La Vie・音楽とともに ~標高1,000mの高原だより~

2008/05/14(水)21:31

~シリーズその2~アラウ&ジュリーニ&フィルハーモニア管弦楽団によるブラームス

楽しむは音(136)

~ブラームス:ピアノ協奏曲第1番ニ短調op.15への誘い~ シリーズ第2弾は、クラウディオ・アラウの演奏盤をご紹介。 ジュリーニ指揮、フィルハーモニア管弦楽団による共演。 1960年、今からもう50年近く前の録音です。 当時アラウ氏は57歳。円熟の極みに達した彼のブラームスは、聴いていると、深い懐に抱かれて いるような、なんだかとても安心した気持ちになってくるのです。 そう、これは、とても「男気」、「男前」の、日本の理想のお父さんのようなブラームス! 第1楽章、ジュリーニ特有のゆったり落ち着いたテンポで始まります。 存在感のある、太く頼もしい金管パートの響き。これも、お父さんみたい。 ソロの導入部、時代を感じさせる低いピッチのピアノ(ベーゼンドルファー??わかりませんが)は、 聴く者に、「ぬくもり」を感じさせます。そう、短調の「もの悲しさ」よりも。これは不思議な感覚です。 楽章中、1stヴァイオリンの第一プルトとのコラヴォレーションが2箇所、調性を変えて出てきますが、 ここをこれほどまでに美しく息を合わせ、重ねられる演奏は、ほかにありません。 第2楽章は、人生の岐路で躓いて悩んでいる者を、やさしく慰めているようです。 やっぱりお父さんだ。 俗に「クララへの、祈りにも似た思慕」と言われる3声による静かな旋律、これも何回か調を変えて 現れますが、殊に楽章の終息へ向けた86から94小節では、「大丈夫、道はきっと開けるよ」と、 アラウお父さんは諭してくれます。 第3楽章、左手がよく鳴るピアノ。オーケストラは、終始控えめに寄り添います。 66小節からは、人生への讃歌を力強く歌い始めるアラウ。 統率のとれたオーケストラは、ジュリーニの伏兵。彼らは、壮大なフーガの部分も、大袈裟にならずに でも決してぶっきらぼうでもない、ちょうどよい「さじ加減」で。 これがジュリーニの「武士道」かな・・。 「幻想的に」と表記のあるカデンツァは、たっぷりとあたたかな情感をこめて・・。 やっぱり、このブラームス、受ける印象は、日本のお父さん!真面目で堅実で家族思いの。 どっしりと、「普遍的な父性」に溢れたブラームスを、あなたもどうぞ。 アラウといえば、以前も書きましたが、私にとっては幻のピアニスト。 1988年だったか、89年の、オーチャードホールでのリサイタルのチケットを買い、私にとっては 初めてのアラウの演奏会だったのですが、「演奏者急病につきキャンセル」となり、以後、再び彼が 日本の土を踏むことはありませんでした。 でも、実は、病気は本人ではなく、彼の奥様で、その後間もなく奥様は亡くなられ、彼自身もまるで 後を追うように亡くなってしまった・・・という話を、ずっと後になって知ったのでした。 人生には、「運命の出会い」もあれば、「運命のすれ違い」もあるのですね。

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