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マックの文弊録

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2009.10.16
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◇ 10月16日(金曜日) 旧八月二十八日 壬辰(きのえ うま) 大安: 三りんぼう

【向島百花園とむらさき小唄】

山手線の日暮里駅前から、亀戸駅行きのバスに乗った。
乗客は、近くにお住まいの様子の分類すればご老体に属する、普段着の方々ばかりだ。こういう方々は唯我独尊の気風が強い。はっきりいえば周りに無頓着である。

停留所に停まったバスが動き出す都度、運転手氏が「危ないから取っ手につかまるか、座席に座るかしてください」と云うのだが、一向に意に介さない。マイクで繰返し放送されていることも、それがご当人に向けられたものであることも全くお気づきになっていない。覚束ないながら、悠々とバスの中を縦断して行かれるし、立っちゃいけないというのに、ドアの傍のステップに留まって仕切り板にもたれたりしていらっしゃる。
さすがに運転手氏は馴れたもので、言葉あくまでも柔らかに、且つ丁寧に我慢強く注意を繰返していらっしゃる。
こちらは段々に落ち着かなくなる。その内、運転手がキレてしまって、「やってらんないよ!もう私は降りるから、後は勝手にしてください!」と言い出しはしないかと気が気ではなくなる。

バスは白髭橋で隅田川を渡り、明治通り沿いに暫く行く。「百花園前」という停留所で降りれば、向島百花園はもうバスの走る明治通のすぐ向こう側だ。バスを降りて、僕独りが感じていたかもしれない緊張感から解放され、ほっとした。運転手氏はこの後暫くして、亀戸駅の終点に安着するまでは、あの調子で気が抜けないことであろう。まことにご苦労様なことである。

昔の向島百花園向島百花園は大名庭園や富豪のお邸庭園ではない。この辺りのご近所の粋人が、周りの文人墨客と語らって造った庭であるそうだ。出来上がったのは文化文政の頃だというから、もう200年位も前の話だ。
現在は都立の公園になっており、国指定の名勝・史跡にもなっている。造園当時は新梅屋敷といって梅の名所だったそうだが、その後和漢の文学植物を集めては植えしている内に、百花園の名を冠されるようになったという。

百花園の入り口入口で入園料150円(廉い!)を払って、今見頃の花は?と訊ねると、「萩はもう花が終わってしまったし、そう云えば御成座敷の脇のバショウが花をつけているし、コフクザクラ(子福桜と書く)も咲いていましたっけ。」といささか気の毒そうな返事が返ってきた。園内には萩のトンネルというくぐり抜けがあって、花の頃は大いに人気を集めるらしい。

園内は東に細長い池を配した回遊式になっている。細い道によって30ほどの区画が出来ており、それぞれに万葉集や詩経に登場する草木が植えられている。

入口で云われたように今は花が少ない時期であるが、それでも金木犀、アカマンマ(犬蓼)、利根アザミ、ホトトギスなどが、しょぼしょぼと花を付けていたし、またカリン、ウメモドキ、トベラ、コムラサキなどがそれぞれに実をつけていた。教えられたコフクザクラも、池のほとりに白い小さな花をしょぼしょぼ付けていた。どうも此処の花はしょぼしょぼと咲いているのが良いようだ。

綺麗に刈り込まれた木が行儀良く並ぶような小洒落た庭園では無く、何となくやりっ放しほったらかしで、草ぼうぼうの感じがするが、それでも荒れたりすさんだりした感じではなく、ちゃんと要所々折々にはさりげない手がかけられていることが知れる。こういう「さりげなく見えて実は手がかかっている」のは、やはり江戸情緒なのかもしれない。

適当な縁台に腰を下ろして、木々の枝越しに秋空を眺めていると妙に落ち着いた気持ちになる。枝越しのビルを網膜から消してしまえさえすれば、江戸とは云えぬまでも昭和の頃を偲ばれるような気分だ。小奇麗にまとまった庭よりは、こういう庭の方が僕は好きだ。園内には方々に句碑もある。回遊路にはぼんぼりの様なのに詩が書いてある。

水琴窟のしくみ庭園の中、御成座敷に近いところに水琴窟を見つけた。
水琴窟は、底に穴をあけた素焼きの壺を逆さに地面に伏せてある、日本の伝統的庭園装飾だ。
上から水を注ぐと、粘土質の地面の窪みに溜まった水に滴が落ちる。それが壺の中の空間に反響して、金属質の澄んだ良い音が聞こえる。
京都のお寺などに良く見る他、茶室の前の蹲踞(つくばい)の傍にも置かれることが多い。郷里の家の近くの料理屋にもこれがあった。

水琴窟は壺が地面に半ば埋められているのが普通だが、百花園のは壺を埋めずに地面に伏せて置いてある。手水鉢には大きさの揃った小石が入っており、小さな柄杓でその上から静かに水を注ぐ。
壺の肩からは中空の筒状の棒が突き出していて、それに耳を近づけると遠くの方にかそけき琴の音が聞こえてくる仕掛けである。

騒音ひしめく現代の都会では、こういう小さな音を愛でる機会は殆ど無いから、偶に出会うとホッとして嬉しくなる。百花園では地面に壺が埋けてないから、水琴窟ではなく梅洞水と名づけられている。

見ていると、この梅洞水の筒状の棒の先から一生懸命中を覗き込んでいる人が居た。さすがに「其処からは音を聴くんですよ」と教えて差し上げようかと思ったが、ひょっとして何かが見えているのかも知れないので、そのままにしておいた。あの人、何か貴重なものをご覧になったのだろうか?

百花園はさほど広くはなく、30分もすれば一応歩き尽くすには充分である。しかし、草ぼうぼうに見える中に、色々なものが目に付きだすと結構楽しみは尽きない。梢越しに見る空も良い。

気が付くと僕は「むらさき小唄」の節を口ずさんでいた。僕の生まれるはるか前の唄なのに、なぜ知っているのだろうか!?向島の魔法にかけられてしまったのかもしれない。
むらさき小唄というのは、「雪之丞変化」という映画の主題歌で、東海林太郎が昭和10年に録音したそうだ。今では知らない人が殆どだろうから、YouTubeに採録されているのをご紹介しておく。唄っているのは美輪明宏だ。この唄のどこかに「舞扇」という詞があった筈で僕は其処が好きだったのに、どこにも見当たらない。これも謎である。

百花園からは、バスの他に東武伊勢崎線の東向島駅が近い。東武伊勢崎線は曳舟駅で地下鉄半蔵門線とつながっているから、帰りはそれで帰った。
春になると梅の他に、節分草や片栗の花も咲くそうだから、又行ってみようと思っている。







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最終更新日  2009.10.17 17:18:28
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