masalaの辛口映画館

2009/10/27(火)23:52

映画「ディア・ドクター」@映画美学校第一試写室

ブロガー試写会(31)

 今回は「Yahoo!映画ユーザーレビュアー試写会」で、沢山のレビュアーさんが招かれ試写室も満席となった。映画上映後には西川美和監督を招き観客とのティーチインが行われた。  ディア・ドクター 映画の話  都会の医大を出た若い研修医・相馬が赴任してきた山間の僻村には、中年医師の伊野がいるのみ。高血圧、心臓蘇生、痴呆老人の話し相手まで一手に引きうける伊野は村人から大きな信頼を寄せられていたが、ある日、かづ子という独り暮らしの未亡人から頼まれた嘘を突き通すことにしたことから、伊野自身が抱えいたある秘密が明らかになっていく……。  映画の感想  非常に混沌としたモヤモヤが残る作品だ。映画は田舎の診療所から医師・伊野が失踪した事で村中が大騒ぎしている所から幕を開ける。村から捜査依頼で警察が村人から聴取が始まる。映画の軸は2ヶ月前に医大を卒業したばかりで村に赴任してきた研修医・相馬の視点を中心に現在と過去が交差しながら描かれる。  以下ネタばれ注意  伊野は村人から「神様仏様」と崇められる医師であるが、実は医師免許を持たないニセ医者である。映画は村人の証言と伊野の下で働いていた相馬と看護師の証言で伊野という人物像を浮かびあがらせる手法がとられている。伊野を演じるのは落語家の笑福亭鶴瓶だ。鶴瓶は確かにこのつかみどころの無い役には適役である。しかし映画は相馬のいた2ヶ月間に絞られていて、伊野の過去がまったく見えてこないのは致命傷である。伊野がどのような経緯を辿り村の医師になったのかも不明であり、伊野の過去も台詞のみで語られるので混沌とした人物像しか浮かばない。医者であった父を持つ伊野が感じた劣等感や心の葛藤がまったく見えてこない。映画は一番大事な部分がスッポリと抜け落ちてしまっているのは駄目である。そして、無医村であった村の診療所に何故か胃カメラがあったり、専門医でもない伊野が胃カメラを操作したりでリアリティの欠如は否めない。  私は西川美和監督作品を見るのは初めてであるが、監督は多くを語らないで大事な部分は観客に委ねる形をとる作風なのかもしれないが、要となる伊野が映画を見た後に「実在しない人間だったのでは」と思わせるくらいに薄っぺらな存在なのはどう考えてもおかしい。監督がティーチインの時に「伊野に自分自身を投影した」みたいな事を言っていたが、正にその通りかもしれない。「自分はいつのまにか映画業界に紛れ込み、監督として高く評価されているけどそんな偉い人間ではない」みたいに監督は思っているらしいが、その監督の迷いがそのまま映画に投影されてしまったように思う。  映画は全然違うが、私が尊敬する野村芳太郎監督「砂の器」(74年)は、 偽りの人生を歩み殺人を犯した主人公がどの様な経緯を辿り殺人に至ったかを二人の刑事が足の捜査で地道に追う物語だ。映画のポイントは何故、犯人が偽りの人生を選ばざる得なかったかが幼少期の回想と言う形でキッチリと描いたおかげで、主人公の心の葛藤が手に取るように観客に伝わり、主人公の人物像もクッキリと浮かび上がり心の内も読み取る事が出来た。本作の主人公は人物像がまったく見えてこないために心の内が読み取る事が出来なかった。その為に映画全体が煙に巻かれた印象でモヤモヤとした後味である。そして観客に媚を売るようにとって付けた様なエンディングも姑息である。  映画「ディア・ドクター」の関連商品 ディア・ドクター オリジナル・サウンドトラック/モアリズム[CD] 【七夕セール!】 蛇イチゴ(DVD) ◆25%OFF! 【七夕セール!】 ゆれる(DVD) ◆25%OFF!

続きを読む

総合記事ランキング

もっと見る