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見習い魔術師

見習い魔術師

泥棒よ、大志を抱け!? 「大泥棒」2


賑やかな街。
広い街道沿いには、様々な露天が軒を連ねている。
さて、そんな中。
巨大な買い物袋を手に、メモを見ながら歩いている少年一人……。
  
「えーっと、あとは…」
メモに目をやりながら、キールは呟くように言った。
「何か他にいるもんあったけなー…」
「―――さ…ぁ…!」
「?」
後方から微かに聞こえた声に、キールはくるりと振り返った。
「気のせいか…」
知り合いは誰も居ないことを確認し、再び歩き始めようとしたとき。
「―――様―っ!!」
背筋に寒気が走り、キールはバッと後ろを向いた。
しかし、やはり誰も居ない。
「…帰ろう」
嫌な気配を感じ、キールは呟いた。
帰ろう、というより、帰らないといけない気がする。
「あやうきに近寄らず、ってか?」
そう足早に立ち去ろうとしたときだった。
「キール様ッ!!見つけましたわッッ!!!」
いやがおうにも聞きなれてしまった女の声に、キールはビクッと歩を止めた。
恐る恐る、ゆっくりと、ゆーっくりと振り返る。
見事に当たった予感に、キールはぐったりと疲れきった声を出した。
「・・・・・・レイヴィア・・・」
「あぁん、キール様ッ!このように人の多い場所でお会いできるなんてッ!!」
レイヴィアはパタパタと駆け寄ってくると、キールにしっかと抱きついた。
「やっぱりワタクシたちは、共にある運命なのですッ!!これも神の思し召しというものですわッッ!!!」
キール様~と逃がしてたまるかと言わんばかりに抱きついてくるレイヴィアにされるがままになりながら、キールはハハハハハハ…と乾いた笑い声をこぼした。だが、続けざまにレイヴィアが紡ぎ出した言葉に、慌てて身を引き剥がした。

「やっぱりキール様は“ワタクシの、ワタクシによる、ワタクシのためのダーリンv”なのですわ~ッ」
「ちょっと待て。なんだ“ワタクシによる”って!!オレはお前の所有物か!?つーかそれ以前に、いつからオレはお前に取り込まれたことになってるんだ!?」
レイヴィアは、少しつまらなそうに手を顎に当てた。
「あら、そんなの。ダーリンが生まれたときからですワ」
「はっ!!?」
「ダーリン」に突っ込むべきか「生まれたときから」に突っ込むべきか分からないまま思わず口を突いて出た声に、レイヴィアはビシッと指を突きつけた。
「そう例えばっ!ワタクシはダーリンがいつ、どこで、何時何分何秒に生まれたか、何年何月何日何時に初めて何をしゃべったのか、一年で何センチ背が伸びたか体重が増えたか、3歳のときに駄々をこねて道の真ン中で泣き叫んだとか5歳のときに隣の家の少女に告白してものの見事に振られたとか10歳のときに一度に3人の子に告白されたけれど皆まとめて振ったとか初デートのとき近所の公園で友人にばれて冷やかされて彼女に振られたとかファーストキスは12のときで場所は……」
「ちょ、ちょっと待てッ!!なんでお前がそんな事知ってるんだ!!?」
必死の形相で叫ぶように言ったキールの言葉に、レイヴィアはケロリとした顔で平然と答えた。
「買収したに決まっているではないですか!ダーリンのご両親に」
「何―――ッ!!!」
あのクソ両親、とが毒づくにもかかわらず、レイヴィアは未だペラペラと喋りつづけている。
「…で、最後の彼女と別れたのは13のとき、以降はまったくの色気なしの寂しい人生、ああそれから一人暮らしを始めたのは14の誕生日からで、今の仕事もちょうどその頃から始めたそうですわね?それから初仕事は二ヶ月後に大きな仕事が入って見事成功、今までの成功の割合約80パーセント、ワタクシと出会ったのは15の4月ですから、それからまあ実に……」
「ちょ、おま…。なん…ッ」
「あら、ダーリンどうかなさいました?」
地面に手をつき、明らかにどん底モードなキールに、レイヴィアは首を傾げた。
「お前…。それ以外に、なんか聞いてたりしてないよな…?」
「これら以外?ああ、もしかして12のときの二度目のデートで行った動物園で……」
「ぎゃ―――ッッッ言わんでいい言わんでッ!!!」
「あぁん、つまんないですわ」
「た、頼むからそれ以上…ッつーかなんでそんな事…ッ」
「ダーリンの父上も母上も、ダーリンの跡をつけてビデオ撮っていましたから」
「ストーカー!!?」
「そうともいうかもしれませんわね」
「そうとしか言わねーよ!!―――て」
ハッとしたとたん、現実に引き戻された。
即ち、街中街道ど真ン中。
即ち、周囲には綺麗な円が出来上がり、そのまさに中心部に自分が位置することに。
判断し、一テンポ外れて…瞬間、一気に真っ赤になった。
「あら、ダーリン?どうかなさったの?」
「―――…から」
「え?」
「頼むからオレに近づくな―――ッ!!!」
「あ、ダーリンッ」
脱兎の如く走り去ったキールの後ろ姿を見送りながら、少し遅れてレイヴィアは不適な笑みをもらした。

「ワタクシから逃げられると思わないでくださいませね?」



 後日談***

美しい女が一人の少年に「ゾッコン」らしいという噂が、その街を中心にまことしやかに囁かれ、知るものは皆、彼の「大泥棒」と「押しかけ女房」に間違いないと知り得ていることを、知らないのは本人達だけだというのは、いささか皮肉なものかもしれないと、誰かが彼らに教えたとか教えないとか・・・。
どちらにせよ、こちらのほうが先の噂に比べ信憑性はないという・・・・・・。




        
  


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