笑顔
僕は、笑っていたその男に向かって僕は、笑っていたその男の肩越しのガラスに写る僕の顔はその笑顔を維持しようとして酷く歪んでいるようだったああ、今の僕の姿が卑屈ということなのだろうすでにその時僕は失っていたのだろう人間としての大切な何かを仕方が無いじゃないかこの人に嫌われるとこれからの生活が苦しい物になるその時僕はそう思った自分の卑屈さをごまかす為に現実の生活を理由にして僕は、まだ独りにはなりたくはなかった自分の気持ちに嘘をついてもそこにいなければならないと思っていただから僕は笑っていたいつもその歪んだ笑顔を顔に貼り付けて笑いが僕の心を空っぽにしていく彼女は独りだった彼女の周りには世界があった荒野に直立する太い樹のように荒んだ世界に独りで立ち向かっていたそこには媚もへつらいもない怖いこと僕が恐れること寂しさや痛み、死ぬこと彼女はそれらにも真正面から立ち向かっていた人生が妥協の産物だとすれば妥協せずに生きて行く為にはある程度の力が必要になる僕のような卑怯者は妥協しながら適当に楽しいと思って生きて行くしかないと思っていた大事な事はなにがなんでも勝ち残ること後ろに隠れていても最終的に生き残って倒れて行く者を踏み越えて欲しい物を手に入れる事彼女は、恐れずに自分が対峙している世界の理不尽さにそれがどんなに強い向かい風でもしっかり前を向いて立ち続けていた僕の憧れだったその姿は僕にとっては眩し過ぎて遠くから見ているだけだったけれども彼女は微笑んだ不敵にも来るなら来なさいというように微笑んだその笑顔こそが僕が本当にしたい笑顔だった