ＬＩＦＥ　WHITH　ＴＨＥ　ＭＡＲＴＩＡＬ－ＡＲＴＳ

　私が最初に入門した柔術道場は、総合武術を標榜する流派のものだった。
　これは、柔のみならず、剣や槍なども稽古するということだ。
　そもそも、柔術というものには素肌柔と呼ばれる物と甲冑柔と呼ばれる物がある。
　これ、例外も多いのだが大要としては、徒手で行う物が素肌柔、鎧を着て武器を携えた状態で行うものを甲冑柔という。
　つまり、本格的に素手なのか、あるいは武器を持った上で体術を行うものなのか、と言ってもいい。また、刀を使った居合い柔なんてのもあるからホント、獏とした分け方ではあるのだけれど。
　異常のような分け方で行くと、本来先の道場は甲冑柔という風に思われそうだけれど、実は完全な素肌柔が主体であった。
　そして、それとは別に、他流から取り入れた刀などを行っている流派であった。つまり、いくつもの流派を別々に学んで取り入れたもので、それが原因で一部不評をかっていたりもした。
　しかし、当時の私にとっては、刀だ槍だは現実味の無い遠い話であって、まずは実戦における徒手の技術を体得するのが第一であったので、そんな業界のうわさなどはまったく関係が無かった。
　その流派は、フレキシブルな取り入れ方をしているだけであって、かなり格技的、実用的な体術を行っていた。
　しかし、大きな問題と直面することになった。
　歳の近い練習生が居ない……。
　子供か、ずっと年上、あるいは更に上の人々ばかりなのだ……。
　あるとき、年かさの先生と稽古をしていたおり、ただ接触しただけで先生が肉離れを起こしてしまうという事件がおきた。軍隊格闘術の世界で大柄な外国人兵士達と訓練をしていた人間には、ちょっと場違いなところであった。
　もちろん、技術をただ体得すればよろしいのだが、しかし、いかんせんぶつかり合うような稽古を持っているだけに、そこに大変厳しい状況が発生した。
　しかし、それ以上の問題があった。
　それは、練習してる皆さんが、ほとんど伝系や技術に対して学問的認識を持っていないことだった。
　何か体を動かすか、とか、精神的なものを求めて稽古に励んでいる皆様が多かったため、実際にヒトと戦うということ、現実の技の威力などについて、まったく見識がある人が居なかった。
　上述の先生などは、「極真は顔面への突きは禁止しているけど蹴りは禁止していないから、顔面は蹴ってもあまり利かないのかなあ？」などと言っていた。
　更に最たるものはある先輩の「柔術ってのは柔道の変形みたいなもんなのかね？」という素朴な疑問だった。
　これは……ここに居ては分からない。そう思った。
　やってる人たちが良くわかってないところで学んでいても、柔術の本当を勉強することは出来ないという焦燥に駆られた。
　そんな折、仲の良かった年上のあるすれっからしの同門が言った。
「オレはシュミでやってるだけだからいいけど、あなたはもったいないよ。こんな流派ただのジジイどものお遊びだよ。同じ柔術でも、前に○○流の道場破りが来たときには、手も足も出なかったってんだから」
　なに！
　道場破り！
　この時、その○○流の名が強く印象に残った。
　これは、○○流、研究せねばならんのではないか？　そう思った。