2015/07/15(水)11:37
KINOKO LESSON-2 青・紫のフウセンタケとイッポンシメジ
こちらも近年とんと見かけなくなったフウセンタケ Cortinariusの仲間のきのこだが、こんな日差しのあるところで出会うのはまれで、日陰で出会うとベニタケグループのクロハツRussula nigricansの老成して炭のようになったものと間違えるほどまっ黒い印象を受ける。 日本産のきのこで紫色を呈するものに今のところ毒きのこはないといわれているが、これを小耳にはさんで何でもかんでも口にするから中毒が絶えないのだ。 食い意地の張った人は、野菜や野のものには鮮度というものがあることをつい忘れがちになる。食べるためにきのこを採集する人は、発生して間もない新鮮なきのこと老成して変化してしまったきのこを見分ける目をもたねばならない。フウセンタケのグループのきのこは、根っ子が膨らむことから名づけられた名称だが、根っ子が膨らまないものもたくさんある。このきのこは比較的根っ子が膨らむタイプのものだが、鮮度の見分け方は以下の写真のようにヒダをみてみることだ。 1.まず、根っ子がふくらんでいるかどうかをたしかめる。 この大型のきのこの場合は、膨らんでいようがいまいが、きのこと少しでも親しんだことのある人なら一目瞭然に種名は分かる。傘のテキㇲチャー(ちりめん素材のような質感と全身深い紫からなるボリューム満点のきのこ)から、同色の類似のきのこではコンイロイッポンシメジ(傘に繊維紋)、ナスコンイロイッポンシメジ(傘は鱗片状のささくれをもつ)があるくらいだ。 これらのイッポンシメジのグループはヒダが発生当初は白いが老成するにつれてピンク色を呈するのが特徴で区別できる。 が、そこまで各部位を個別に照合せずとも肉質かどうか、全体的な色で直ちに峻別できる。理科系の閉鎖系の科学分析で訓練された人がきのこを同定しづらいのは、大づかみに対象を把握することに馴れていないからで、きのこで各部位から全体を理解しようとするととんでもない間違いを犯しかねない。 ナラタケとカオリツムタケを同一視してはばからない人がいたくらいだから、きのこは丸ごと把握してから参考までに各部位を調べるという態度は手放してはならない。 図鑑などあてにしない地方の茸狩り名人は、5種くらいの食用きのこを採取するだけで、しかも、少しでも自身のそのきのこに対する印象からずれる部位がみられるものは惜しげもなく捨てる。このようにしてしっかり同定できるものだけを選別するから中毒に至ることが少ないのだ。2.あたらしいものではヒダに蜘蛛の巣状の糸が張り巡らされている。 マツタケのツバ同様、胞子が成熟するまでの間ヒダを保護する目的で張り巡らされる女性で言えば処女膜に相当するもので、柄に残った形状から刀にたとえてツバ。学術用語?!で恰好つけて言えば内被膜というものだ。3.古くなればヒダは鉄さび色を呈するのがこのグループの特徴で、それは胞子の色が鉄さび色をしていることと無縁ではない。蜘蛛の巣状の糸はそのころには柄に鉄さび色の貧弱な僕のヒゲに近い状態でツバの痕跡のように残っている。 このきのこのグループは優に1冊の本ができる位膨大で、ロシアでは女性の菌学者・ネズダイミンナバ博士がこのきのこを200種以上を詳細に調べ上げてモノグラフ化している。 したがってこのきのこの場合は、まだ新鮮だということが見て取れる。ということで、ようやく種名にいたる訳だがムラサキフウセンタケ Cortinarius violaceus 広葉林に発生する大型きのこで、僕達はとくに見事なものには敬意を表してオオムラサキフウセンタケと呼ぶ。全体に暗紫色で粘性はない。カットしてみると肉も淡い青紫色で徹底している。 以下の写真は同日、このきのこの近くで採れた同色のものだが、全体に華奢な印象をもつヒメコンイロイッポンシメジRhodophyllus cyanonigerだ。ヨーロッパでは属名はRhodophyllusではなくEntolomaと呼ばれるが同じグループ。小型サイズなのでとりあえずヒメをつけておく。ヒダがすでにピンク色を呈していたので初老の頃の姿。 イッポンシメジの名称は束生することが少なくポツリポツリと単体で発生するシメジの仲間(ヒダが白いキノコグループ)というほどの意味だが、老成するとピンク色になりシメジとは別物になるのが特徴。