|
カテゴリ:こにゃん日記
あれから3日もたっていた。
おいらは、ようやく傷も直って、ご飯も自分で、もりもり食べられるようになった。 足に巻いていた包帯もはずしてもらえた。 おいらはそれが邪魔で、何度か齧ってはずしちゃったんだ。 そうしたら、おいらを診てくれたお医者さんが、おいらの顔の周りにぐるりと、固い板みたいなのを巻いたんだ。 おいらが傷を舐めないようにって。 さつきが、おいらを抱いて、鏡を見せてくれた。 おいらまるでラッパみたい。 しましまの猫ラッパだよ。 おいらプオーって鳴るかわりに、なうぅ~って文句言ったけどね。 さつきってば笑っただけ。 それでね。 キジ猫大将も、おまけにトラ猫まで、まるで、くしゃみをこらえてるみたいな、変てこな顔をするんだ。 笑いたいのを我慢しているんだよ。 みんな、みんな、ひどいと思わない? トラ猫は、大将が言ったとおり、あのあとすぐ、おいらに会いに来てくれた。 トラ猫の血は止まっていたけど、かたっぽの耳の後ろが、ちょっぴり禿げて赤黒いかさぶたに覆われていて、おいら悲しかった。 トラ猫の綺麗な毛皮。 でも、もう大丈夫だから、こんなのすぐ元通りになるわと、おいらに笑って見せてくれた。 黄色猫と灰色猫はどうなったんだろう? おいらが聞いたら、大将猫は渋い顔をした。 『もう手出しはさせない。』 大将はそれしか言わなかったけど、その言葉がひどくきっぱりとしていたので、おいらは大将を信じた。 『大将が助けてくれたの?』 おいらの言葉に、大将は笑って片目をつぶった。 『トラ公を助けたのはお前だろう?なかなかいい戦いぶりだったな。』 『そうよこにゃん。もしあの時二匹で向かってこられたら・・・こにゃんが、あいつを足止めしてくれたおかげよ。』 トラ猫がおいらを、キラキラとした瞳で見ている。 それは優しい瞳だったけど、今まで、小さな赤ちゃんを見るみたいに見てくれたあの目とは違う。 本気で、トラ猫がおいらのことを、すごいって褒めてくれている。 おいらにはそれが解った。 たぶん。やっぱり、灰色猫たちをやっつけて、おいらとトラ猫を助けたのは大将だろう。 だけど、おいらだって、ちゃんと役に立ったんだ。 おいらすごく幸せな気分だった。 おいらが大将の家で、うとうと寝ながら過ごしている間に、大将とトラ猫は、おいらのママ猫探しをしてくれていた。 おいらには何も言わなかったけど。 おいらそれを知らなくって、だからちょっぴり拗ねていた。 トラ猫は、それっきり、ろくに会いに来てくれないし、来てもすぐにいなくなっちゃう。 大将ときたら、自分の家なのに、ぜんぜん帰ってこないんだ。 ご飯の時間にだってだよ。 大将の家の人たちは、慣れているみたいで、 『仕方がないわねえ。』 なんて、落ち着いたものだ。 おいらのお家のママも、仕方がないって思っているかな? そうだったらいいな。 おいらなんだか心配になって、美味しいカリカリを3粒も残しちゃったよ。 おいらこうしちゃいられないんだ。 おいらはこっそり、大将の家を抜け出すことにした。 おいらのいる部屋は、明るい畳の部屋で、縁側に面している。 でも格子戸が、いつもしっかり閉められているんだ。 トラ猫や大将は、うまく戸の隙間に爪を差し込んで、いとも簡単にあけちゃうけど、おいらにも出来るかな? おいらは肉球から爪を出して、しげしげと眺めてみた。 おいらの爪。いつもママに切られちゃうけど、でも本当だったらもう少し伸びていたはずだ。 戦ったとき、塀をよじ登ろうとしたためか、おいらの爪はいくつも、根元からぽきっと折れていた。 無事だったのは右足の小指の爪と、左の親指の爪が半分。 おいらはゆっくりと、歯でしごくようにして爪を磨いた。 戸の隙間に差し入れる。 おいらは力を入れて、戸を開こうとした。 カタカタと少しゆれたけど、どうしてもあかない。 おいらは鼻の頭にしわを寄せ、戸に斜めにしがみついて唸っていた。 カラリ・・・開いたっ! おいらは弾みで、しがみついていた戸から、コロンと転がり落ちた。 『何やってんだ?』 そこにたっていたのは、キジ猫大将だった。 おいらは、しゅたっと立ち上がった。 ほらね。おいら元気になったでしょ? 『大将。おいらを大将のおうちに連れてきてありがとう。お世話になりました。』 おいらちゃんと挨拶したんだ。 大将は、おいらをしげしげと見た。 『元気になったみたいだな。・・・そうだな。もう帰ったほうがいいな。』 あまり勝手に抜け出すなよ。と言われて、おいらなんだかおかしかった。 だって、大将の方が、お家を好き放題抜け出してるみたいだもん。 『あのね。大将に頼みがあるんだ。』 おいらは上目遣いで大将を見た。 大将が、何だ?と言うようにぱたりと尻尾を振った。 『トラ猫さんに、おいらがちゃんと無事に、お家に帰ったって言ってくれない?』 おいらの言葉に大将の目がすっと細まった。 『おいらまだお家には帰んない。でも、もう、トラ猫さんに迷惑かけたくないんだ。』 おいらはしっかりと、大将の目を見ていった。 喧嘩を売っているんじゃないよ。 でも、絶対これだけは譲れないって気持ちだったんだ。 『母親探しか?』 大将は、おいらの目をはずさずに静かに尋ねた。 トラ猫が話したんだ・・・おいらはこくんと頷いた。 『この3日間、俺の縄張り中の猫が探し回ったよ、もちろんトラ公もだ。』 おいらの耳がぴくんとたった。 大将が言った。 『これだけ探しまくって、こんな怪我までして・・・なぁ。こにゃん。お前は確かに捨て猫だったみたいだが、今はちゃんとした家族がいる・・・だから、もういいじゃないか。』 もういい?もういいってどういうこと? あきらめろって? そうか・・・この町にもママはいないんだ。 だったら、おいらのすることは決まってる。 『ちゃんとトラ猫さんに伝えてね。』 おいらは、開いた戸の隙間を抜けて、縁側に出た。 お日様が目に痛い。 ぴょんと庭に降り立った。 大丈夫、よろけない。 おいら一人でもがんばれる。 この町にママがいないんなら、別の町を探せばいいんだ。 『待てっ!』 大将が声を張り上げた。 おいらは、振り向いてぺこりと頭を下げる。 ありがとう大将。でも、おいらあきらめない。ママを探すんだ。 『待て、こにゃん。』 おいらはもう振り向かなかった。 『お前の母猫は見つかったよ。』 おいらの背中に、その言葉が、降り注ぐ光のように訪れた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
October 30, 2005 04:43:53 AM
[こにゃん日記] カテゴリの最新記事
|