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マックの文弊録

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2011.08.18
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【2011年(辛卯) 8月18日(木曜日) 旧7月19日 乙巳 先勝】

私と同郷の友人でもある佐藤一治さんが、「下町ロケット」を読んで感動したとフェイスブックに寄稿されていた。
「下町ロケット」は池井戸潤の小説で、今年の直木賞を受賞している。

下町ロケット7月14日、パリ祭の日に受賞が発表になった後、私も読みたくなって書店に行ったのだが、見つからなかった。少し前に大手町の丸善で青っぽい表紙の単行本が平積みされているのを見た記憶が有って、その時は買わなかったが、受賞のニュースに接したときも「あんなに有ったのだからいつでも買えるだろう」と思っていた。ところが無い。

きっと小さな書店だから無いのに違いないと、丸善の本店はもとより、ジュンク堂本店や、紀伊国屋、リブロに行っても無い。書店の端末で検索すると、どこも「在庫切れ」だ。

直木賞の候補にノミネートされた時点で、ちょっと目端の利く出版社なら増刷くらいしておくだろうに、と思ったのだが、これは私ではどうにもならない。都心を外れた所の本屋にならひょっとして有るかもしれないと、用事で出かけた先の中野坂上の本屋とか、瑞江の本屋までも覗いたのだが、形も見えない。池井戸潤の他の著作も無い。

こうなったら増刷が間に合うまで待つしかないな、そう思って、別の本を買うべく顧問先の事務所最寄の二子玉川駅の中にある小さな本屋を覗いたら、何事も無いような様子でこの本が10冊ほども並んでいて気が抜けてしまった。直木賞受賞後二週間ほど経った8月初めの頃のことだ。
今ではジュンク堂にも普通に並んでいる。

「下町ロケット」は、国産ロケット打ち上げ事業に技術者として参加してた主人公が、打ち上げに失敗し、失意の下で町工場を継ぐ。そこで苦労しながら最終的に自前の部品を搭載したロケットを打ち上げる話だ。

話の中には、中小・零細企業に宿縁の資金繰りの苦労話、銀行のいじわる、巨大企業との軋轢などが絡み、従業員とのあれこれや親子問題までが「てんこ盛り」の形で詰まっている。それでも最後は技術者の夢と誇りが実現され、町工場礼賛の大団円となる。
読了感は爽やかで、この点が直木賞受賞の大きな理由になったらしい。

あぁ、今の日本ではこういう、何となく勇気付けられる本が歓迎されるのだな。私も読み終わってそう感じた。出版社もそこまでは見通せなかったのだろう。だから増刷など考えなかった。

この本、一体どれほど売れたのだろう。定価は1,700円だから、著者に入る印税が一冊170円とすれば・・・。人の懐の計算をしてもしょうがないが、池井戸さんは私や佐藤さんと同じ岐阜県出身だそうだから、同郷の人間としては、まことにご同慶の至りではある。

以前に、大阪のやはり町工場地帯のおっちゃんたちが、自前の技術を凝らした人工衛星を作って、どこかのロケット(日本のだったか?)で打ち上げようとしているという話を聞いた事がある。あれは、結局実現したのだろうか?柳の下の泥鰌ではないが、その顛末を小説に仕立ててみようとしている人は居るのだろうか?きっとどこかに居るに違いないか、少なくとも考えるくらいはなさった人がいるだろうと思う。

K2の威容さて、「下町ロケット」を求めて方々の本屋を空しく徘徊している間に、笹本稜平の「還るべき場所」という本に出会った。この話はロケットではなく登山の話だ。

主人公がカラコルム山脈のK2に挑戦中、ザイルで結ばれた生涯の伴侶と決めた女性を無くす。彼はそれが自分のせいだと思い苦しみ続ける。その気持ちに、改めての山行きによって決着をつけようとする。登場人物のそれぞれが、登山を通じて自らの魂の有り処を求めていくという話だ。

K2は標高8,611メートル、世界第二の高峰であるが、世界の最高峰であるエヴェレストより登山の難易度は遥かに高いそうだ。既に未踏峰ではないが、まだまだ未踏のルートが多くあり、山好きの人たちを魅了し続けている。

私も山は好きだ。しかし、麓付近の温泉にでも浸かりながらその姿を愛でる程度で、苦労しながら頂上を目指そうという気持ちはさらさら無い。しかし、この本の中で描写される山々はあくまでも美しく崇高である。厳寒の中、低酸素の中での登山の苦労も身につまされる。厳しくも美しい自然との対峙には感動を覚える。しかし、それでもやはり自分で登ろうとは思わない。

春を背負って読了して読後感を引きずりつつ、ジュンク堂の書棚を見ていたら、同じ笹本さんの「春を背負って」という本を見つけた。これはK2から一転して奥秩父の山が舞台だ。
山中の、春から秋にかけてしか営業していない山小屋を舞台とした、ほのぼのした「山岳小説」である。色々な人間模様がオムニバス形式で語られ、人情物語の側面もある。
この本も心地よく読了した。

私は活字中毒で乱読の気味があり、今も探偵小説とエネルギー関連の本、それに「生物学的文明論」などといった本を三冊持ち運びながら気分に応じて読み分けている。
「作り物」、つまり小説は、以前は海外ものばかりで、日本の作家の本は殆どといっていいほど読まなかった。しかし、最近は邦人作家の本の方が肌合いが良い。歳と共に軟弱になったせいかもしれない。

「下町ロケット」と「還るべき場所」、そして「春を背負って」は、この夏の暑気払いにも、何となく沈んでいる周りの雰囲気を払って元気な気分を取り戻すのにもお勧めである。





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最終更新日  2011.08.19 13:55:32
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