2020/05/11(月)09:16
コロナ便り(11)
~三蜜暮らしの中で思う~
三輪山
コロナ騒動中の大型連休で良かったと思えるのは、幾つかのドキュメント番組を観たことだろうか。ある夜、シンガポールの若い女性漫画家が、奈良県の三輪山周辺を訪れた話が私の興味を引いた。彼女は名前から見て中国系の人。恐らくは数百年前に貿易で来た華商の末裔なのだろう。その彼女が日本の神秘に憧れ、それをテーマにした漫画を描いている由。神秘性に魅力を感じるのは、民族共通のようだ。
大神神社拝殿
彼女は大神(おおみわ)神社権禰宜(ごんのねぎ)の案内で神社に参拝する。この神社は三輪山がご神体で本殿はなく、拝殿のみだ。ご祭神は出雲大社同様大物主で、古代豪族三輪氏の氏神。すると三輪氏は出雲族と言うことだろうか。神に捧げる酒=神酒(みき)もこの地が発祥で、新酒が出来たことを表す「杉玉」も大神神社に捧げたことが起源。
箸墓古墳
三輪山を望む纏向の地にあるのが卑弥呼の墓と伝わる箸墓古墳。宮内庁書陵部では第7代孝霊天皇の皇女である倭迹迹日百襲姫命(やまとととひももそひめのみこと)の墓として管理する。姫の夫は大神神社の祭神である大物主だが、夜中に姫を訪ねて来たのは白い大蛇。人間と動物の通婚と言い、巫女である卑弥呼伝説と言い、この地では神話時代がまだ生き続けているようだ。
拝殿前には蛇が好きな卵が絶えることなく供えられている。シンガポールの若き漫画家は姫と大蛇の絵を描いたが、少しも蛇は怖くないと言う。さらに日本の神はヒンズー教の神にも通じると言ったのには驚いた。実は毘沙門天や弁財天のように「天」が付くのは本来仏を守るヒンズー教の神々で、日本各地の祭で繰り出される山車(だし)もヒンズー教由来なのだ。
境内磐座神社の磐座
磐座(いわくら)を案内してもらった漫画家は、ここで強いパワーを感じると言う。この磐座が本来の神社。で最も古い時代は巨石が信仰の対象だった。三輪山の山頂にも磐座があるのだが、登山は許されても山上の磐座の撮影や登拝中に見聞きしたことを他人に話してはいけないとされ、神秘的な原始神道の姿を想定することが出来よう。私も山の辺の道を歩いた折、幾つかの磐座を目にした。
山の辺の道
明日香から奈良へと続く「山の辺の道」(やまのべのみち)はわが国最古の官道と言われている。私も何年か前に桜井市から天理市までの山すそを歩き、途中「箸墓」や幾つかの天皇陵を観たことがあった。だが曲がりくねってアップダウンがあるこの道が、なぜ古代の官道だったのか不思議に感じ、当時はまだ橋を架ける技術力が乏しかったために、山すそを歩いたのだろうと思っていたのだ。
ところが2年ほど前、ネットで調べ物をしてた時、古代の奈良盆地には「奈良湖」とでも言うべ巨大な湖かあったことを知った。そのため飛鳥時代から奈良時代前半にはまだ盆地には低湿地が多く、そのためどうしても山すそを歩く必要があり、あんな曲がりくねった「官道」になったのだろうと気づいたのだ。後世の官道は道幅も広くてほぼ直線で国府と国府をつないでいたと言われているのだが。
こんな風に長年疑問を抱き続けていると、ひょんなことから解決することがある。どんな番組でも学ぶべきことがあり、やがて点と線がつながって謎の解明に到る。面白きかな人生。面白きかな歴史と人間の世界。
さて、新型コロナ感染症への対応が成功して、り患者が少なかったシンガポールで、再び陽性患者が増えた由。その原因は外国人労働者だった。彼らは狭くて不潔なアパートに居住しているのだが、1部屋に10人くらい押し込められている由。さらに驚くべきことには10人のうち4人が陽性と言う状態だそうだ。つまり陽性と陰性の人が同じ部屋で起居しているのだ。
手厚く保護された自国民と、劣悪な環境にある外国人労働者たち。富める者と貧しき者。生き残る者と恐怖におののきながら死に行く者。これから私たちは、世界中でこんな光景を観ることになるのだろうか。生も死も決して平等ではないようだ。