イタリアからのメールだ。どうすりゃいい!?
イタリアの美しい町に住んでいる友人と
連絡がつかなくなって何ヵ月たったろう。
毎日白いお米を炊いて食べるという彼のために
新潟では白米を買った。
この秋に届けに行こうかと思っていた。
でも、メールの返事が来なかったのだ。
彼の出身地はクルディスタンである。
そう、彼はクルド人。
クルディスタンという国は、歴史上数年のみ実在したが
今はどこにもない。
幻の国の名前だ。
トルコやイラク、イランにまたがる地域である。
彼は裕福な家庭に生まれたらしく、
バグダットの大学を出たあとイタリアの美術大学に留学し
卒業後何年か経ってからのイタリア放浪中に
魅せられてしまった美しい町に住み始めたと言っていた。
画廊のオーナーで、そこで自分の絵を売っている。
翻訳の仕事もしているし、
かのタバッキが、彼について短文も書いている!!
用がなければメールはしないが、
イタリアに行くなら、ついでにお米を渡しがてら会いたい、
気に入った絵があれば買っておきたいなどと思い
ときどきメールを送っている。
普段はすぐに来る返信が、最近はまったく来ない。
この秋のイタリア行きはなくなったけど、
3月までには返事が来ますように!と思いながら
相変わらず、今もたまに送ってみる。
彼の兄妹はオランダなどの西側ヨーロッパ在住。
でも、親や親戚は、まだまだクルディスタンにいる。
心配で様子を見にイラクまで帰ったにしても
長すぎる。
最近ではなかば諦めながら、でも、もしかしたらと
昨日も送ってみたのが、夕方の6時、
「あなた、大丈夫?
何度か送っているメールにお返事が無いけれど
お返事待ってます。」
と短いメールを送ったら、1時間半後の夜7時半、
ダニエラという女性名でメールが入ってきた。
私のアドレスに日常的に英文のメールがくることはない。
忘れた頃に、たまにだ。
当然のことながら、みな自分の名前とアドレスで送ってくる。
だから、ダニエラは、Jalalに送った私のメールを見た人物に違いない。
送信アドレスは、ダニエラの名の入ったもので
もちろん、初めて見るメルアドだ。
ダニエラは、自己紹介はいっさいしていない。
たぶん、いつか送ってくれた写真に一緒に写っていた女性だろうと思う。
が、違うかもしれない。
その後に付き合っている彼女かも。
短い文章はブロークンの英文だ。
イタリア人なのか。
タイトルは、D.Essとある。
どういう意味?
………………
Hello dear,
Please I look forward to read from you at the shortest possible of
time . It is very important . Contact me through email
only . Here is my email address ;
My regards,
Danyella
………………
これは、何?
Jalalに何かあったのか?
『the shortest』という言葉に緊迫感を感じる。
Jalalがスパイの嫌疑をかけられ
もしくは、ほんとにスパイで、
ダニエラという名を語った警察官が送ってきた
炙り出しメールかもしれない。
それとも、イラクに帰ったJalalが怪我をした?
死んじゃった!?
まさか!!
シンプルに信じるなら、
Jalalのガールフレンドが彼の消息について教えてくれるということ。
彼は結婚で人生を縛られたくはないといって
猫を伴った独り暮らしをしていたが
留守宅をガールフレンドに託している
ということは充分ありうる。
じゃなぜ、ダニエラは、自己紹介をしない?
何故ダニエラは、このメールで何かを言わず
私からの返信を待っているのだ?
どちらにしても、よい話はここでは聞けないだろう。
返信してみたい衝動に負けそうになりながらも
今は我慢あるのみか。
厄介事に巻き込まれるのはごめんだ。
だが、ダニエラが本当のJalalの留守宅をあずかるガールフレンドだったら?
病気入院した?
いや、期間が長すぎる。
何ヵ月も返信がなかったのだもの。
悩ましい。
どうすりゃいい?
正解は、無視することとなのか。
でも……