2007/02/24(土)21:23
至福の時~「N響スーパーカルテット」
N響の首席ヴィオラ奏者、店村眞積さん率いる、N響のメンバーによるカルテットの演奏会が、
「かたくら諏訪湖ホテル」で行われました。
メンバーは、第1ヴァイオリン:齋藤真知亜さん、第2ヴァイオリン:大宮臨太郎さん、
ヴィオラ:店村眞積さん、チェロ:藤森亮一さんという、錚々たる顔ぶれ。
名づけて「店村眞積とN響の仲間達」、または「スーパーカルテット」。
自由席なので、席の確保のため開場後の早い時間に行ってみると、エントランスホールの
テーブルで、お茶を召し上がりながら歓談されているメンバーの皆さんのお姿が。
いつもN響のコンサート番組でお見かけするお馴染みの方々が、自分の目の前に・・。
ほどなく席を立たれて、すぐそばを通られた店村さんに、思わず頭を下げると、笑顔で応えて
くださいました。
わたくしの第2のアイドルともいえる大宮さんの生の演奏を聴くのは、2000年の日本音楽コン
クール以来。本当に楽しみでございます。
演奏曲目
モーツァルト:弦楽四重奏曲第17番変ロ長調K.458「狩」
ドヴォルジャーク:弦楽四重奏曲第12番ヘ長調op.96「アメリカ」
バルトーク:弦楽四重奏曲第6番Sz.114
ホテルのHPで当初告知されていた曲目には、ハイドンの「ひばり」がありましたが、店村さんの
「今日はどうしてもモーツァルトを弾きたい!!」との強いご希望で、急遽モーツァルトの「狩」に
変更になったそう。プログラムはもちろんハイドンのまま。本当に急な変更だったのですね。
モーツァルトといっても、ハイドンに献呈した「ハイドン・セット」の中の一曲でもありますし、まあ、
文句はございませんが、「ひばり」を楽しみにして来た人間もいるのですよ~~、と、声を大にして
言いたかったです。(もちろん、言いませんでしたが)
ところがところが。
始まってみると、まあ、なんとモーツァルトによく似合う音!!!
この4人の創りあげる音楽は、きっと、やわらかくあたたかな音色ではないかと勝手に想像して
いたのですが、実際に聴いてみると、齋藤さんの、快活で何の屈託もない明るい音色が、
モーツァルトにぴったり!
そこへ重なる、やはり明るい藤森さんのチェロ。そしてお父さんのような懐の深さを持つ音色の
店村さんのヴィオラ。そしてそして、大宮さんの、あの頃と変わらない甘い音色。
それら4つの音がそれぞれの主張と融合を繰り返しながら織り成す、まさしく極上のアンサンブル。
「今日はモーツァルトで良しとしましょう」と、納得のゆく「狩」でございました。
第4楽章は、同行してくれた銀行員のお友達Mちゃんも「どこかで聴いたことがある」と言い、
彼女もとても楽しんでくれたようです。
続く「アメリカ」は、ドヴォルジャークが、ニューヨークのナショナル音楽院で校長をしている頃に
作曲され、先住民族や黒人の民族音楽に大きく影響を受けている曲。
親しみやすいメロディで、身体がいつの間にか揺れてきます。
演奏前に齋藤さんが、「メロディに耳が行ってしまいがちな曲ですが、どうぞ、メロディ以外の
パートのリズミカルな音にも耳を傾けてお聴きいただければ、より深くこの曲の魅力が理解できる
かと思います」とのお言葉のとおり、耳を澄ませると、各パートの役割が興味深く聞こえてきました。
いいですね、「アメリカ」も。特にノリノリと弛緩の対比が素敵な第4楽章が好きです。
帰ってから、手持ちのエマーソン・カルテットのCDで何度も聴こうと思いました。
休憩後、本日のいちばんの聴きもの、バルトークの6番。
まず、店村さんが、このカルテット結成に当たっての「なれそめ」についてお話しされ、「僕達は、
バルトークの6つの弦楽四重奏曲全曲を制覇することを目指している」とおっしゃいました。
昨年結成されたこのカルテット、6番が初の試みだそうで、今後の各曲への挑戦と熟成への展開が
楽しみでもあります。
バルトークの弦楽四重奏曲は、4番しか聴いたことがないわたくし。
でも、彼のふたつのヴァイオリン協奏曲も、ヴァイオリンのためのラプソディも、憑かれたように好き。
おおー。やはり思ったとおり、この6番も、見事にはまりました!
第1楽章から第4楽章まで、すべての楽章の冒頭に「メスト」(悲しみを持って)という指示が
ついています。
これは、当時ヨーロッパに広がったファシズムに反抗したため、ナチスドイツによって故国を追われ、
アメリカへと亡命せざるを得なかったバルトークの心情をそのまま語る音楽にほかならないのです。
嗚呼、不協和音でありながら、きちんと地に着いた音の世界が、故国ハンガリーへの強い思慕と
えもいわれぬ悲しみを、聴く者にダイレクトに伝えます。
第3楽章の各パートによる長いポルタメント、ピッツィカートの連続は、当時としては前衛も前衛、
反社会的な音楽とみなされたことでしょう。嗚呼、でも、それがバルトークの叫び!
だからこそ、平和を願う今の時代の、我々の心に強く残る音楽として引き継がれてゆくべき楽曲
なのだと思いました。
決して楽しい曲ではありません。でも、かといって、深刻になる必要もありません。
あるがままの音楽を受け入れ、作曲家の、楽譜にこめた意図に同調したり、反発したりする・・。
それが音楽の醍醐味なのです。
そう気づかせてくださった、今日のN響の4人の精鋭の方々に、心から感謝したい気持ちです。
彼らのバルトークにかける意気込みも、同時に存分に味わうことができた、充実の演奏でござい
ました。
「こういう重い曲を聴いていただいた後に弾く曲はなかなか見つからないのですが・・。」と、
譜面をめくりながらおっしゃる齋藤さん。アンコール曲についてのお話しです。
それでも、「先ほどのドヴォルジャークの歌曲を、作曲家自身が弦楽四重奏曲版にした『糸杉』
という曲を聴いていただきます。糸杉というと、細く高いイメージがありますが、あのノアの方舟も
この樹で造られたと言いますから、丈夫でしっかりした樹だということがわかりますね。
『糸杉』、大変美しい曲です。お聴きください。」
しっとりと、本当に美しい、心に残る曲。
「我が母が教え給いし歌」の、深遠の世界につながる共通のものを感じました。
弦楽四重奏も含めて、やはり室内楽は、生で聴くのに限りますね。
CDではわからない、各パートの「仕事ぶり」を目の前で見て、そして耳で楽しむ。
新しい発見にも出会えます。
演奏会後、カルテットのメンバーを囲んでのワインパーティーがありましたが、そちらには参加
せず、会場をあとにいたしました。4人の方々は、明日は九州でのN響の公演。
このあとすぐに向かわれるとのことでした。
さて、わたくしは、Mちゃんとの、楽しいお食事会が待っています♪