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La Vie・音楽とともに ~標高1,000mの高原だより~

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February 27, 2008
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カテゴリ:楽しむは音
マイクON

「さあ皆さん、家に帰る時刻になりました。教室や、廊下の戸締まりをして、帰る支度をしましょう」

マイクOFF


さっき、放送を始める前に下校時用の音楽のカセットテープを入れておいたデッキのボタンを押す。

流れてくるのは、ハイケンスのセレナーデ。

電子オルガンの軽快な演奏が、校舎や校庭に響きわたるのがこの部屋にいても聞こえてきて、

「大丈夫、ちゃんと流れている」と、ひと安心。

ここは、小学校の放課後の放送室。

どこかの民間の放送局から払い下げになったという、大きくてごつい放送機材をひとりで操るのは、

当時小学4年生の放送委員の私。

一週間のサイクルの放送当番は、朝の清掃時、昼の給食時から清掃終了まで、そして放課後の

下校時と、1日3回、放送室に出向く。一緒に当番を組んでいる5年生のふたりの男の子は、

早く家に帰って遊びたいので、この下校の放送はたいがい私ひとりだった。

曲は、いつも決まったところでフェイドアウトする。


マイクON

「教室や、グラウンドにいる人は、早く帰るようにしましょう。それでは皆さんさようなら、

O,S,H(O小学校放送室)」

マイクOFF

放送終了。

機材の各スイッチを切り、最後に電源を切ったことを確認して放送室を出る。

昇降口への通りがかりの職員室の前の廊下には、だいたいこの時、腕に水色と黄色の腕章を

付けた週番が整然と並んで見回りの報告をしている。ランドセルを背負った私は、その後ろを

早足で通り過ぎる。

木造校舎の縦長の格子窓から入る、夕刻の斜めの光は淡いセピア色。

さあ、家に帰ろう。


あのセレナーデは、誰の何というレコードの演奏だったのだろう。

当時、放送委員会の顧問だったM先生は、今にして思えばかなりのクラシック通だったのでは

ないかとお見受けする。学校で流れる音楽は、すべてM先生に管理が任されていて、録音も

彼の手に寄るものだった。

朝と昼の清掃時の音楽は、グリーグの「ペールギュント」からの「朝」。

昼の給食時のBGMとして用意されていたテープはNo.1からNo.8くらいまであり、当番は毎日

取っ替え引っ替えそのテープを流した。曲名はどこにも書かれていなかったが、驚くべきことに、

すべてクラシックの曲だった。

バッハ、ヘンデルなどのバロックものから、ルロイ・アンダーソンやワルトトイフェルなどの

セミ・クラシックと呼ばれるものまで、実に幅広く変化に富んでいて、中には、チャイコフスキーの

ヴァイオリン協奏曲、メンデルスゾーンの交響曲第4番「イタリア」、グリンカの「ルスランと

リュドミーラ序曲」などの名曲を短くアレンジしたものばかりが延々と続くテープまであった。

つまり、今でいえばクラシックの「美味しいところをオムニバスで」のノリになるのだろう。

その後の歳月を経て、それらの曲の「本物」を聴いた時の衝撃は大きかった。

あの当時(「昭和のよき時代」・・としておきましょう・笑)、そのような「革新」的なレコードが

既にあったことも、驚きに値する。

近年、あの複数のテープの音源を知りたいという気持ちがむくむくと頭をもたげてきたが、受け持ちの

学年が違ったM先生の消息を知る術もなく、たいへん残念に思う。

私のクラシック音楽への道標となってくれたあの赤いテープたち。

今はどうしているだろうか。

録音時間が足りなくて、途中で曲が切れていた、ヘンデルの「調子のよい鍛冶屋」、シューベルトの

「アヴェ・マリア」・・。



もうすぐ小学校を卒業する1麻呂は、今年度、放送委員長を経験させてもらった。

彼らの小学校で、朝の読書の前に流れるボッケリーニのメヌエット、清掃の前に流れる

チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番・・。それらの曲を、彼も私のように、懐かしく思い出す日が

来るのかもしれない・・。

それが、私のように、やさしい思い出でありますように・・。



ハイケンスのセレナーデ。皆さまも一度はお聴きになったことがあるかもしれません。

「ああ、この曲!」と。

昭和50年代まで、旧国鉄の車内の音楽としても使われていたそうです。



今日は、長い昔話にお付き合いいただき、ありがとうございました。





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Last updated  February 27, 2008 11:07:56 PM
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