「新日本紀行再び」は2005年4月から)などという文化系の長寿番組がある。(あくまで「文化系」であって、のど自慢や紅白など「歌謡系」や「大河系」は含みません。)
「バロック音楽の楽しみ」もそうだが、案内役の専門家の方々の解説が造詣深く、随分勉強になる。N饗アワーは芥川也寸志も良かったけれど、池辺晋一郎と特に壇ふみが好きだった。

新日本紀行は、今は「新日本紀行再び」というタイトルで、30年ほど前の番組で取り上げた場所を再訪する構成だ。当時子供や若者だった人が歳月を経て、すっかり立派な中高年になっている。
そして当時の自分たち位の歳の連中に、伝統行事や工芸の後継を託そうとしている。30年前に主役だった人たちは、概ね既に故人になっている。町並みや周囲も変わった所変わらぬもの交々である。
それを観ながら自分の過ごした同じ時間も思い出されて来る。
これには案内役は登場しないが、番組の中身自体が過去の自分史への案内役である。これもいい番組だと思う。

こういう番組は自ずから残るのではなかろう。残そうと思う人が居なければ残せないし残らないはずだ。「時代の潮流」というもっともらしい理屈立ての表層軽薄に逆らって、底流にある本質をメディアの表現として継承すべきだとの見識がない限り、消えて行き、忘れられてしまうだろうものだ。
つまり上で「NHKはエライ」と書いたけれど、本当はNHKそのものがエライのじゃなく、多分に四面楚歌、そうでなくとも亜流の雰囲気の中で、こういう番組を守る為に奮闘運動を続けて来た人が居ての事だろう。NHKがエライのは、そういう人達を消極的にしろ許容している点においてである。


のっけから随分話がそれてしまった。
本当はこのブログではバロック音楽の泰斗バッハは、英語では「バーク」と云うんだよ、という事を書くつもりだったのだ。

アメリカにいるとき、何かの拍子にクラシック音楽の話題になって、こちらも負けじと蘊蓄を傾けようとバロックから古典派への話をしようとした。所はアメリカでは唯一の文化都市ボストンでの事だ。何しろ我が同胞の小澤征爾がこの町のボストンフィルの音楽監督をしているのだ。憚りながら彼を応援するためにも、同じ日本人としてクラシック音楽に関して多少造詣のあるところを見せなければならない。
ところが作曲家の名前が通じない。バッハと云っても、周りはそれは誰だという顔をしている。
その内やっとバッハの英語発音はバークである事が理解できた。そうなるともういけない。我々は学校で、バッハ、ヘンデル、ハイドン、モーツアルト、ヘンデル、ワーグナー、ベルリオーズ、ドボルザークなどなど、大作曲家の名前は随分教わってきた。ところがそれぞれの名前は英語で教わったわけではない。ましてや言語の綴り等は教わっていない。全部カタカナでしか教わって来なかったのだ。
バッハが英語で「バーク」だとすると、モーツアルトは「モザート」か?ドボルザークは確かチェコ人だから、英語では何と言うんだろう?ヘンデルの最後の綴りはLかRか?英語では「ヘンダー」なのか?大バッハはヨハン・セバスチャン・バッハだった。このヨハンは英語ではJohnで良いのだろうか?大バッハは「Bigバーク」なのか?まるで犬の遠吠えじゃないか?と、疑問は後から後から沸いて来る。
そうなるともう毛唐どもに薀蓄を語るどころではなく、小中学校の教師を恨みながら沈黙するよりなかったのだ。悔しかった。

日本の外来文化の受容はこういう点では本当に行き当たりばったりだ。
「天麩羅」はポルトガル語だそうだし、「袈裟」なども外来語だけど何語が起源かは忘れた。未だこんなものは良いけれど、「イギリス」はオランダ語の「エンゲレス」から来た言葉だし、「カステラ」はポルトガル語だ。「背広」はcivilから来たとか、英国の洋服屋が多い町筋である「サビル・ロウ」に由来するともいう。幕末の横浜には「カメ」という名前の犬がやたら多かったそうだが、これは外国人居留地のイギリス人が飼い犬を呼ぶのに「Come here! Come here!」と叫んでいたのを、「カメや!カメや!」と聞いたハイカラかぶれの日本人が「そうか、あちらでは犬をカメと呼ぶんだ」と、すぐに真似っこをした所為だそうだ。
事ほど左様に、日本人は外来語を受容するに実に柔軟自在、言い換えればいい加減にどんどん取り込んできた。それ自体決して悪いことではない。むしろ我が国民の洋才咀嚼の闊達な能力を表すものとして自慢したいくらいだが、いざこれを引っさげてアチラで毛唐と文化論などを戦わせようとすると困ってしまうのである。

「ギョエテとは俺の事かとゲーテ云い」という川柳がある。
釈迦楽先生のブログからの連想で、バロック→バッハ→バークと持って行くつもりが、バロック→自作アンプ→NHKの長寿番組はエライとなってしまったのだ。

ごめんなさい。






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最終更新日  2009.03.19 01:38:10
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