2868513 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

マックス爺のエッセイ風日記

マックス爺のエッセイ風日記

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2015.01.30
XML
カテゴリ:読書
きりきり人.jpg

 長い長いミッションだった。昨年の暮れに読み始めた本を、昨日ようやく読み終えた。読んだのは井上ひさしの『吉里吉里人』で、新潮社から昭和58年に出されている。その時点で第30刷となっており、初版はその2年前だったようだ。サイズは四六判で834ページ。文庫本なら6冊分にはなると思う。この大著を読んだ理由は、本が以前から家にあったため。恐らくは文学専攻の長女が読んだのだろう。もちろん古本。我家にある本のほとんどが古本だ。大笑い


         吉里吉里国歌  国歌.jpg

 10年以上前にも一度読もうとしたことがあった。井上ひさしの代表作のこの本は有名で名前を知っていたし、一頃話題になってもいた。だが少しだけ読んで読むのを止めた。何だか面倒になったのだ。今回もそうだったが、今度こそ最後まで読もうと頑張った。最初の書き出しからしつこい描写が延々と続く。それで厭になってしまうのだ。今度はその壁を何とか乗り越えることが出来た。


本立て.jpg

 一言感想を言うならば、奇想天外なストーリー。東北で生まれ、東北で育った彼にしか書けない本だと思う。吉里吉里国と言う名の国が突如日本から独立して誕生し、最後はそれが崩壊に至るまでの経緯を丹念に追う。書かれた言葉の大半は吉里吉里語。つまり東北地方の方言だ。それにかなりの頻度で卑猥な言葉が出現する。私はどちらも不得意な分野ではないため、直ちに「日本語」に通訳しニヤニヤしながら読んでいた。そう、この吉里吉里国はわが故郷である宮城県の最北部に誕生した仮想国なのである。


                  像1.jpg

 吉里吉里国には独特の理念が存在する。金本位制に基づく経済体制、有機農業を中心とした農業政策、世界が羨む最先端の医療システム、そして政治体制は民主的で明快。村民は4千人ほどだが、最先端の医療を受けに世界中から患者が集まるため8千人に膨らんでいる。それにこの国では動物を合体させた奇妙な生物や、動物と野菜を組み合わせた新たな生命体が誕生している。空想の世界ではあるが、時代を先取りしたユートピアなのだ。


本人2.jpg

 井上ひさし(1934-2010)は、山形の寒村で生まれた。なぜか父親の戸籍に入らず、仙台の孤児院に預けられた。高校は県内で最優秀の仙台一高。当時は男子校だ。第二女子高に通っていた若尾文子(後に女優)を見染めたのは地元では有名な話。施設の推薦で東京の上智大学に進学したが中退し、一時岩手県の病院に勤めたことがある。だから東北弁には堪能。自由自在に使えるし、元々彼の語彙は豊富なのだ。


                  像2.jpg

 NHKの人形劇『ひょっこりひょうたん島』は彼が脚本を書いた。まだ白黒時代の放送だが、あれは愉快で楽しい話だった。若い頃はストリップ劇場で喜劇の台本を書いていたこともあったそうだ。そんな下地がきっと『吉里吉里人』を生んだのだろう。最後は淋しい結末で私の予想は外れてしまうのだが、彼の思考を知るためにも読んで良かった古本だった。


像3.jpg

 私がかねがね興味を抱いていたのが、最初の奥さんである西舘好子さんとの離婚。私はてっきり奥さんの浮気が原因とばかり思っていた。なぜなら次の結婚相手が彼が関係した劇団の主宰者だったからだ。だが今回ネットで調べて、そうではないことが分かった。原因は夫のDV。つまり家庭内暴力だった。井上は遅筆堂の異名があるほど文章を書くのが遅く、編集者泣かせの作家だった。それで筆が進まないとイライラして妻を殴ったのだとか。


                  仏像版画.jpg

 締め切りが迫ると困った編集者は井上に殴らせるよう奥さんに頼んだそうだ。それで妻の頬は始終腫れ上がっていたのだ。小説の世界ならいざ知らず、これでは奥さんは堪らない。逃げ出すのは当然だろう。井上は仙台市文学館の初代館長で、彼が亡き後はお嬢様が彼のコーナーを引き継いだ。それで親しみがあったのだが、私の疑問は意外な結末で解けた。さて、今回が彼の著作を読んだ2作目。人間とは、そして人生とは実に不思議な存在だと改めて感じた次第。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2015.01.30 05:54:35
コメント(16) | コメントを書く
[読書] カテゴリの最新記事


PR


© Rakuten Group, Inc.