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趣味の漢詩と日本文学

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November 28, 2009
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【本文】廿九日、船出して行く。うらうらと照りてこぎゆく。
【訳】正月二十九日。今日はようやく船を出して行く。久しぶりにうららかに日が照って海原を漕ぎ進んでゆく。

【本文】爪のいと長くなりにたるを見て日を数ふれば、今日は子の日なりければ切らず。
【訳】爪がとても長くなってしまっているのを見て、こんなに伸びるほど日数がたっちゃったかなとおもって改めて数えてみたら、今日はちょうど子の日の節句であったので、切るのをやめた。

【本文】正月なれば京の子の日の事いひ出でて、「小松もがな」といへど、海中なれば難しかし。ある女の書きて出せる歌、

「おぼつかなけふは子の日かあまならば海松をだに引かましものを」

とぞいへる。
【訳】正月であるから、都の子の日の行事を思い出して、「小松があればなあ」と言ったが、海の中だから入手困難だなあ。ある女性が書いて差し出した歌、
「定かでないが今日は子の日だったかしら、もし私が海女だったらせめて小松の代わりに海松だけでも引いて手に入れるのになあ」と書いてある。

【本文】海にて子の日の歌にてはいかがあらむ。又ある人のよめるうた、

「けふなれど若菜もつまず春日野のわがこぎわたる浦になければ」。

かくいひつゝ漕ぎ行く。
【訳】海での子の日の歌としては出来栄えはいかがなものであろうか。また、その場にいる人が詠んだ歌、
「子の日の節句は今日であるが、若菜さえも摘まない、春日野が我々の漕いで渡る海岸には無いから」
こんなことを言いながら漕ぎ進んで行く。

【本文】おもしろき所に船を寄せて「ここやいづこ」と問ひければ、「土佐のとまり」とぞいひける。
【訳】美しい場所に船を漕ぎ寄せて「ここはどこか」と船頭に質問したところ、「土佐の泊まり」だと答えた。

【本文】昔、土佐といひける所に住みける女、この船にまじれりけり。そがいひけらく、「昔しばしありし所の名たぐひにぞあなる。あはれ」といひてよめる歌、

「年ごろをすみし所の名にしおへばきよる浪をもあはれとぞ見る」。
【訳】むかし、土佐という場所に住んでいた女が、この船の客にまじっていた。その者がいうことには、「昔、ほんのしばらく住んでいた場所の名と同じだ。なんだかしみじみする」と言って詠んだ歌、
「何年も暮らした地名と同じ名を持つ場所だから、やってきて打ち寄せる浪をもしみじみなつかしく感じられる」。





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Last updated  November 28, 2009 04:23:14 PM
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