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マックの文弊録

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2010.08.05
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カテゴリ:何か変だね
☆ 8月5日(木曜日) 旧六月二十五日 丁亥(ひのと い) 赤口:

私の利用する私鉄の駅のホームは暑い。
快速急行(急行の一つ格上の電車。急行は私の駅にも停まります。)や特急の停まる主要駅からは一つ外れているので、電車を待つ時間は比較的長い。
壁際にはベンチが並んでいるが、その上が明り取りのためにプラスティックの天井になっているので、晴れている日などは天井を通して陽光がベンチを暖めてしまう。壁際は風の通りも悪いから、ベンチに座れば楽だが暑い。だからこの季節、どうしても線路脇に立ったまま電車を待つことになる。

そうして電車を待っていたら、一人の背の高い女性が私の脇に立った。最近の女性はすらっと背が高く足も長く、スタイルの良い人が多くなった。
彼女もさっぱりとした着こなしで、派手過ぎずメリハリがきいた印象である。恐らくはこれから都心の仕事場に向かうのであろう。何となく好感の持てる人だった。
と、ここまでは良かった。

やおら彼女はおにぎりを食べ始めたのである。
それが実に自然な動作なのだ。肩から提げたバッグを覗く。おにぎりを取り出す。包装を剥ぎ取る。おにぎりを口に運ぶ。
私の視線など感じている気配もなく、周りを憚る風もなく、いつも通りの当たり前の所作を普通に繰り返している如く、動作は流れるようで、淀みがない。

私はしかし驚いた。日中の駅のホームである。
彼女は怪しげな人物などではない。むしろ楚々とした、・・・というのは少しオーバーだけれど、決して好感の持てない女性ではない。身なりも清潔だし、それなりの知性も教養もありそうな風情である。それが、立ったままおにぎりを頬張っているのだ。

私は驚いたが、彼女の余りに自然な様子に、却って驚いている私のほうがおかしいのじゃないかと思ってしまった。

私の世代は、立ったまま物を食べたりすると「お行儀が悪い!」と即座に叱られたものだ。どうかすると親の手が飛んできた。
私より前の世代は、食事中に話をするだけで、「行儀が悪い!と叱られたそうだ。私の母などは、連れて行った遊園地で買ってあげたソフトクリームを、立ったままでは食べられず、ベンチが空くのを待っている内に溶かしてしまったくらいだ。
公共の場所、公衆の行きかう場所で、立ったまま、或いは歩きながら物をたべるなど、乞食(差別用語です)か浮浪者(差別用語かな?)か、何れにしろ、まともな人間のすることとは看做されなかった。

電車の中でも(大半は座ってはいるけれど)物を食べている人を良く見かける。おにぎりだけではない、サンドイッチだったり、ハンバーガーだったり、合間にペットボトルからお茶や水を飲んだりと、まるで車内がカフェテリアであるかのような振る舞いだ。

化粧をしている女性も最近は良く見かける。ブラシを取り出して眉の辺りを撫でたり、口紅を塗ったり、コンパクトを開いて百面相をしたりしている。これにも驚く。良くあんなことが出来ると思う。化粧は他人に自分の様子を良く見せるためにするものだろう。それを車内で、他の人の視線など意に介することなく平然とやっている。
つまりは、同じ車内に乗り合わせている我々は、彼女にとっては人間ですらないのだ。いったいああして化粧をした結果を見せる相手は、全く別の宇宙の連中なのだろうか?

化粧は、舞台に出る前の準備として、本来密やかな営みであるはずだ。
飲食など口を開けて他人に口中粘膜をさらすような行為も、本来は他人を憚る行為である。その証拠に動物は獲物や餌を食べる行為を、他の動物から隠れるようにして行う。化粧(動物の場合は毛繕いか)も、余程安全な中で、仲間同士の間でしか行わない。どちらも敵に対しては無防備な行為であり、無闇と公に行うものではないからである。例外は食物連鎖の頂点にいるごく一部の動物だけである。

人間のマナーだって元をただせば、荒野で敵だらけの中、集団を作り、その中での統制と共生を円滑に進めていく上で出来上がったものであるはずだ。時代が進めば、マナーとか儀礼の内、統制に関わる部分はどんどん緩くなっていくのは分かる。しかし、生き物としての根源に近い飲食のマナーまで変わってしまうというのはどういうことなんだろう。
やはり、種としての人間は今や変わりつつあるのだろうか?

総じて「ウチ」と「ソト」をいう概念が、従来のそれとは大きく変わりつつあるような気がする。
昔は玄関を出れば「ソト」だった。「ソト」は即ち「ハレ」の世界であり、其処に居る人たちは他人であって、且つ同類・同胞であった。だから、「ソト」では周囲の目を心がけ、恥を意識し、儀礼を重んじ、行動を慎んだ。
今は「ウチ」とか「ソト」とは、そういう物理的な境界ではなく、個人の主観的な境界になってしまっているようだ。そしてその場合「ソト」とは全く自分とは没交渉の世界であり、其処に居る者も同胞などではない。単なるエイリアンに過ぎない。

「あー、この人にとっては、私はエイリアンなんだなぁ」と、そう思いながら、向かい側の座席に座って一心にコンパクトを覗き込んでいるエイリアンを眺めていたら、睨まれた。
私が彼女に、少なくとも人間として認知された瞬間であった。決して嬉しくはなかったけれど。

思い返してみると、車内で飲食したり、化粧をしたりしているのは圧倒的に女性が多いようだ。
男は・・・、男の場合は居眠りして隣の女性にだらしなく寄りかかる(なぜか寄りかかられるのは決まって女性である)オヤジか、座席を何人分も占領して横になり、大いびきをかいて顰蹙を買うオッサンくらいしか見かけた記憶がない。この点でも男にはどうも毅然たるものがないのだ。





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最終更新日  2010.08.05 12:48:28
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